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第7回海洋文学大賞受賞作品集

 事業名 海洋文学大賞の実施
 団体名 日本海事広報協会 注目度注目度5


第七回海洋文学大賞特別賞
 
受賞者 作家 陳 舜臣
 
受賞理由
 海を舞台とした壮大なスケールの歴史小説を執筆し、多くの国民に海と人々の深い結びつきや海への関心を高めた功績。
 
プロフィール
陳 舜臣(ちん・しゅんしん)
 大正十三年(一九二四年)神戸市生まれ。国立大阪外語学校(現大阪外国語大学)インド語学科卒業。西南アジア語研究所の助手を経て著述活動に入る。昭和三十六年「枯草の根」で第七回江戸川乱歩賞を受賞しプロデビュー。昭和四十三年に「青玉獅子香炉」で第六十回直木賞を受賞。「阿片戦争」(全三冊)、「戦国海商伝」上・下など海洋歴史小説を多く執筆。平成五年には琉球の歴史を描いた本格的な長編小説「琉球の風」のNHK大河ドラマ化で大好評を博した。平成十年勲三等瑞宝章を受章。
 
特別賞推薦のことば
 
選考委員 作家 半藤一利
 
 陳舜臣さんにはエッセイつきの漢詩集がある。『風騒集』と『麒麟の志』という二冊がそれで、わたくしは愛読している。海洋文学大賞特別賞受賞と決まったとき、ふと、「そういえば、嵐の海をうたった漢詩があったな」と思い、「怒濤飛沫」という言葉が脳裏に浮かんだ。家へ帰ってから二冊をパラパラとしてみたら、記憶はそうとうに違っていたが、つぎの詩がすぐに見つかった。
猛雨奔雷海角昏 猛雨 奔雷 海角昏く
怒濤飛沫洗乾坤 怒濤 飛沫 乾坤を洗う
殘波萬座添豪趣 殘波 万座 豪趣を添え
巻地風波接密雲 地を巻いて風波は密雲に接す
 題は「琉球台風」で、残念ながら太平洋上の怒濤飛沫とは関わりがなかった。わたくしの早とちりであったけれども、陳さんの海の、たとえば『琉球の風』にしろ、『戦国海商伝』にしろ、日本と中国の歴史的な海上交易を主題とする小説は、琉球を介在しなくてはストーリーの発展をみない。まんざら頓珍漢な連想ではなかったと、いまは自分で自分を慰めている。
 陳さんはいわゆる幅の広い作家で、現代小説や推理小説のジャンルでも傑作を書かれているが、どちらかといえば、海をはさんで展開される中国と日本の歴史小説のほうを、わたくしは好んで読んでいる。陳さんの歴史小説は、森鴎外や司馬遼太郎や大佛次郎らのそれとは違って、かならずしも歴史そのままを書こうとはしない。架空の佳人や遊侠を登場させ、物語にふくらみをもたせている。荒海を象徴するかのように波欄万丈なのである。歴史探偵を自称するわたくしには、まことにこれが興味深い問題ということになる。
 おそらく疾風怒涛の、動乱と変転ままならない中国近代の歴史を体験してきた人には、歴史というものは、ちょっと歴史資料を渉猟しただけでそんなにスラスラと書けるものではない、そんな単純なものではない、という厳しい歴史観があるのではあるまいか。
 
海洋文学賞部門選評
 
十川信介選考委員長
 受賞の三作、どれを「大賞」とすべきか迷ったが、相対的に、『不定期船 宝洋丸』が浮上した。不要な部分や装飾沢山の文章に難はあるが、老朽船で荒天とそれにともなう突発事故を克服した、乗組員の勇気と技術の記録を評価したい。日記の形式も成功している。
 『鳰の詩』は、先輩のしごきに堪え、いつのまにか「おか」で暮らせなくなった「かしき」の生活が、かなり上手に描かれている。ただ先輩たち全員の過去を説明しようとして、主人公への焦点が甘くなった。構想の立てかたに十分注意して欲しい。『帆船は止まらない』は、朝鮮戦争出撃時の脱走米兵と、母に取り残された兄弟の脱走記である。題材自体はおもしろく、出帆までのテンポも快調だが、その後の展開が弱い。なお全般に誤字・脱字・変換ミスがめだつ。投稿前に再点検をお願いする。
 
北方謙三委員
 六本の候補作のうち、ほんとうに海というものを感じさせるのは、二本か三本だった。その中で、『不定期船 宝洋丸』は、海と船と人が一体になり、貴重な体験がよく描かれていた。文章のうまさなどより、こういうものが大切なのである。なにを表現したいかが、よく伝わってきた。『鳰の詩』は、どこかノンフィクションふうで、人は書き分けてあるが、深さがいまひとつ足りない。『帆船は止まらない』はヨットをよく小説として描き出した。
 総じて、海によく眼はむけていたと思う。残るは、海を通した自己表現ということになるのだろうか。文章を書くという意義も、そこにあるのだから。
 
半藤一利委員
 前回は「大賞なし」という寂しい結果に終わった。今回もまた、ではせっかくの海洋文学奨励のための賞の名が泣く。文学賞は出してこそ意味がある。と承知しているが、最初から何となく気が勇み立たなかった。理由は一言、どれもこれも「文章がきちんと書かれていない」につきる。『不定期船 宝洋丸』は題材は魅力たっぷりながら、文章では首を傾けざるをえないところがここかしこにある。大賞でもかくの如し。いわんや他においてをや、ということになる。
 松本清張さんに新人賞応募の極意を聞いたことがある。清張さんいわく「簡潔な文章、はっきりしたテーマ、かっちりしている構成、それにつきる」。さらにつけ加えて「いい余韻が読後にあればさらにいい」と。参考までに記しておく。
 
海の子ども文学賞部門選評
 
十川信介選考委員長
 残念ながら本年度はやや低調で、「大賞」を選出するには至らなかった。『水平線に行きました』は、小学生の「私」が毎年海に小ビンを流す母の秘密を聞く話。少女時代、狭い港町に閉じこめられていた母が、ポールさんとの交流を通じて次第に外界へと心を開かれていく様子がたくみに描かれている。ただ、それを伝えられた「私」の気持がほとんど抜けているので、物語の枠の設定が生きていない。
 『なみだの穴』は、海にあるという「なみだの穴」という発想はおもしろいのだが、転勤族の父親に従って船に乗る少年も、少年の危機を救ってくれるストロングさんの造型も平凡である。『ぼくは魚のお医者さん』はよくある題材だが、低学年向けのかわいい作品として選んだ。
 
木暮正夫委員
 例年になく低調で、大賞に値する作品がなかったことをまず残念に思う。今回の最終候補十篇の多くは読者対象が小学校中高学年向けで、作品傾向がリアリズム系に片寄っていた。南の海を舞台にした『ケミチャの来る島』や、ナンセンステール風な『空中に浮かんだふぐ』が異色ではあったが、力不足。前者には細部の確かさ、後者には視点の統一と面白さに徹する大胆さが欲しかった。
 『水平線に行きました』は文章の感性とまとまりのよさを評価したが、母親が四年生の時の話にする必然性があるだろうか。『なみだの穴』も文章はうまいが、リアリティに難。『ぼくは魚のお医者さん』は海の魚たちの生態をふまえた幼年童話。作者ならではの個性の発揮が不十分ながら、読み聞かせをすれば子どもたちに共感されるに違いない。
 
上 笙一郎委員
 大賞に推すべき作品のなかったことが、返すがえす残念です。
 佳作三篇のうち、『水平線に行きました』(菅原裕紀)は、薄荷入りのゼリーのような印象。作中の「テトラポット」は、一般名詞ではなくて実は商品名なのですが、「防波礁」として普及してしまったので、まあ、止むを得ませんか。『なみだの穴』(馬原三千代)は、小ドラマをうまくスケッチしています。
 『ぼくは魚のお医者さん』(長谷川洋子)は魚の生態を人間職業に当てはめただけ、もっと空想の飛躍がほしいところ。
 印象に残った作品として、元始南島譚ともいうべき『ケミチャの来る島』(大西直樹)、兄弟愛を海にからめた『海中に沈んだ水中めがね』(矢野悦子)、少年の初旅を一生懸命に描いた『金毘羅丸』(林元子)がありました。今後の精進を祈ります。
 
木村龍治委員
 最終選考に残った十編の作品を読んで意外に思ったことは、子供の体験を描いた物語が六編もあったことである。『水平線に行きました』、『なみだの穴』は、このような作風の中で、よくまとまった作品である。『ぼくは魚のお医者さん』は、実際の魚の生態を下敷きにした童話で、ほのぼのとした感じがよく出ている。『ケミチャの来る島』は惜しくも選にもれたが、ストーリーに起伏があって、おもしろく読んだ。六部族の背景が描かれていないので、結婚、戦争、和解が唐突に感じられたのが残念であった。
 子供文学には、想像力豊かな夢のある作品がふさわしい。過去の受賞作品に捕らわれない独創的な作品を期待したい。







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更新日: 2019年12月14日

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