3. 適用範囲(Scope)[NK]
ISO 10303のPart215は、艦艇及び商船の配置に関して、3次元製品定義データ及びその構成状態を表わす情報の交換条件や適用範囲に必要とされる総合リソースを規定している。このリソースにおけるプログラムやデータ構成は、Product model内における特定の船舶の空間的配置の変更経歴や改訂追跡のためのデータを持つように作成されている。データ交換は、企業間システムで転送するデータを対象として、適用範囲を定めて行われる。これは、マルチユーザー向けの分散形データベース・アプリケーションをサポートするデータ・モデルと区別することになる。
注1 - Application Activity Model(応用活動モデル、以下AAMと略す)とは、ISO 10303のPart215の適用範囲の定義の基礎となるプロセスと情報の流れを図で表わしたものである。詳細は、4章を参照。
以下は、ISO 10303のPart215の適用範囲内のものである:
−船舶の一般区画を境界で区分し、空間的に分割された領域として示すデータ;
−貨物の保管、機関の運転、及び乗組員、乗客の居住のための区画によって船舶を仕切る物理的境界を示すデータ;
−入退室のコントロール、設計責任者の選定、あるいは特定の設計条件を適用するための領域によって船舶を区分する論理的境界を示すデータ;
−船型形状及び幾何学的サーフェースとの関連づけにより作成される区画の境界を定義するために必要となるデータ;
−ライフサイクルにおける設計段階において、区画の設計の改訂や設計変更の構成管理データ
−区画及び区域の機能を示すデータ
−船体ヒール、船体トリムの様々な組み合わせにおける貨物区画の容量を、記録するためのデータ;
−貨物区画に積み込む貨物の重量によって、船体構造に作用する荷重の大きさや位置を計算するために必要なデータ;
−隣接する区域決定に必要なデータ;
−共通の機能目的、船内の位置、もしくは機関システムによる連結によって関係づけられるスペースを示すデータ;
例−一組の左舷及び右舷の舷側タンクは、位置によって関係づけられるスペースである。
−スペースの寸法条件を示すデータ;
−エンジニアリング・パーツにより構成される機器及びあるスペース内に取り付けられた構造パーツを示すデータ;
−その船舶の領域における区画内の機器を示すデータ;
−その船舶のシステムにより、あるスペースに求められる設計要件を、定義するために必要なデータ;
−貨物、備品、消耗品(食料等)の定義、そして設計段階における解析の際とその船舶の運航中の際に区画及びタンクに各アイテムを配置するのに必要なデータ;
−異なる貨物の積み付けにおいて浮心位置を解析する為の積み付け条件の定義;
−損傷後の船舶の復原性計算をするのに必要となるデータ;
−単胴船や多胴船に適用されるデータ;
以下は、ISO 10303のPart215の適用範囲外のものである:
−構造隔壁及びそれ以外の船型表面の定義データ;
注2 船型形状はISO 10303のPart216のインスタンスを参照する。
−構造システム及びパーツの表現の定義データ;
注3 構造システム及びパーツはISO 10303のPart218のインスタンスを参照する。
−スペース内にあるエンジニアリング・パーツ及び構造パーツの位置、方位、若しくは幾何形状を定義するデータ;
4.1 はじめに[MES]
AAMはAPの対象業務、適用範囲、機能を利用者に明確に示すことを目的としている。本章ではAP215 ISのAnnex F. Application activity modelを解読しながら検証を行った。Annex F.2にはAP215に関係するAAMのIDEF0図式表記がShip AP全体図式と共に記述されている。Annex F.2の抜粋をAPPENDIX 4-1に示す。Annex F.1にはAP215すべてのアクティビティ(モデル化された業務または作業)の解説がアルファベット順に記載されている。APPENDIX 4-2にその1ページ目を抜粋して示す。(記述中*で示されたアクティビティはスコープ外である。)
4.2にAnnex F.2のアクティビティを階層構造にして示す。4.3では囲んだ内のひとつA1222 create preliminary general arrangementsについてAnnex F.1の解説部分の翻訳を行い、対象業務、適用範囲、機能の内容を確認した。4.4ではこの解読で得られた知見を示した。
Annex F.2のIDEF0図式表記よりアクティビティを抽出列挙すると以下のような階層構造になっている。四角で囲まれた部分がAP215のスコープを示す。
A1222 create preliminary general arrangements(一般配置初期検討作業)について文書解読を行った。(APPENDIX 4-1、A1222参照)A1222の作業は初期段階における区画についての計画を行う。
A1222は A1221(create preliminary hull form船殻形状初期検討作業...スコープ外)で得られたbasic hull parameters(船殻主要寸法)、A121(evaluate request & schedule bid-船主要求による見積作業...スコープ外)で得られたpre layout(初期配置)とoffer guidelines(方針)、floodable curves(可浸長)をインプット情報として作業が開始される。作業の制約条件としては、manufacturing restrictions(製造設備制限)、 owner request/requirements(船主の要求、要件)、 laws, rules, and regulations(法律、規則、法規)である。この作業により得られる情報(アウトプット)はgeneral arrangements(一般配置)、 weights and centres of gravity(重量、重心)、 volumes and centres(容積と容積中心)、 stability parameter(復原性パラメータ)、 trim(トリム)である。
A1222の内部作業は次のようになっている。以下はAnnex F.1から関連するアクティビティを抽出し翻訳を行ったものである。
A12221 define compartments
ここでの作業は主パラメータの初期値を決定する。主な項目は垂線間長、片深さ、喫水、船幅、載貨重量、排水量、ブロック係数である。また形状パラメーターとしては柱形係数、水線面積係数、中央横断面係数、水切角が挙げられる。
A12222 calculate capacities
ここでの作業はアンダーデッキスペース、燃料庫、タンク、機関室、二重底などの区画や船倉の容積計算を行う。
A122221 calculate capacities,holds,bunker,space
全ての区画に分けられた容積を数値積分にて算出する。
A122222 calculate underdeck space
すべての内部容積を算出する。
A122223 calculate tonnage,freeboard
トン数および乾舷計算を行う。乾舷計算の結果、予備排水量を決定する。
A12223 estimate weight
ここでの作業は軽荷重量を算出する。重量は船殻重量、機関重量、ぎ装重量、居住設備重量からなる。
A122231 evaluate hull steel weights
設計の初期段階において経験値より鋼材重量を見積もる。
A122232 evaluate machinery weights
予備装置も含めた機械装置に関する全重量の分布を決定する。
A122233 evaluate weights of outfitting and accommodation
ぎ装品重量および居住設備重量の全重量の分布を決定する。
A122234 calculate lightship weight
関連した重量分布を足しあわせ、さらに載荷重量分布も加えて排水量を求める。
A12224 calculate stability and trim
ここの作業では各種載荷状態における非損傷時/損傷時復原性計算、トリム計算、重心計算を行う。
A122241 define loading conditions
各種載荷状態において要求したペイロードが確保できるように容積の検討を行う。
A122243 check stability(intact,damage)
非損傷時復原性計算と損傷時復原性計算を行う。
損傷時復原性計算は可浸長曲線を用いて浸水時の浮力を保証する。このチェックは各種載荷状態、各種浸水状態について行う。
A122244 calculate trim
船体重量、貨物重量およびその分布にしたがいトリム計算を行う。
以上の作業記述よりAPの利用者には次のことが理解される。
最初のA12221 define compartmentsで決められたgeneral arrangementsが次の作業以降のすべての作業の元情報として用いられている。すなわち、A12222以降の作業において、参照あるいは継承できようなデータ構造をgeneral arrangementsは持っていることを示し、general arrangementsがこのAPのキー構造となるべきものであることが理解できる。さらにARMは上記作業が可能となるデータ構造定義がなされているはずであることが理解される。
AP215 AAMの文書解析よりAAMは以下のような役割をすることが確認できた。
・AP215の規定するデータ構造は、このAAMでリストアップされている全ての作業モデル間でやり取りできるデータを保持、管理、交換できることを利用者に示している。
・利用者がAPに則って自分の設計業務データを他社に渡すことを例にとると、まずその業務に一番近い作業モデル(アクティビティ)をもとに利用すべきデータ構造を見つけだすことから作業が始まる。
・AAMは開発者にとっては意図するAPの包括する業務の把握、APの適用範囲、APの機能の明確化を行うための方法論となる一方で、利用者にとってはSTEP交換のためのガイドマップになることを今回の文書解析で確認した。
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