日本財団 図書館


3.2.2 AP216: Ship Moulded Forms
 船の設計、建造、運航のライフサイクルの中で、船体モールド形状に関する製品データを対象としており、フェアリングを含む船型開発、数値水槽による推進抵抗計算、縦強度計算、復原性計算、耐航性・操縦性計算、タンクテストなどの活動をサポートしている。機能としては船体モールド形状(外板及び暴露甲板の形状、内部モールド形状)の定義やHydrostaticsに関する特性などのモデルを取り扱う。船体の幾何表現としてはオフセットポイント、3Dカーブ、曲面がある。なお、このAPの概要を図3.2.2-1に示す。
 
3.2.2.1 適用範囲(Scope)
 AP216には、以下のものが適用範囲に含まれる。
・商船および艦艇に関する船体モールド形状幾何の定義
・船舶のライフサイクル(初期設計、詳細設計、建造)の各段階における船体モールド形状幾何の定義
・mono hull forms(単胴船)、multi-hull forms(多胴船)、バルバスバウ、トランサムスターンや船体付加物を含む、船体形状を定義するモールド幾何形状の定義
・プロペラ、ラダーのモールド形状を記述するモールド形状幾何の定義
・キャンバーやシアーを含むデッキのモールド形状幾何の定義
・船体内部の区画境界を記述するモールド幾何形状や、構造あるいは非構造要素のモールド形状幾何の定義
・主要寸法、船種、造船所、船主、船級データ等の一般特性の定義
・船体形状、バルバスバウ、プロペラ、ラダーや付加物のモールド形状の記述に必要で、かつ流体静力学的な特性の計算に要求される設計パラメータの定義
・排水量、浮力中心、浮揚中心、メタセンタ高さ、復原力交叉曲線等の船の喫水に依存する船体モールド形状に関する流体静力学的な特性の定義
・配置目的のために造船において使われる、グローバル・ローカル座標系とスペーステーブルの定義
・次の幾何表現の一つを使用して記述した、船体モールド形状の定義
- offset table representation(オフセットテーブルによる表現)
- wireframe representation(ワイヤーフレームによる表現)
- surface representation(サーフェースによる表現)
・ウォーターラインやバトックライン等の造船で使う幾何学要素に関する幾何表現
・モールド形状とそれに関連した静水特性の承認及びバージョン管理
 
 以下は、適用範囲に含まれない。
・モールド形状の上に定義される外板の製品定義データ
・船の区画と配置に関連する製品定義データ(AP215参照
・船の構造と組立てに関連する製品定義データ(AP218参照
・船の機器類と上部構造に関連する製品定義データ
・プロペラ、ラダー、制御面のメカニカルシステムおよび材料
・船のライフサイクル上で就航を離れた後の製品定義データ
・運動性能や操縦性能のような船の流体力学的特性
・船の損傷時の復原性能(AP215参照
・船の縦強度
 
図3.2.2-1 AP216の概要
AP216(Ship Moulded Forms: 船型情報)の概要
(拡大画面:54KB)
(Fig.3.2.2-1_AP216.ppt)
 
3.2.2.2 機能単位(Units of Functionality)
 この章では、ship moulded formアプリケーションプロトコルの機能単位について定義されており、以下のような機能単位がISO10303-216で定義されている。
 
・basic_geometry
造船学について述べられ、ship moulded formの表現に使われているpoints、curves、surfaceのカテゴリーを備える。
・configuration_management
Approval(承認)、Version(バージョン)そしてship moulded forms定義の変更(Change)を追うための変更履歴を指定する。
・definitions
項目の定義、構造そして関連付けのための概要を表す。
・external_references
製品モデルのデータをセットするための情報参照を行うと同時に、データの交換や共有のために外部から与えられたデータを参照する能力とメカニズムを備える。
・hull_class_applicability
船で使わるクラスにおいて、全て又は特定の船体と要素の関連付けを可能とする。クラスデザインは、全ての要素が船のクラスと関連付けられており、デフォルトでclass内の要素は全ての船体に適用される。
・hydrostatics
平水中で排水量を構成するextreme formをベースとしたhydrostatic属性の計算結果を備える。
・items
構造項目のコンセプトと同様のitemsコンセプトが反映されたもの、itemインスタンスが集められた項目関係、それぞれの定義方法で関連づけされた項目により船の一般的幾何構造を取り扱う。
・location_concepts
デカルトの”右手の法則”による3次元表現により表され、船体やあるポイントの位置情報を指定する。またそれは座標系のなかでポイントの参照起点となるため、軸は一定間隔で細分化され表される。
・offset_table_representation
offsetポイントテーブルによって幾何形状を表現するための情報要求を備える。
・ship_design_parameter
完成した船型情報を構成するため、それぞれの型状情報を定義する寸法要素を備える。
・ship_general_characteristics
基本的な船の詳細寸法と識別情報を記述する。この情報はあらゆる幾何コンテキストが独立しており、船の主要目、船に関連する造船所、船級、全てのルールと法規情報も含む。
・ship_measures
物理的な量を表すための情報手段を定義する。
・ship_moulded_forms
型状作画、船型情報の型状構成、型状表現そして対称属性の取り扱いに関する情報要求を備える。
・surface_representations
型状表現するための情報要求を指定する。
・wireframe_representations
wireframeとして型状表現するための情報要求を記述する。
 
3.2.2.3 適合性クラス(Conformance Class)
 このパートでは、ISO10303-216で述べられている満足要件、サポートされている実装方法、そして標準参照について記述されている。
 
 先ずこの規格を実装するには、ISO 10303-21、22、28の実装方法の少なくとも1つの規格がサポートされ、実装方法に関する定義要求は、ISO10303-216のAnnex Cで定義されている。
 
 次にプロトコル実装適合性宣言(PICS)様式は、実装中に含まれるオプションまたは実装中に含まれるオプションのコンビネーションがリスト化されている。これらのオプションは次のような適合性クラスにグループ化され、Unit of function(機能単位)は適合性classに表.3.2.2-1の様に属する。
 
- Class1 hydrostaticデータを交換するためのクラス
- Class2 offset tableのようなmoulded form幾何データを交換するためのクラス
- Class3 wireframe representationのようなmoulded form幾何データを交換するためのクラス
- Class4 surface representationのようなmoulded form幾何データを交換するためのクラス
- Class5 surface representationとhull applicabilityのようなmoulded form幾何データを交換するためのクラス
 
表.3.2.2-1 Conformance classes
Unit of Functionality Conformance class
Class 1 Class 2 Class 3 Class 4 Class 5
Basic_geometry   X X X X
Configuration_management X X X X X
Definitions X X X X X
External_references X X X X X
Hull_class_applicability         X
Hydrostatics X        
Items X X X X X
Location_concepts X X X X X
Offset_table_representations   X      
Ship_design_parameter X X X X X
Ship_general_characteristics X X X X X
Ship_measures X X X X X
Ship_moulded_forms X X X X X
Surface_representations (AIC 508)       X X
Wireframe_representations (AIC 501)     X    
 
3.2.2.4 テクニカルディスカッション(technical discussion)
(1) 船舶プロダクトモデル
 STEPの狙いは、製品の生涯を通してコンピュータが解釈可能な中立のフォーマットで明確に表現するプロダクトモデルを開発する機能と方法を支援することである。船の複雑さを考慮して、機能の範囲によって幾つかのAPへの分割が認められた。その概略を図3.2.2-2に示す。
 
図3.2.2-2 Ship Product Model
 
(2) Ship Common Model (SCM)
 全ての船舶APのための共通フレームワークとモデリング基盤を定義するもので、船舶AP間でインターオペラビリティを確保するために開発された。SCMは船舶AP間において、ARMの統合と全般的な整合性に寄与することを目的とする。SCMは、AP Development Guidelines for Shipbuilding (AP Guide Ship) で文書化され、そこでは以下のことが記載されている。
- Building Block approach
- Modelling guidelines
- Ship Common Model
 
(3)モデリングガイドライン
 造船分野のデータモデリングのためにEXPRESSをどのように使うかに付いて記述した物である。すべての船舶アプリケーションプロトコル(AP)のモデリング作業は、ビルディングブロック(BB)の形式で行われる。BBは、APの機能単位(UoF)の定義に使われるEXPRESS言語による仕様である。 UoFは、1つ、あるいはいくつかのBBを含むことができる。BBは、他のBB要素のためにインターフェースを提供しているインポートスキーマ、他のBBが使うためのモデルスキーマ要素を利用可能にするエクスポートスキーマ、新しい要素を定義しているモデルスキーマでの、三種のスキーマで構成される。
 
 現在のガイドラインは、以下の領域をカバーする。
- Building Block name(BBの名前)
- Size of Building Block(BBのサイズ)
- Existing Building Blocks(既存のBB)
- Commenting Building Blocks(BBのコメント)
- Restrictions on usage of EXPRESS(EXPRESS使用に対する制約)
- Reference STEP resources(STEPリソースの参照)
- Cardinality constraints across Building Blocks(BB間の基本的な制約)
- Reference functions(functionの参照)
- Reference instances across Application Protocols(APをまたぐインスタンスの参照)
- Importing Building Blocks into Application Protocols(APへのBBのインポート)
- Compiling Building Blocks(BBの編集)
 
(4)モデリングフレームワーク
 モデリングフレームワークは、SCMの一部で、如何にものを関係づけ、特性を定義し、表現するかといった一般的な概念の実現方法を提供する。
 図3.2.2-3にモデリングフレームワークを図示する。
 
(5)ドメインモデル
 ドメインモデルの目的は、再宜言を使うことで属性関係を制限できる機能を用いて、モデリングフレームワークの主構成の下位に汎用の要素群の新しいレイヤーをつくることである。ドメインモデルによって導入される新しい要素は、モデリングフレームワークの主構成のサブタイプとなる。以下のドメインモデルは、Ship Common Model (SCM) の一部となる。
 
図3.2.2-3 モデリングフレームワーク
 
- Product structure(製品構造)
- Part(部分)
- Product structure by system(システムによる製品構造)
- Product structure by assembly(組立による製品構造)
- Product structure by space(空間による製品構造)
- Connectivity(連結性)
 
(6) Common Utilites
 共通ユーティリティは船舶APに特有のEXPRESSで表現されたビルディングブロックである。船舶AP特有であるものの、異なるAPでも使用できる程度の一般的なものである。現在利用できる共通ユーティリティは以下の通り。
 
- Ship general characteristics(船舶の一般的な特性)
- Configuration management(コンフィギュレーションマネージメント)
- Location concepts(場所概念;グローバル/ローカル座標系、間隔格子)
- Basic geometry and topology(基礎的な幾何と位相)
- Moulded form points(モールド形状の点)
- Moulded form lines(モールド形状の線)
- Moulded form surfaces(モールド形状の面)
- Ships(船)
- Materials(材料)
- Features(特徴)
- Units(単位)
- External reference/ external instance reference(外部参照と外部インスタンス参照)
 
3.2.2.5 テストケースシナリオ(test case scenario)
目的
 テストケースは5種類のケースが下記のように想定されており、順を追ってtranslation能力が複雑になっていくように書かれている。しかし本来のテストの趣旨と無関係な大きなデータ・ファイルでtranslatorに負荷を与えることは行われておらず、ソフトウエア開発者に個々の形態について着眼できるように意図し、作成されている。
テスト方法
 テスト対象とした船はUS空軍に配備されているTWRという船で、既に主要寸法や図面などが公開されている。図.3.2.2-4にその側面図を示す。
 
図.3.2.2-4 TWR側面図
 
(1)Test Case 1: シンプルなバルクヘッド幾何の変換
・テスト目的 translatorの基本的動作の検証。幾何形状は単純明白で曖昧な幾何形状はなく、最小限の製品情報の交換とする。
・交換項目 エッジが直線で表現された平面の単純なFR.12番のバルクヘッド。
・適合性クラス 適合性クラス−4(面表現)
(2)Test Case 2: 船体型状の変換
・テスト目的 船の基本的特徴を表現しているB-スプラインカーブで表現されたより大きな幾何形状のデータ交換。幾何形状は単純明白で曖昧な幾何形状はない。
・交換項目 造船所や船級協会が必要とする船の基本的特徴を表現している船体型状。
・適合性クラス 適合性クラス−4(面表現)
(3)Test Case 3: フレームとフレームテーブルの変換
・テスト目的 フレームと、フレームとの関係を定義したフレームテーブルの交換。
・交換項目 フレームテーブルとTest Case 1で用いたFR12のバルクヘッド
・適合性クラス 適合性クラス−4(面表現)
(4)Test Case 4: 内部位相と外部参照の変換
・テスト目的 一組のモールド形状の中における、外部参照と境界関係の交換。
・交換項目 メインデッキ、Test Case 2で交換した船体形状への外部参照とFR16のバルクヘッド。
・適合性クラス 適合性クラス−4(面表現)
(5)Test Case 5: モールド形状の変換
・テスト目的 船を定義する主だったモールド形状の交換。
・交換項目 船体形状、メインデッキ、プラットフォーム、と主だった縦及び横隔壁から構成される。
・適合性クラス 適合性クラス−4(面表現)







日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION