3. 都市交通問題
フィリピンの首都圏、すなわち一般的にメトロマニラと呼ばれる地域は、急激な都市化のために起こる問題を抱えている。すなわち、悪化する交通事情と環境の劣化である。道路網の拡張は、首都の成長と自動車化の拡大に追いついていない。道路の渋滞、長くなる通勤時間や通勤距離、公共交通のサービスの低下、大気汚染の悪化、交通事故の増加などである。これらの問題の多くは、インフラの不足、貧弱な保守、不適切な交通管理、規律のないドライバーと歩行者、規制されない沿道の活動と土地利用によって特徴づけられる現在の交通事情に起因する。
(Figure 4)
過去20年にわたり、メトロマニラでは、次から次へ複合的な問題が起きている。合理的で組織的な対応ではなく、日和見的な解決策が取られてきたことが、日常的な交通問題の原因となっている。この長期に累積する問題の影響で、首都圏と国全体が経済的・社会的な活力を失なっている。
交通部門における3つの大きな制約は、資金調達、制度の有効性、必要なインフラのための土地取得である。
公共資金には限度があるにもかかわらず、依然として、計画された交通プロジェクトへの組織的・合理的な資金の割り当てが行なわれていない。インフラプロジェクトのための民間資金が投資額を大幅に拡大しているが、最近でも依然として、プロジェクトのプロセスのどこかで公共資金を使い果たしていることが分かる。
多くの根本的な制度の問題が分かってきた。つまり、首都圏レベルでの活動の協調を細かく監視する必要があること、地方自治体が、その土地利用の管理に関する権利を強力に主張して、デベロッパーが計画にない開発を実施することを防ぐ必要があることである。交通の管理と規制が統合されたが、さらなる合理化が必要である。
大気の環境が劣化し続けていることは、特にメトロマニラに住むフィリピン国民の福祉と保健への脅威である。メトロマニラの大気環境は非常に悪く、公衆衛生のリスクがすでに容認できないほどに高くなっており、大幅に改善されなければ、これからの数年間に何百万もの市民が前例のない大気汚染の危険にさらされることになる。
もう1つの大きな都市問題は、路線用地(ROW)の取得であり、これが多くの重要な交通計画の実施を妨げている。不法な居住者も合法的な資産所有者も、インフラを担当する政府機関が驚くような法的システムの悪用の方法を見つけ出す。これは、所管する政府機関が、事前に行なうべき計画や準備が整わず、競合と優先順位争いが原因である。
4. 将来の都市交通プランとプロジェクト
都市管理は、過去に適切な対応がなされなかった重要な政策課題であり、そのことが現在の都市問題の根本的な原因となっている。しかし環境と交通の悪化は、交通部門のニーズに対応する戦略の失敗と、交通量の増加に対する当局の管理の欠如に起因するものでもある。したがって、交通システムの改善を確実なものにするために必要なことは、基本的なインフラ網の拡大とその適切な維持を図るための幾つかの「未完成の仕事」を完成させることである。また、質の高いサービスの利用や急速なモータリゼーションによって生じる新たな問題に対する注意も必要である。より良い生活水準を長期的に支援する「持続可能性」が、経済的、財政的、環境的、社会的な持続可能性に重点を置く、より厳しい交通政策の基礎になっている。都市の持続可能性は、ますます、世界の都市の行政管理者の目的となっている。
この目的を達成するために最も重要なのは、「統治の問題、すなわち都市の上手な管理」である。多くの都市問題は、サブセクターの、また立案から実行までの開発のあらゆる段階において、行政の管理能力の欠如から発生している。立案段階では、信頼のおけるデータベースと立案のツールが不足しており、立案者の能力が低く、立案する組織の人員が適切でなく、適切な設備も与えられていない。中央政府と地方政府との間の計画に関する協力も困難である。また、同様の問題は投資計画にも影響し、適切な計画の優先順位付けもなく、様々な政府機関の単なる計画の総和である投資計画になってしまう。実行段階での管理も大幅に改善して、相互に関連する補完的な計画を効果的に調整すべきである。
開発中の都市の管理に不足している分野や問題点を把握することは困難ではないが、効果的な改善戦略や計画を策定し、それを成功裡に実行することは極めて難しい。都市管理システムが機能する社会的・政治的な背景も極めて重要である。
見通しと目標
計画は、メトロマニラにおける都市交通と交通要素が効率的に相互に作用し合うレベルを達成できるように設計される。
その目的は、効率的で、安全で、経済的な交通が首都において可能となるような環境を作ることである。
手法と戦略
メトロマニラの交通部門が抱える多くの問題を解決し、改革のプロセスを管理するために、思い切った手法が必要である。メトロマニラのための実質的な交通戦略を展開するためには、次の事項を考慮しなければならない。
1. 交通網を効率的に運営するには、施設に階層性を持たせる必要がある。MRTやLRT、鉄道システム、バス路線などは、通常、フィーダーとして機能する道路輸送と結ばれる中核的交通網として形成されるべきである。また、通常、比較的輸送能力の高い高速道路または中央分離帯のある平面道路からなる幹線道路も同一のものとみなす。
2. 交通は、都市開発の先陣を切るための重要な触媒の役割を果たすことができる。重要な要件としては、都市周辺における開発用の道路である。実際の大規模開発に先立って建設される道路は、容易かつ非常に廉価に建設することができる。
3. メトロマニラは、1980年代に魅力を失った他のアジアの都市と比べ、公共交通の交通分担率が依然として高いレベルを維持している。マニラ市民が公共の乗り物に乗る習慣をやめる前に、公共交通システムを改善すべきであり、競争力あるサービスを提供すべきである。
4. 完全に独立したMRTシステムを中核の交通システムとしなければならない。MRTシステムは郊外にまで延長されているが、その収益は資本コストを十分にカバーしていない。したがって、MRTシステムは、新たな開発や効果的なフィーダーサービスのための触媒には成りえない。
大気汚染防止法(CAA)の完全実施は、フィリピンの大気汚染と戦うための国の最優先事項である。これにより、政府は次の重要な課題に対応する必要がある。
・改善された検査・維持管理システムにより車両の排気ガスを削減すること。車両検査システム(MVIS)の拡張計画は、大気汚染の管理と増加する安全性に関する問題の両方に対応する。
・適切な組織能力、資金、政治的な公約に基づきCAAを実施すること。
・賞罰により交通規制を強化すること。
・監視と分析の能力を統合して意思決定を行い、大気環境の管理を改善すること。
5. 中央のビジネス地区(CBD)へのアクセスを維持し、改善することが非常に重要である。これは、フィリピン経済にとり極めて大きな影響を与え、将来の国家の繁栄にとっても重要である。CBDには、良質のMRTと道路アクセスのシステムが必要である。図5は、将来のメトロマニラの鉄道網を示す。
補助的な戦略
メトロマニラの将来計画を作成するにあたり、基本的に2つの戦略がある。
交通戦略:これは、実行可能かつ資金調達可能な計画に対する合意を得るための戦略で、次の事項を含む。
1. 巨大プロジェクト:巨大プロジェクトの無秩序な増加を管理する。
2. 公共交通:公共交通の能率と対応力を改善する。
3. 交通管理と安全:交通網の旅客収容能力を最大限にし、乗客と歩行者の安全を改善し、地域の環境を保護する。
4. PNR:鉄道の運行のための持続可能な戦略を展開する。
5. 開発用道路:既存の都市地域の周辺に都市化に先立って新たな道路を建設する。
Metro Manila LRT System
(Figure 5)
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