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8. フィリピン
国立経済開発局(NEDA)
Ms. CONCORDIA Feroisa Francisca Talaue
 
フィリピン
カントリー・レポート
Ms. Feroisa Francisca T. Concordia
国立経済開発局(NEDA)
 
メトロマニラに関する都市交通部門の検討
1.0 フィリピン群島の概要
 
 フィリピンは先進の西側世界と東洋との十字路に位置している。東南アジアの中心部にあり、その広がりは1840km以上にも及ぶ。フィリピンは7107の島から構成され、世界の各首都へ行くのに便利である。主な島は3つあり、ルソン島、ビサヤ諸島、ミンダナオ島である。
 
 報告されているインフレ調整後の国内総生産(GDP)は、2001年の3.2%の成長に対して2002年は4.6%の成長であった。2002年の成長は、主として第4四半期の5.8%のGDPの成長と7.2%の国民総生産(GNP)の成長により加速した。フィリピンの人口は、8400万人を超える(2002年7月現在の推定)。
 
 集中する都市部の人口と経済活動に伴い、フィリピンの各都市では、既存の需要を満たすための都市交通の基礎的な設備とサービスの整備に関する難しい課題が増大している。
 
 したがって、必要な都市交通のインフラ建設に関して、政府および地方政府(特定の)による各種の介入が行なわれている。また、都市交通部門への民間部門の参加が拡大していることも歓迎すべき展開である。都市交通の基礎的な設備とサービスへの継続的投資が行なわれているが、この傾向は、都市のこれからの成長または衰退にかかわる重要な要素となるものと予想される。
 
 今までのところ、公的部門および民間部門による交通インフラへの大きな投資は、他の都市圏(たとえば、スビク、セブ、ダバオなど)で行なわれているが、メトロマニラは、依然としてフィリピンの重要な都市であることに変わりない。この都市の交通問題は、緊急であり問題が山積している。これから論ずる内容は、メトロマニラの都市交通部門の特徴付けを行なおうとするものである。
 
2.0 メトロマニラに関する説明
 
2.1 地理、地形、面積
 
 メトロマニラは、国の首都圏(NCR)としても知られ、フィリピンの政治、商業、金融、教育の中心地である。その総面積は、636km2で、13の都市、具体的には、マニラ市、カローカン、ケソン、マリキナ、マンダルヨング、パシグ、ラスピニャス、ムンティンルパ、バレンスエラ、サンファン、パラニャケ、および4つの地方自治区、すなわち、ナボタス、マラボン、パテロス、タギッグから構成されている。次の図は、メトロマニラを構成する都市と地方自治区を示している。
 
Fig. 1 Metro Manila Map
 
 メトロマニラは、ルソン島の中部にあり、マニラ湾の東岸およびパシグ川の河口に位置している。この川は自然港であるマニラ湾と南シナ海と、淡水のラグナ湖とを結ぶ航行可能な河川である。この地域は規制地区であるが、保護されているために優れた港となっている。この川を経由して内陸の農業地帯にアクセスすることができ、また、アジア大陸にも比較的近接している。(Roth, 2002年)
 
2.2 社会経済的特色
 
 メトロマニラの人口は、1950年の200万人弱から1980年には590万人に増加し、1996年には約1000万人となった。2015年までに、メトロマニラの人口は1480万に達すると見られる。約1000万の人口のうち、370万人(38%)が就業者である。車の保有台数は1000人当たり59台で、総世帯数の約20%が車を所有している。メトロマニラにおける平均家計所得は、月額13,122フィリピンペソ(248米国ドル)である。世帯の約6.5%が極貧である。
 
 1995年に、メトロマニラ(NCR)は、国内総生産(GDP)の約32%を占めていた。1998年には、GDPの30%であった。2000年のメトロマニラの平均年間家計所得は197,959.00ペソで、全国平均の2倍を多少上回り、平均年間家計支出は161,002.00ペソであった。
 
2.3 土地利用と都市開発
 
 メトロマニラの土地は、住宅、商業・ビジネス、工業、公共施設およびその他に分類することができる。
 
 メトロマニラは急速に発展し続けている。この急速な都市化の影響が、南のカビテやラグナ、東のリサール、北のブラカンなどの隣接する州に波及している。現在、都市化されていて実際に人口密度が高い地域は、約800km2に達しており、メトロマニラの行政地区をはるかに超えている。
 
2.4 基礎的な施設とサービス
 
道路網:メトロマニラには、約2966kmの公共道路網があり、国道の867km、市道の1274km、市町村道の554km、バランガイ道1の271kmで構成されている。道路網を形成する幹線道路は10の放射道路と5つの環状道路で、1945年に計画委員会(Planning Commission)が作成した「主要道路計画」(Major Thoroughfares Plan)の放射・環状モデルに基づくものである。この10の放射道路は次のとおりである。すなわち1)ロクサス・ブールバード、2)タフト・アベニュー、キリノ・アベニュー、3)南スーパー・ハイウエイ、4)イメルダ・アベニュー、メルセデス・ストリート、5)ショー・ブールバード、6)ラモン・マグサイサイ・ブールバード、オーロラ・ブールバード、7)エスパーニャ、クエゾン・アベニュー、ドン・マリアノ・マルコス・アベニュー、8)アンダルシア、ディマサラング、9)ホセ・アバド・サントス、リーサル・アベニュー・エクステンション、マッカーサー・ハイウエイ、10)マニラ北沿岸道路である。
 
 また、5つの環状道路は、1)クラロ M. レクト・アベニュー、2)プレジデント・キリノ・アベニュー、A. メンドーサ、タユマン、3)5thアベニュー、Sgt.リベラ・ストリート、G. アラネータ・アベニュー、ブエンディア・アベニュー、4)エピファニオ・デ・ロス・サントス・アベニィー(EDSA)、サムソン道路、5)パシグ・ブールバード、E. ロドリゲスJr.アベニュー、カティプナン・アベニューである。
 
 幹線道路網を構成する道路の大部分は各方向ごとに6車線あるが、その他の道路は4車線である。バス、ジープニー、タクシー、自家用車による大量交通量がこれらの道路の特徴である。
 
 メトロマニラの総車両台数は約100万台で、全国の総車両台数の約42%と推定されている(JP Morgan, 1997年)。
 
 2002年現在、メトロマニラの幹線道路は、34.9kmの高速道路(サウス・エクスプレスウエイの高架部分[マニラ・スカイウエイ]を含む)、211kmの主要幹線道路、307kmの補助的幹線道路である。
 
メトロ/軽便鉄道システム
 
 既存の都市鉄道システム(下図に示す)は、次の路線で構成されている。(1)LRT 1号線(15km)、(2)MRT 2号線(13.8km)、(3)MRT 3号線 フェーズI(16.9km)である。MRT 2号線の第1段階(クバオ‐サントラン・ルート)は、2003年4月に運行される予定で、2号線の全線開通予定は2004年である。
 
Fig. 2 Metro Manila Planned Rail Network
 
公共交通:1999年のマニラ首都圏総合都市交通改善計画調査(MMUTIS)の報告によれば、メトロマニラにおける1日当たりの総トリップ数の約78%が公共交通である。公共交通の大部分は道路による運行で、民間が所有するジープニー、タクシー、バス、新たなフランチャイズ方式の「相乗りタクシー」(Tamaraw FXおよびその他のバン)から成り、補助的にLRT 1号線とMRT 3号線が使用され、それにフィリピン国有鉄道通勤ラインが加わっている。道路ベースの公共交通の特徴は機能的な階級制度にある。すなわち、バスは限られた地域をカバーし主として幹線道路を運行するが、ジープニーと相乗りタクシーは、主に補助道路を運行し、僅かではあるが幹線道路も運行する。幹線道路や補助道路の周辺地域は、ターミナルを持つトライシクルが使用されている。これらのターミナルは、人々の活動が集中している地域またはバスやジープニーによる通勤者が集中する地域に集中している。
 
3.0 公的取り決めと規制の枠組み
 
 交通通信省(DOTC)は、都市交通計画全般を監督している。さらに、都市交通に係わる関連機関の活動を監視している。たとえば、陸運局(LTO)が発行する自家用車やその他の車両の運転免許証、陸運フランチャイズ規制局(LTFRB)が発行するバスやジープニーの許可証、軽便鉄道輸送局(LRTA)とフィリピン国有鉄道(PNR)が行なっている鉄道路線の建設や運営などである。トライシクルの運転免許証は、各地方自治体(LGU)が担当している。
 
 公共事業道路省(DPWH)は、主要な道路の設計・建設・保守を所管している。省の交通技術センターは交通計画、信号機やその他の交通コントロール装置の設計・設置・運行・保守を担当する。都市道路計画室(URPO)は、道路拡張プロジェクトと同時に、新たな道路・橋・立体交差の計画、設計、建設監督を所管する。
 
 マニラ首都圏開発局(MMDA)は、いわゆる「首都圏全域にわたるサービス」2の実施のための企画、監視、調整、監督、規制の業務を執行して、都市交通における1つの役割を担っている。首都圏全域にわたるサービスには輸送と交通管理が含まれる。MMDAは、現行の交通運営と道路利用の合理化を目指した政策プロジェクトを策定し実行する。また、あらゆる交通規則の執行や、交通技術関連サービス、交通教育プログラムを管理し実施する。同時に、メトロマニラの単一チケットシステムの制度(交通違反を犯した運転者に対する)などの管理・実施を行なう。また、フィリピン国家警察(PNP)は交通法規の執行を支援する。
 
 現在、LRT 1号線の運行はLRTAの所管であるが、保守はTechniRail, Inc.という民間企業が行なっている。また、間もなく開通するLRT 2号線はLRTAが運営する。一方、MRT 3号線は、BOT方式のプロジェクトであるが、現在、DOTCが運営している。
 
4.0 都市交通部門の課題
 
 主務官庁は新たな交通プロジェクトの開発に積極的でない。主務官庁は、プロジェクトのリストに優先順位を付け、提示するのが理想である。それにより、無用なプロジェクトに関わる必要もなくなり、政府も必要なプロジェクトに支援することができると思われる。
 
 都市交通プロジェクト準備が不十分な結果生じたメトロマニラにおける主要な交通プロジェクトの不統合。現行のMRT/LRT路線は、それぞれ、設計とソフトウエアが適合しないために、物理的な料金的な統合がなされていない。しかし、政府は、将来実施予定の路線については、通し運転が実施できるよう、あらかじめこれらの路線を計画することを望んだ。
 
MMDAの憲章は、首都圏の統治に関する政治力学に対応していない。
 
 MMDAには、条例を発布する立法権がなく、地方自治体(LGU)の立法権に依存している。また、MMDAは、国内の歳入割当てに関しては、地方自治体の取り分の受益者でもある。このことは、本質的に狭量な利害をもった地方自治体に、事実上MMDAが依存することになる。したがって、MMDAの憲章を修正し、財務的に地方自治体からもっと独立させるべきであり、MMDAにメトロマニラの行政を効果的に行なうための立法権も与えるべきである。
 
 交通や土地利用関連の政府機関の開発努力と地方自治体との間に協調が見られない。非協調的な手法が、交通インフラが土地利用強化の要求に対応できないという結果を生んでいる。都市の環境、特に駐車規制や交通移動などに関して、より厳格な規則や規定を要求する建築法を改正する必要性があるのかもしれない。
 
 それぞれのプロジェクトの実施について、運輸通信省(DOTC)と公共事業道路省(DPWH)との間の協調が欠けているため、不必要な遅延とコストが発生している。よくある問題としては、DPWHの立体交差プロジェクトの設計とDOTCのLRT/MRTプロジェクトの設計における競合がある。関連執行機関の密接な協調が大切で、必要に応じて国家経済開発庁(NEDA)のインフラ委員会(全体的なインフラ開発を監督する委員会)が、問題の解決を図る。
 
 フィリピン国有鉄道(PNR)の路線の専用敷(ROW)は、現在、不法な居住者によって占有されている。プロジェクトの社会的な面の対応を確実に行なうためには、交通および住居関連の政府機関のより密接な協力関係が必要である。この不法な居住者を移転させなければ、鉄道システムの再建は達成されず、その目的、すなわち、速い、安全な、信頼できるサービスを達成することはできない。
 
5.0 都市交通部門の方針戦略
 
 交通渋滞の解消を優先する。メトロマニラと他の主要な都市の中心地、たとえば、セブやダバオでは、交通渋滞の緩和が引き続き優先事業として残ったままである。より効率的で協調的な開発のためには、これらの中心地における都市交通の中長期的枠組みの計画が作成され、定期的に更新されるべきである。これらの計画では、大量の交通移動を効果的に行なうために、公共交通のより広範な利用を促進する複合輸送システムが必要である。また、交通計画は、土地利用開発とも密接に関連させるべきである。一般に、都市部における大量の人の移動は、鉄道交通が道路交通に優先されるものである。具体的なプロジェクトの選定とその段階の設定は、これらの計画に基づいて行なわれるべきである。そのためには、都市交通のインフラ網に基づく地理的情報システムの確立が必要である。
 
 現行のインフラの能率向上、新たな道路の専用敷を取得するのは、非常に困難で費用もかかるので、既存のインフラへの取り組みが、十分に検討されるべきである。都市交通のための中期プログラムは、非技術的対策と技術的対策の組み合わせで行なうべきである。
 
 強化すべき非技術的対策には次のものがある。(a)より厳密で一貫した交通規制(b)統一車両削減計画(United Vehicle Volume Reduction Program)と同じような需要管理対策(c)バスや乗車率の高い車両の道路利用に優先権を与えること(d)道路スペースの最大限の活用12(e)土地利用規制:建物密度の規制、道路網に過剰な負担をかけないようにするための主要な不動産開発に関する強制的な交通影響評価と緩和策、幹線道路への出入り制限、住宅地(subdivision)の道路の開放の可能性、などである。ハイウエイのための準備金は、建設の計画中に取得されるべきである。長期的には、メトロマニラや他の大都市にインフラ圧力がかからないように集中を分散させ、戦略を精力的に推進すべきである。
 
 技術的対策としては次のものがある。(a)コンピューター化されたリアルタイム制御の順応性のある交通信号システムの拡張によって、交通量の多い大通りの交通流をスピードアップすること(b)公共交通の提供の拡大:大量鉄道輸送とバス輸送など(c)民間資金による高速道路の建設(約145lane-km、ほとんどが高架)(d)主要な交通ルートの交通管理計画:EDSA/MRT 3号線、オーロラ/MRT 2号線と南高速道のルート(e)既存の幹線道路の改善と主要な立体交差の建設、C-3とC-5の欠落した連結部と橋の建設(f)既存のルートの渋滞を解消するための補助道路の改善(g)安全で効率的な歩行者用施設の提供:歩道、横断歩道、車を待つための場所など(h)必要に応じ、就労の中心部と車両のターミナルとを結ぶ自転車専用道路の提供などである。
 
 道路財政の改善 メトロマニラおよび他の都市部における主要道路プロジェクトの資金調達を支援するために、受益者であるLGUは、その収入に釣り合った見返り資金を提供する必要がある。また、道路が不動産を通過したり、その不動産の近くに道路が建設されることによりもたらされる土地価額の自然増の一部を、特別税を導入して不動産所有者から回収すべきである。
 
 鉄道交通の開発を再び重視する。鉄道交通の開発は次の点に重点を置くべきである。(a)主要な都市部における通勤者の大量輸送(特に、首都圏の渋滞を解消する必要があるので、メトロマニラの北と南に向かう通勤者の大量輸送)と地域間の人の輸送(b)道路輸送より一般的にコストを抑えられる大量貨物の長距離輸送などである。新たな鉄道プロジェクトは、経済的な可能性と民間資本とのリスクシェアリングの条件を考慮して推進するべきである。
 
 都市間鉄道戦略の確立 次のことを確保するために、メトロマニラの総合的な都市間鉄道戦略を確立すべきである。(a)都市部を通過する鉄道路線(同一平面または立体交差)を将来利用できるようにすること(b)都市横断急行の運行の可能性、(c)物理的な統合(乗客の乗り継ぎをできるようにする)、情報の統合、ネットワークの統合、共通の技術・サービス基準(すなわち、軌道幅、牽引タイプ、発券業務、信号システム)の採用によって、1つのシステムとして運営する鉄道(重レールまたは軽レール)。
 
 鉄道インフラへの政府の投資を合理化し、鉄道システムを統合する。
 
 大量輸送に対する政府の介入は、企画、規制、資産所有に限定されるべきであり、正当性が認められる場合のみ軌道インフラと専用敷の提供に対する資金支援を行なう。プロジェクトの実施・運営・維持は、基本的には民間部門へゆだねられるべきである。輸送結節の根幹と都市の構造を強化するためには、多数の民間事業者が鉄道システムを統合し、共通の発券システム、鉄道路線の再編成、共通駅での乗降客のスムーズな乗り換え、インターモーダルな接続を可能にすることによって達成するべきである。
 
 車両の排気ガスによる大気汚染をコントロールする。価格政策と管理政策の組み合わせにより、車両の排気ガスによる大気汚染をコントロールするべきである。大気汚染防止法の規定に準拠する管理政策としては、定期的・義務的な車両検査、旧式の非効率エンジンの段階的廃止、新たな公共交通システムの環境にやさしい燃料の使用がある。また、主要幹線道路の環境対策を行なって都市環境を改善すべきである。
 

1公共事業道路省の都市道路計画室が提供する1997年のデータ
2MMDA憲章では、「首都圏全域にわたるサービスとは、法律や政治の枠を超えたサービスであり、またメトロマニラを構成する地方自治体だけでは負担しきれない膨大な費用が掛かるサービスである」と規定されている。







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