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第2編 航行安全対策
第1章 総論
 マラッカ・シンガポール海峡は、我が国の生命線とも喩えられるように、原油や貨物を満載した大型船が絶え間なく通航する海上交通の要衝です。また、このマ・シ海峡には、世界第2のコンテナ取扱量を誇るシンガポール港があり、東南アジア地域の主要なハブ港としての役割も果たしています。
 これまで、マ・シ海峡を船舶が安全に航行できるよう様々な取り組みが行われてきたわけですが、この海峡はインドネシア、マレーシア及びシンガポールといった海峡沿岸国の領海が相互に接し合っているため、航路の設定にしても1国単独で為し得るものではありません。このため、沿岸3ケ国が協調しながら海峡全体を対象とした総合的な航行安全対策を実施していく必要があるという特色を有しています。一方、海峡利用国である日本も、沿岸3ケ国と協調しながら、これまで多大な貢献をしてきており、沿岸3カ国から相当の評価を受けているところです。
 このようなマ・シ海峡の航行安全環境が画期的に改善されたのは、国際海事機関(IMO)に対し、分離通航方式に係る提案を沿岸3ケ国共同で行い、同提案が採択され、分離通航方式及び強制船位通報制度を導入し、船舶交通センターの運用を開始した1998年以降のことです。この制度に重要な役割を果たしている船舶交通センターは、現在、マレーシアには、首都クアラルンプール近郊のポートクラン、シンガポールとの国境に位置するジョホールに1ケ所づつの計2ケ所、シンガポールには、中心部に近いタンジョンパガー及び西海岸のパシルパンジャンの2ケ所に設置され、通航船舶に対し必要な安全情報等提供業務を実施しています。
 以上のような環境整備により、海難件数は劇的に減少したわけですが、航行安全対策を講じる上は、実際に発生した海難事故に係るデータに基づき、航行安全対策実施の必要性を判断するばかりではなく、海難事故には至らないものの、潜在的な危険性を有している海域についても調べる必要があります。船舶運行者が実際にどのように感じているのかを踏まえて、将来的な航行安全対策を講じていくため、当事務所は、2000年末に、マ・シ海峡を航行する船舶の乗組員を対象としたアンケート調査を行いました。その結果によると、海難には至らないヒヤリハット的事例が随所で報告されており、まだまだ、航行安全対策に関し改善の余地が多数残っていることを示唆しています。今後、更なる航行安全対策の充実が期待されるところです。
 一方、マ・シ海峡は、今後とも原油や貨物といった海上輸送の大動脈としての役割を担い続けると考えられ、シンガポール港以外にも、マレーシアのポートクラン港、コンテナ専用港のタンジュンプラパス港などの重要な港が存在します。インドネシアについては、近代的な設備を備えた大規模な港は存在していませんが、世界最大の群島国家であり、また、天然資源も豊富であるため、海上輸送が国の発展のため重要な役割を担っており、スマトラ島やリアウ州の港も将来的には発展することが予想されます。
 マ・シ海峡にそれぞれ目的を異にした大規模な港が複数整備されることになれば、ますます通航船舶の数が増加し、更なる航行安全対策の充実が必要となってきます。近年は、電子海図(ENC)、船舶自動識別装置(AIS)、ディファレンシャルGPS等の最新の航行援助装置を設置する船舶が増えてきており、これら最新の技術を導入することにより、航行安全環境も更に改善されることが期待されています。沿岸3カ国により構成される技術専門家グループ(TTEG)においても、新技術を用いた海峡の航行安全対策を検討するとともに、国連海洋法条約第43条に示されたような海峡沿岸国と海峡利用国による国際的協力の枠組み作りのための検討が始まりました。これまでマ・シ海峡の安全確保等のために多大な貢献をしてきた日本としても、このような新たな状況に対応して、適切な協力のあり方を考えていく必要があることは言うまでもありません。
 
第2章 航行安全対策
第1節 マレーシア・ジョホールVTIS
 
 マレーシアには船舶交通情報システム(VTIS)が2個所あります。1個所はマレーシアの首都クアラルンプール近郊のポートクランVTIS、そしてシンガポールとの国境に位置するジョホールVTISです。ここでは、ジョホールVTISについて簡単に報告します。
 
1 概要
(1)歴史
 ポートクランVTIS同様に、1998年12月1日、マラッカ・シンガポール海峡改正分離通航方式、強制船位通報制度の発効とともに運用を開始しました。
(2)場所
 マレー半島西部最南端に近いタンジョン・ピアイに建設されています。(図1)
 建物の周囲はココナツ森に覆われていますが、高さ約20メートルに位置するコントロールルームは、360度見渡せる構造となっており、担当海域が目視で良く観測できるよう工夫されています。(写真1、2)
(3)担当海域
 ジョホールVTISは、マラッカ・シンガポール海峡のうちシンガポールに隣接する「セクター6」を担当しています。(図2)
(4)内部機器
 コントロール・ルームにあるコンソールは、DUTY OFFICER用コンソール(写真3)、オペレータ用コンソール(写真4)、セキュリティ用コンソール、予備コンソールの全部で4つ配置されています。
(5)当直体制
 1直4人体制(オペレーター3人、DUTY OFFICER1人)の8時間勤務の3直制をとっています。職員数は、4人×3直=12人に、オペレーター、DUTY OFFICERにそれぞれ1人計2人の休暇要員を設置しており、全体としては14人体制となっています。
 
2 シンガポールVTISとの情報交換について
 隣接するシンガポールVTISとの強制船位通報制度に基づく通航船舶にかかる情報交換は直接的には実施していません。従って、マレーシア(セクター6)とシンガポール(セクター7)の境界を通過する船舶は、境界を通過する時点で、それぞれのVTISへ通報することを要します。
 
3 分離通航方式違反船について
 韓国、中国、台湾、日本の漁船(注:マ・シ海峡を通過通航する比較的大型の漁船と思われる)が分離通航方式に違反して、分離通航路を逆行する事例が多く見られるとのことです。特に、東航する場合に、西航ルートを真正面から反航する場合が多いとのことです。
 違反船舶に対しては、基本的にはVHF等による警告を行っていますが、マレーシア国内法により罰金刑も科されることになっています。
 
写真1 概観(その1)
 
写真2 概観(その2)
 
写真3 DUTY OFFICER用
 
写真4 オペレーター用
 
 







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