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はじめに
 船舶の航行安全のための新たな航行支援システムであるAISは、SOLAS条約の改正を経て2002年7月1日から段階的に船舶への導入が図られるとともに、AIS陸上局の整備、AISネットワークの構築を通じたAISの活用が具体化しつつある現状にある。
 海事の国際的動向に関する調査研究委員会(海上安全)では、平成14年度及び15年度において、AISが既に整備され実用化されている国や地域及び関連のIMO会議やセミナーに調査員を派遣し、各国におけるAISの整備・活用の現況及び世界的な動向について調査を実施した。
 本報告書は、過去2ヵ年の調査結果と当該調査結果に基づき、今後、AISを活用する上で検討すべき事項として本委員会がとりまとめた「AIS今後の課題」を掲載したものである。
 
平成16年3月 日本海難防止協会
 
I AIS基礎調査
「IMO/IALAセミナー出席」及び「スウェーデンAIS現地調査」
 平成14年度海事の国際的動向に関する調査研究委員会(海上安全)の事業の一環として、平成14年7月、IMO・NAV48に引き続き、IMO本部で開催された「IMO/IALA合同AISセミナー」に出席、その後、AIS発祥の地であるスウェーデンを訪問し、同国におけるAISの現状について現地調査を実施した。
 以下、本調査研究を通じて得た最新の情報をとりまとめるとともに、今後検討されるべき事項を整理した。
 
*本文中、特別の説明がない場合、「AISセミナー」とは本セミナーを指す。
 
1 現在までの取組みの状況
(1)世界的な枠組みの制定
イ AISの性能要件に関する勧告制定(MSC.74(69),ANNEX 3)
1998年5月の第69回MSCで採択された勧告には、機能上の要件として次の3つが定められている。
A 船−船間の衝突予防機能
B 沿岸国が通航船と積荷に係る情報入手手段としての機能
C 船−陸間の航路管制の手段としての機能
ロ AISの搭載対象船及び搭載期限の確定
 2000年11月第73回MSCにおいてSOLAS条約第5章の改正案が採択され、2002年1月1日に改正案が受諾、同年7月1日から発効した。
 なお、搭載期限に関しては、米国が2001年9月の米国同時多発テロの経験から、AIS搭載期限の前倒しを提案、本年6月のG8サミットにおいて2004年中の搭載完了が原則合意され、最終的な決定は2002年12月の外交会議に委ねられている。
ハ AISの運用要件に関するガイドラインの制定(Resolution A.917(22))
 2001年11月の第22回総会で採択された同ガイドラインの主要なポイントは次の通り。⇒別添1参照
A AISを搭載しない船及び意図的にAISを作動させていない船の存在に留意すべし。
B AISは航行中、錨泊中を問わず常に作動させる必要があるが、船長の判断によりAISの電源を落とすことができる。
C AISは、衝突予防の判断をする際の助けとして活用され得るが、AISは新たな航海情報の一つでしかなく、レーダーによる自動追尾機能やVTSを支援はするが代替できないことを理解すべし。
D AISの使用は当直士官のCOLREGに基づく責任を否定するものではないことを自覚すべし。
ニ AISにかかるIALA暫定ガイドライン案策定(AIS 10/5/3)
 IALAにおいてもガイドライン作成に取り組んでいる。同ガイドライン案第4章では、「AISで得た情報の活用」と題し、使用上の一般的注意から、VTSにおける活用、衝突予防におけるAISの活用、AIS情報の画面上の処理などについて、IMOのRes.A.917(22)やIMOの委員会等への提出ペーパーを各所に引用する形でまとめられている。
 
(2)関連機器の整備・運用に関するもの
イ 船舶へのAIS搭載に関するガイドライン案(NAV48/WP.1 ANNEX1)
A NAV48において、船舶の搭載に関しての技術者、施工者に対するガイドライン案について検討がなされ、右がボランタリーなものとの位置付けを確認した上で小修正を加え、SNサーキュラーとしてMSC76に提出することとなった。右によりAISの取付けが容易に行なわれることが期待され、AISの早期導入に弾みをつける。
B AISセミナーにおいて、AISトランスポンダーを提供するスウェーデン・サーブ社担当のプレゼンテーションでは、基礎的な知識を有する工員であれば、ケーブル配線作業は1−2日、機器の据付け・調整は数時間で完了する、また、配線作業はマニュアルを参照すれば乗組員でも実施可能であり、右は経費節減につながると強調した。
ロ AIS-VHFデータリンクの保護に関する勧告案(NAV48/WP.1 ANNEX2)
 NAV48において本勧告案が検討された。当初、「決議MSC.74(69)に適合しないAIS設備の性能基準」と題した本勧告案に対し、右が所謂クラスB-AISの性能要件ではなく、クラスA-AISにより構築されたAIS-VHFデータリンクを保護することが目的とする内容であるとの指摘があり、決議案の件名が変更されるとともに、勧告内容も次の3点に要約されMSC76に提出することとなった。
A. クラスB-AIS機器及びチャンネルAIS-1及びAIS-2で送信する機器は、勧告ITU-RM.1371の要件に適宜従うこと。
B. クラスB-AISは監督官庁の認定を受けること。
C. 監督官庁は、海上でのAISチャンネルの整合性を確保するために必要な措置を採ること。
ハ AIS装置の外部干渉に対する安全性
 NAV48では、AIS装置による電気的・機械的影響が安全性を損なう可能性を認め、右をCOMSAR7に回章し検討を求めることとなった。
 
(3)AIS情報等の表示に関する事項
イ NAV48での検討結果
 NAV48では次のとおり検討がなされた。
A. IBS(Integrated Bridge System)の運用に関する検討(NAV48/4/1関連)
・IECの技術委員会80のWG13において、航海に必要な情報の表示に関する国際基準(IEC62288)を準備中であり、AIS情報についても併せて検討すべきとの認識である。
・右基準には、ディスプレイに表示されるシンボル、色、略語、コントロールについて整合を取ることとなる。
・WG13としては、現状、航海士は船橋内で潜在的な情報過多に陥っており、レーダーとAIS、ECDISとAISといった形で、複数のシステムから個別に得られる情報を統合して表示する必要性を認識、本件についての検討結果をNAV49に提出する予定。
・NAV48のWGではIBSの技術的要件を準備し、IECに対し本件技術要件とともに技術要件を検討する過程での運用のあり方の検討についても要請することとした。
B. レーダー上でのAIS情報の表示・使用に関するガイドライン(NAV48/16関連)
 NAV47において、英国から、AISをレーダー、ARPA等の装置と接続する場合の表示について検討が必要であるとの指摘がありNAV48で検討予定であったが、十分な審議の時間がなくNAV49に持ち越された。
ロ 今後の検討予定
 次の通りの会議が予定されており、本年中には表示についての統一基準が作成される予定。
A. IALA
2002.8.26-30 AIS WG
2002.9.2-6 AIS committee
B IEC
2002.10.14-18 TC80 WG8A
2002.11.15-16 TC80 WG13
C Others
2002.11.13-14 IBS and Navigational Systems (International Conference)
 
(4)AISバイナリーメッセージ
 AISバイナリーメッセージとは、船−船間、船−陸間で相互に、必要な情報をバイナリー方式で交換するもので、予め割り当てられた箇所に情報を1/0で表現しパッケージ伝送するもの。
 交換される情報は、AI: アプリケーション・アイデンティファイヤーと呼ばれ、システム上の割り当てを意識した用語であるが、具体的には、パイロット要請、現在の潮位といった情報そのものを指す。(別添2参照
 国際的なAIをIAI(International AI)と呼ぶが、今次会合では、NAVはIAIの評価を行う必要がある点、IMOがIAI情報のデーターベースの維持管理を行う必要がある点が指摘され、本会合においていは以下の事項が確認されるとともに、IAIの維持・登録はIALAとも連携を取りながらIMOが中心となって行うことが決定された。
A. 現在あるAIS機器の全てがバイナリーメッセージを表示できるわけではない。
B. 現在、60から80項目のIAIが提案されており、20から30項目に絞り込むための評価を早急に行う必要がある。
C. 将来IAIの変更を行なった場合、船舶に搭載されたAISのソフトウェアをアップグレードするに際し実施上の問題が有り得る。
D. 本件はNAVの継続議題とする必要があり、またIMOに対する何らかの財政的援助が必要となる可能性がある。
 
 今後は、上記(3)ロのとおり本年9月のIALA会議、11月のIEC会議を経てIAIの絞り込み作業等が行なわれる予定。
 
(5)VDRへの活用
 NAV48において、我が国提案はレーダーデーター又はAISデーターをVDR(Voyage Data Recorders)に記録される必須のデーター項目とする旨提案した。これに対し、ICSがAISの活用をできるだけ認めるべき旨主張するなど好意的な反応を得て、全体会議ではAIS情報をVDRに蓄積することは妥当であるとの意見が大勢を占めた。
 
(6)スウェーデンにおけるAISの状況
イ システム整備主体と財政
 スウェーデンでは、国土の割りに人口が少ない(約900万人)こともあり、国内のどの分野においても自動化・省力化及び民営化が進んでおり、AISも民間企業であるTelia Mobileが実施している。T社はもともと政府組織であったものが民営化され、現在はスウェーデン海事局(Swedish Maritime Administration)の指導のもと、AIS陸上局の整備・維持といった基盤整備から、AISデーターの管理など運用面まで一切の業務を行なっている。AISの基盤整備費及び運用経費は、港湾利用料などの国の財政でまかなわれている。
ロ Telia Mobile
 Telia Mobileは、AIS基地局を含む海岸局を運用するとともに、公衆回線接続、電報業務、航行警報・海上気象情報を提供する他、一部、民間航空機の管制業務、及びストックホルムにあってMRSC(Maritime Rescue Sub Center)として海難救助の業務を行っている。
ハ データー共有
 スウェーデンにおいては、コーストガード、海軍、海事局などの国の機関は船から発信されるAIS情報の全てを閲覧できる。他方、契約によりインターネット経由で情報を入手する船社、代理店及び部外者は、個別のアクセス権を取得して初めてシステムにログインでき、入手できる情報もセキュリティ上の理由から限定される。
 
(7)スウェーデンにおけるAIS活用の実態
 スウェーデンにおいて、MRCC、VTSを見学、SAAB社の担当から情報収集及びAIS搭載フェリーに乗船し船長等から情報収集した(別添3参照)。
 当該調査結果を一覧表にまとめると次のとおりとなる。
 
▲アイディアの段階、△開発・実用実験の段階、□普及・慣熟の段階、○実用の段階
機能 活用 現状 コメント
衝突予防 一部搭載・慣熟中 レーダーとAISの合成が期待される。
VTS 端末整備済、慣熟中 星国が世界最先端で整備中。
船位通報   星国で実験、結果航海士の負担が半減
捜索救助 確立されていない。  
航路標識   ゼニライトブイ社が開発・販売中
情報提供 港外の気象情報提供 灯台で観測した情報を提供
セキュリティ ロングレンジ 米国主導
 
 この表からもわかるように、AISは初期の開発の時期を経て、現在はソフトの開発を含めた具体的な活用法検討の段階に入ったといえる。







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