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2.3.5 プロトタイプ実機の処理効果とバラスト水洋上交換の効果との比較
 
 バラスト水交換法の生物数減少効果を検討した。 効果は、漲水港湾もしくは太平洋上の海水中の生物数に大きく左右され、安定しないことが明らかになった。 また、バラスト水洋上交換を実施することによって、実施しない場合よりも排水時の生物数を多くする場合もあることが明らかになった。
 プロトタイプ実機の処理効果とバラスト水洋上交換の効果を比較したところ、洋上交換によって生物数が減少した場合においても、プロトタイプで排水時処理した方が、約80倍〜3000倍も高い効果であった。
 
 
 表II.2.3.5-1及び図II.2.3.5-1には第1航海及び第2航海におけるバラスト水漲・排水海水中の植物プランクトンの変化を示した。 なお、採水試料は、プロトタイプの実験と同様に、開口径80μmと10μmのメッシュを用いてサイズ80μm以上と80μm未満10μm以上のサイズ区分に分けて分析している。
 東京での漲水原水のデータがある第1航海における植物プランクトンの変化(表II.2.3.5-1(1)と図II.2.3.5-1(1))は、80μm以上及び80μm未満10μm以上のサイズ区分、いずれのケースでも、洋上排出時の平均細胞密度(細胞数)より、洋上再漲水時の平均細胞密度(細胞数)の方が高い(多い)結果となっている。 このことから、もし、バラスト水洋上交換を実施しなかったとすると、バラストタンク内での植物プランクトンの数の減少が続き、交換した場合より少なくなったことが予想される。 航海中における植物プランクトンの減少は、暗黒環境下のバラストタンク内で自然死滅することが原因であると考えられる。 このことから、バラスト水交換のバラスト水管理方策としての効果には疑問が生じる。
 なお、各バラスト水漲・排水の過程において、初期、中期、末期の海水中の植物プランクトン数の大きな違いが検出された。 漲水時での変化は自然海域における植物プランクトン数の変化の大きさを示唆する(第1航海のシアトルから名古屋間、表II.2.3.4-15(2)と図II.2.3.4-14(2)等)。 排水時での変化は、バラストタンク内でも航海中を通じて、沈降してタンク底層部が高密度になるため生じる鉛直差等、分布の不均一性が生じている事が示唆される。 80μm未満10μm以上のサイズ区分においては、洋上排水時の植物プランクトン数が東京漲水時よりも多い結果であり(表II.2.3.5-1(1)と図II.2.3.5-1(1))、同じタンク内でも大きな密度差があることを示す例である。
 一方、第2航海(表II.2.3.5-1(2)と図II.2.3.5-1(2))においては、両サイズの区分ともに、太平洋上での排水時よりも太平洋上での再漲水時の海水の方が植物プランクトン数は少なく、バラスト水洋上交換法の効果があった例である。
 以上、植物プランクトン数で見たバラスト水洋上交換法の効果は、植物プランクトンを減少させる場合と、これとは逆に植物プランクトン数を増加させる場合もあった。 このことから、必ずしも洋上交換が移動生物量を減少させることに寄与するとは言い難く、漲水港と交換水域及びその時期の植物プランクトン数によって大きく影響されるといえる。
 
表II.2.3.5-1(1)バラスト水洋上交換による植物プランクトン数の変化(第1航海)
海域および
バラスティング
東京漲水 太平洋上排水 太平洋上再漲水 ロサンゼルス再排水
調査月日 Nov.22 Nov.25 Nov.25 Dec.1
バラスト水
交換水域
  N44°37', W177
36'〜N44°
41', W178°17'
N44°41', W178°
23'〜N44°
43', W178°30'
 
サンプリング
時期
初期 中期 末期 平均 初期 中期 末期 平均 初期 中期 末期 平均
80μm以上(cells/m3 102400 2100 300 800 1067 10000 3700 300 4667 400 0 100 167
80μm未満−10μm以上
(cells/ml)
6.120 20.040 11.000 5.000 12.013 9.006 19.012 23.064 17.027 2.508 6.521 4.274 4.434
 
図II.2.3.5-1(1)バラスト水洋上交換による植物プランクトン数の変化(第1航海)
 
植物プランクトン80μm以上(cells/m3
 
 
植物プランクトン80μm未満10μm以上 (cells/ml)
 
表II.2.3.5-1(2)バラスト水洋上交換による植物プランクトン数の変化(第2航海)
海域および
バラスティング
太平洋上排水 太平洋上再漲水 ロサンゼルス排水
調査月日 Jan.4 Jan.4 Jan.7
バラスト水交換水域 N35°59', W179°
59'〜N35°
56', W179°57
N35°59', W179°
53'〜N35°
58', W179°19'
サンプリング時期 初期 中期 末期 平均 初期 中期 末期 平均
80μm以上(cells/m3 1200 19000 3900 8033 <100 200 <100 67 <100
80μm未満−10μm以上
(cells/ml)
32.801 69.501 52.001 51.434 1.544 4.024 14.009 6.526 3.501
 
図II.2.3.5-1(2)バラスト水洋上交換による植物プランクトン数の変化(第2航海)
 
植物プランクトン80μm以上(cells/m3
 
 
植物プランクトン80μm未満10μm以上(cells/ml)
 
 
 表II.2.3.5-2及び図II.2.3.5-2には第1航海及び第2航海におけるバラスト水漲・排水海水中の動物プランクトンの変化を示した。 なお、採水試料は、前述した(1)バラスト水洋上交換による動物プランクトンの変化と同様である。
 動物プランクトンは、植物プランクトンと同様に、漲水港とバラスト水交換水域の動物プランクトン密度によって、バラスト水交換の効果が左右されている。 例えば、第1航海の80μm以上及び第2航海の80μm未満10μm以上のサイズ区分では、太平洋上での排水時よりも再漲水時の動物プランクトンの数が多く(密度が高く)、洋上交換することによって動物プランクトン数を増やす結果となった。 一方、第1航海の80μm未満10μm以上及び第2航海の80μm以上のサイズ区分では、再漲水した太平洋上海水の動物プランクトン数の方が少なく、バラスト水交換の効果があった。
 また、漲・排水時の初期、中期、末期における動物プランクトン数は、植物プランクトン同様に大きく異なっており、沈降等によってタンク内に鉛直等の分布密度差が生じていることを示していた。
 
表II.2.3.5-2(1)バラスト水洋上交換による動物プランクトン数の変化(第1航海)
海域および
バラスティング
東京漲水 太平洋上排水 太平洋上再漲水 ロサンゼルス再排水
調査月日 Nov.22 Nov.25 Nov.25 Dec.1
バラスト水交換水域   N44°37', W177°
36'〜N44°
41', W178°17'
N44°41', W178°
23'〜N44°
43', W178°30'
 
サンプリング時期 初期 中期 末期 平均 初期 中期 末期 平均 初期 中期 末期 平均
80μm以上(cells/m3 48000 13400 7700 3100 8067 19800 18600 8800 15733 200 1900 1300 1133
80μm未満−10μm以上
(cells/ml)
0.142 0.020 <0.001 0.080 0.033 <0.001 <0.001 <0.001 <0.001 <0.001 <0.001 <0.001 <0.001
 
図II.2.3.5-2(1)バラスト水洋上交換による動物プランクトン数の変化(第1航海)
 
動物プランクトン80μm以上(inds/m3
 
 
動物プランクトン80μm未満10μm以上(inds/ml)
 
表II.2.3.5-2(2)バラスト水洋上交換による動物プランクトン数の変化(第2航海)
海域および
バラスティング
太平洋上排水 太平洋上再漲水 ロサンゼルス排水
調査月日 Jan.4 Jan.4 Jan.7
バラスト水交換水域 N35°59', W179°
59'〜N35°
56', W179°57
N35°59', W179°
53'〜N35°
58', W179°19'
サンプリング時期 初期 中期 末期 平均 初期 中期 末期 平均
80μm以上(cells/m3 6300 40300 34100 26900 500 3200 17300 7000 2700
80μm未満−10μm以上
(cells/ml)
0.000 0.004 0.000 0.001 0.012 0.005 0.002 0.006 0.012
 
図II.2.3.5-2(2)バラスト水洋上交換による動物プランクトン数の変化(第2航海)
 
動物プランクトン80μm以上(inds/m3
 
 
動物プランクトン80μm未満10μm以上(inds/ml)







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