2 生活ホーム・グループホームの機能のあり方
(1)運営のあり方
ア 入居者・職員が安心して利用・従事できる体制の確保
現在、千葉県内の生活ホーム、グループホームでは、一ホーム一世話人体制のところが多く、また、生活ホームではバックアップ施設等の支援体制が確保されていないところが多い。このため、運営者側の都合や管理が、入居者の生活に影響を与えるなどの問題が生じている。世話人等の職員についても、こうした体制のなかで、十分な休暇、休息などが取得できないなど、職員の処遇・安全管理上の問題も生じている。こうした現状は、これから生活ホーム、グループホームでの生活を希望する知的障害者や家族の大きな不安要因ともなっており、入居者・職員が安心して利用・従事できる体制の確保は極めて重要である。
また、バックアップ施設等支援体制の確保が困難なため、優良な事業主体がグループホームの運営を断念したりなど、グループホーム普及を妨げる要因ともなっている。
入居者・職員が安心して利用・従事できる体制を確保するためには、すべての生活ホーム、グループホームにおいて支援体制を確保し、日中の通所先の確保、代替職員の派遣、業務面での専門性の支援等のバックアップを受けることが理想である。しかし、現実問題としては、増加する生活ホーム、グループホームをバックアップできる社会福祉法人等が絶対的に不足していること、ひとつのバックアップ施設が複数の生活ホーム、グループホームを支援することは困難なことなどから、当事者間の努力だけでは支援体制の確保は厳しい環境にあり、支援体制の確保を社会的に考える必要が生じている。
イ 職員の専門性の強化・確保
生活ホーム、グループホームの具体的な運営は世話人によって担われるが、世話人の養成や専門性の確保を社会的に支援する制度・対策がないため、現在は、従事する生活ホーム、グループホームにおいて、世話人自身が試行錯誤のなかから、専門性を獲得している現状にある。
しかし、生活ホーム、グループホームには、重度者も含め多様な属性を有する知的障害者が入居しており、経験からだけではなく、体系的・科学的知識・専門性から判断・支援を要求される場面が少なくない。グループホームでは、バックアップ施設等の外部の専門家から適切な支援を受けることが想定され、必ずしも世話人の専門性は必要とされていない(運営ハンドブック)が、実際にはバックアップ体制があっても、個別の支援は受けづらく、世話人自身が判断・対応しなければならないケースが多い。
現在の世話人は、ホームヘルパー、保育士などの福祉系の資格を有した人が多く、福祉の基礎的知識・専門性は確保されている人が多いことが考えられ、研修等を通じて、知的障害者の処遇に関する専門性を獲得する資質は十分に有していることが考えられる。
また、制度発足初期に設立された生活ホーム、グループホームの運営者、世話人は、貴重な経験から培った豊富な専門性を有している人が多く、こうした人材が有する専門知識・ノウハウを次代の運営者、世話人に継承することも重要である。
このため、初任者や経験・実績の短い世話人のうち、専門性の確保を希望する世話人等に対して、専門性を確保する学習等の機会、経験者からノウハウ提供等を得る情報交換・相談の場等を社会的に確保することが必要である。
ウ 在宅者の生活、障害を持たない人の生活と同質性のある環境の確保
在宅の知的障害者の多くは、専用の居室をもち、そのなかにテレビ、オーディオなど必要な生活備品が設置されるなど、プライバシーの確保、個人の趣味・嗜好が充足された居住空間等を確保している。グループホームは、知的障害者の生活の場であり、必要な利用上の規則・規制等についても可能な限り管理性を廃することが求められている。生活ホームについては、制度上、こうした点について取り決めはないが、個人の生活の場であるため、個人の生活上の希望やプライバシーなどを配慮することが求められる。
生活ホーム、グループホームの現状をみると、居室の状態については必ずしも個室化やプライバシーが確保された形質になっていないところもある。また、入居上の管理性が厳しく、一般の生活感覚と乖離しているところもある。個室が適さない人への2人部屋の提供など、処遇上の必要性や本人・家族の希望がある場合等を除き、生活ホーム、グループホームともに、個人の尊厳の確保や生活意向を最大限に尊重した管理・運営に努め、在宅者や障害を持たない人の生活と同質性のある環境を確保する必要がある。
エ 入居者属性に対応した新たな生活支援項目の検討
生活ホーム、グループホーム入居者、在宅の知的障害者の生活自立度をみると、食事の支度(調理)、健康管理、物品・金銭管理など、知的障害者に共通した自立度が低い活動項目がある。また、知的障害者の入居者のうち、中高年の入居者も一定の割合を占めており、生活習慣病等の慢性疾患を有し、定期的な医療管理や服薬が必要となっている人も多い。
現在の生活ホーム、グループホームについては、入居者の生活上の支援を図ることとなっているが、実際には食事の提供を中心とした家事処理能力等が中心となっており、必ずしも専門的な支援等は求められていない。しかし、現実には、生活の自立のみならず、健康管理など個人の生命確保にかかわる重要な支援も求められており、入居者属性に対応した新たな生活支援項目を検討する必要がある。
オ 知的障害者のライフステージとの近接性の確保
現在、知的障害者や家族が生活ホーム、グループホームの利用を検討する場合、一般的には市町村担当課(障害福祉課等)、知的障害者育成会、生活ホーム・グループホームの運営者のいずれかに利用上の相談を行うことが多い。しかし、多くの生活ホーム、グループホームでは、設立時に入居者が決まっているところが多く、また、入所定員の空きも少ないため、在宅の知的障害者が、利用することが必要となった場合に、入居できる生活ホーム、グループホームが極めて少ない現状にある。また、市町村ではこうした問題に加え、管内に生活ホーム、グループホームが立地していないところでは、利用できる生活ホーム、グループホームを紹介することも困難な状況にある。一方、生活ホーム、グループホームの開設を考えている運営主体が抱える問題として、運営に適した土地・建物の確保の問題があり、特に不動産取得や賃貸にコストがかかる都市部では優良な物件の確保が深刻な問題となっている。
また、在宅の知的障害者のうち、通勤・通所している人は、地域社会や通勤・通所先の人間関係やネットワークが貴重な生活上の資源となっている場合が多く、生活ホーム、グループホームの選択においても、こうした生活上の資源を最大限に継続・活用できることが必要である。こうした環境を創出するためには、生活ホーム、グループホームの入居を容易にする社会的なコーディネイト機能の導入や、地域社会で生活ホーム、グループホームが設置しやすい環境づくりが必要である。
(2)制度設計のあり方
生活ホーム、グループホームの運営は、原則としては公的補助・支援費と入居者の負担金の2つで成立しているが、このうち入居者の負担金は、ホーム間で多寡があるものの、1ヶ月当たり6万円以上となっているところが多い。
入居者の経済状態をみると、年金以外の収入を確保していない人も多く、あっても1ヶ月の収入が1万円未満の人も多い。入居を希望している在宅の知的障害者の現状も同様である。
入居者負担金が年金収入よりも上回る現在の受益と負担の仕組みは、年金以外の経済手段を確保していない知的障害者には、貯蓄や余暇活動への支出をゆるさない厳しい制度設計となっている。就業先の確保など、知的障害者の経済性を確保する対策は極めて必要であるが、厳しい経済・雇用環境、親の高齢化や死亡など、知的障害者が年金以外の経済手段を喪失するリスクは、障害を持たない人以上に高く、現実にも、貯蓄の取り崩し、家族の支援、低収入者への負担金の減免、地方公共団体による家賃助成等、本人、関係者の努力・協力によって現在の制度が維持されている現状にある。生活ホーム、グループホームの基本的な制度設計としては、障害基礎年金(2級)の給付の範囲内でまかなうことのできる制度とする必要がある。また、グループホームについては、就労要件が撤廃され、生活ホーム、グループホームいずれも未就労の知的障害者の入居が可能となっていることから、知的障害者の経済性に対応した設計の見直しが特に必要である。このため、障害基礎年金(2級)の最低給付額の引き上げ、グループホーム制度の支援費単価の見直しなどを、国等に要望する必要がある。
3 生活ホーム・グループホームを核とした地域福祉の考え方
(1)圏域について
障害保健福祉圏を想定し、圏域ごとに生活ホーム、グループホームを支援する体制を構築する。
(2)支援機能について
圏域内には、生活ホーム、グループホームのほかに、在宅の知的障害者(親元、一人暮らし、夫婦暮らし)がいるため、こうした地域の知的障害者の自立した生活を緯合的に支援する体制の確保が必要になる。こうした体制としては、千葉県が進めている地域総合コーディネイト体制(中核地域生活支援センター)を想定する。
中核地域生活支援センターの機能である相談・助言機能、権利擁護機能、連絡調整・ネットワーク形成機能等の活用を通じ、地域の知的障害者の社会参加・自立を促進し、地域社会に、知的障害者が協働・共生できる居住環境(家庭環境、社会環境)、生活環境等を創出する。
(3)生活ホーム・グループホームへの支援機能について
地域総合コーディネイト体制の拠点として整備される中核地域生活支援センターと連携した「共同(協働)バックアップ組織」の設置を検討する。
設置の必要性や支援内容については、地域の実情に応じて異なるため、地域関係者間の協議等によってその具体的な内容を検討・決定する。
図表8-9 生活ホーム・グループホームを核とした地域福祉の考え方
4 今後の知的障害者の居住環境の確保に向けて(今後の課題)
(1)一口にグループホームといってもサービスの内容や利用者の状況に多様性があることが分かった。その要因の詳細な分析は本研究では十分にできなかった。今後、その要因を分析し、よりきめ細かな制度にしていく必要がある。
(2)現在のバックアップ支援の範囲、そのあり方、又、その他の居宅サービス(特にホームヘルプサービス)の利用のあり方が明確になっていない。そのことがグループホームの格差につながっている。これらについて研究していく必要がある。
(3)知的障害者の生活の場として大きな比重を占めているものに、知的障害者入所更生施設等の知的障害者入所施設がある。知的障害者入所施設では、集団生活を前提に一定の管理の下で知的障害者の生活が設計されているが、社会一般の生活観や生活実態と乖離した現状が指摘されている。本研究では知的障害者入所施設における居住環境については検討を行っていないが、今後は知的障害者入所施設等における居住環境の確保についても、その問題点・課題を把握し、改善のための取組を図る必要がある。
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