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(3)基本的方向
 千葉県の知的障害者の居住環境の現状や問題点・課題を鑑み、基本的目標を達成するためには、次の基本的な方向が必要である。
 
ア 知的障害者の多種多様な生活の「場」の供給
イ 知的障害者を支える多層的な地域社会づくり
ウ 知的障害者のエンパワメント
エ 知的障害者を支える社会的資源のマネジメント
オ 知的障害者・家族と地域社会の安心・納得の確保
カ 生活ホーム・グループホームの整備・拡充
 
ア 知的障害者の多種多様な生活の「場」の供給(居住環境の社会化)
 知的障害者の多くは、親元と知的障害者入所施設で生活をしているが、他の生活の「場」が不足しているため、知的障害者入所施設が通過施設としての機能を果たせず、在宅の知的障害者の自立や施設入所者の社会生活への移行が促進しない現状がある。このため、知的障害者の居住環境として、地域社会に十分な生活の「場」を供給する必要がある。
 地域社会に供給する生活の「場」とは、生活ホーム、グループホームだけではなく、民間や公営・公社・公団の賃貸住宅など、知的障害者が生活できる場を可能な限り豊富にまた多様に供給していく必要がある。
 
基本的方向の具体的イメージ(例)
○知的障害者が生活できる民間及び公営・公団・公社の賃貸住宅の開拓・開発
○既存の民間及び公営・公団・公社の住宅の改造
○県営住宅等の公営住宅の制度の見直し、規制緩和等
○生活ホーム、グループホームの改善・拡充
 
図表8-7 多種多様な生活の「場」の供給の方向性
 
イ 知的障害者を支える多層的な地域社会づくり(地域社会を基盤にした社会的支援の確保)
 知的障害者の家庭環境を支える社会環境は、就業・通所の場、学習の場、社会参加の場とさまざまなものがあり、総合的に整備するためには長期的・継続的な取組が必要となる。そうした社会環境のなかで、特に重要なものは、知的障害者をとりまく地域住民・地域社会による社会的支援である。
 生活ホーム、グループホームをみると、日常生活の声かけ(挨拶等)をはじめ、町内会・自治会への加入、地域行事への参加など、地域住民、地域社会との関係構築により、知的障害者の社会的自立・参加が促進されている。また、知的障害者との共生を通じて、地域住民や地域社会の側にも障害者観、福祉観の見直しが自発的・自働的に行われ、地域のノーマライゼーションがより効果的に促進されている。
 これまで知的障害者に対する社会的支援は、主として社会福祉事業者(社会福祉法人等)、行政(県、市町村)、当事者団体(知的障害者育成会等)等によって行われてきたが、これに対して、地域社会・地域住民のかかわり方は必ずしも十分でなかった。今後は、知的障害者の最大の支援者は地域住民・地域社会となるよう、住民に対する意識啓発、情報提供、交流・協働の場の確保などを通じ、知的障害者に対する理解を深め、必要とされている支援や地域環境を、知的障害者や家族と協働して社会化、具現化できるようにする必要がある。このため、これまでの社会的支援に加え、地域住民・地域社会も含めた多層的な社会的支援を可能とする地域社会づくりが必要である。
 
基本方向の具体化のイメージ(例)
○地域住民との交流・活動機会の拡充
○町内会・自治会等への参加の促進と加入条件の緩和(福祉系部会等への役職の委嘱、地域活動への参加、町内会費の減免等)
○地域づくり、まちづくりへの知的障害者や家族の参加
 
図表8-8 多層的な地域社会づくりの方向
 
ウ 知的障害者のエンパワメント(知的障害者の能力活用)
 現在進められている国の社会福祉基礎構造改革では、今後の改革の方向として、従来の保護・救済的な福祉から、個人の尊厳が確保された社会連帯に立脚した支援を行うことを求めており、そのためには、障害者自身が持つ能力(意欲・資質・才能)を最大限に発揮できる環境づくりが必要となってきている。しかし、知的障害者の多くは、自己の能力を発揮する機会が少なく、社会的にも十分にその能力を引き出すことに成功していない。例えば、就業面では、知的障害者の能力を活かした労働が不足しており、また、知的障害者の労働に適切な評価や対価が社会的に払われていない。こうした知的障害者の能力活用の不備が、知的障害者の尊厳の確保、生きがいの充足、経済的自立を制約したものとしており、社会的参加・自立を妨げる悪循環をもたらしている。
 近年、障害者のエンパワメントの重視がさけばれているが、その目的は、障害者の能力や権限を訓練や指導によって後から付加するという発想ではなく、障害者には本来ひとりの人間として高い能力が備わっているのであり、社会的な環境を整備し、その能力を引き出し、開花させるというものである。
 知的障害者が希望する居住環境を確保し、その維持・発展を目指すためにも、従来型の安易なパターナリズムではなく、知的障害者の権利と自由、義務と責任の両方の保障を目指したエンパワメント型の学習の場、就労の場、コミュニティ活動の場を社会的に確保する必要がある。
 
基本的方向の具体化のイメージ(例)
○知的障害者の能力を発揮し、適切な評価・対価を保証した就業の場・環境の創出
○知的障害者の能力を引き出し、発達させる生涯学習体制の整備
○分野横断的な知的障害者の能力発揮機会の拡充(シルバー人材センターによる職域の確保、学校教育・社会教育における福祉教育の指導者としての登用など)
 
(注)「エンパワメント」とは、人間が生まれながらに保持している個性、感性、技術、意識等の能力を尊重し、そうした能力を肯定的・積極的に開花させる社会的環境を創出することで、個人の能力を阻害するさまざまな社会的要因を取り除き、人間一人ひとりが潜在的に持っている能力を最大限に発揮させることをいう。
 
エ 知的障害者を支える社会的資源の活用(社会的資源のマネジメント機能の充実)
 知的障害者の自立した生活や安全・快適な生活を保障するためには、そうした生活を支えるさまざまな人材やサービス等の社会的資源を確保することが重要であるが、用意された社会的資源を知的障害者や家族が効果的に利用することもあわせて重要である。しかし、支援のための制度・サービスが整備されても、十分に利用されていないものも少なくなく、特に制度化されて間もないサービス等については、社会的周知が十分に進んでいないものもある。例えば成年後見制度については、利用者が少ないだけではなく、制度の内容自体が十分に理解されていない現状がある。その一方で、成年後見制度の適切な利用によって防止することができる権利侵害、経済的被害等の社会問題等が増加してきている。
 知的障害者や家族自身が、こうした社会的資源を効果的に選択し利用することは、単に生活上の利便性を高めるだけではなく、知的障害者の人権や安全・財産を保全するうえで極めて重要なことであるが、知的障害者が主体的・自律的に社会的資源を利用することは、情報の入手や理解、利用に係る手続き、経済的負担などさまざまな問題をかかえており、知的障害者や家族だけで十分に行える環境にない。
 今後、在宅(親元等)だけではなく、一人暮らしなど地域社会で自立した生活を志向する知的障害者が増加していくことが考えられるが、知的障害者や家族が、地域社会のなかで自立した生活や安全・快適な生活を営むうえで、知的障害者や家族を支援する社会的資源を有効に活用することができる社会環境を構築する必要がある。特に社会的資源が、知的障害者の自立度や生活意向、生活実態に適応し、本人や家族にとって効果的に活用されるためには、ケアマネジメント等のサービスの調整・コーディネイト機能を強化する必要がある。
 
基本方向の具体化のイメージ(例)
○社会福祉協議会「地域福祉権利擁護事業」、成年後見制度等の周知や利用の促進
○在宅サービス等の支援費制度の適切な利用
○知的障害者のサービスの相談・調整・コーディネイト機能の拡充
 
オ 知的障害者・家族と地域社会の安心・納得の確保(障害者と社会との新たな関係づくり)
 知的障害者の居住環境が社会化され、地域社会のなかで障害を持たない人とともに生活を営むことが一般化すれば、社会と知的障害者の関係が濃密化、複雑化し、知的障害者の権利・自由が拡充される一方で、社会とのさまざまな摩擦・軋礫が生じる恐れがある。こうした問題の発生を未然に予測し、適切な防止策を講じることは必要であるが、その方策には限界があり、発生した問題に知的障害者や家族が向き合い、必要な場合にはその問題解決に義務や責任を負うことも今後は必要となってくる。
 これまでの知的障害者に対する社会的自立には、こうした社会的問題が発生することを懸念し、可能な限り知的障害者を社会から隔離する方策がとられてきた。しかし、家族や入所施設から自立し、地域社会のなかで一人で生活を営むためには、知的障害者本人はもとより家族や知的障害者を受け入れる社会のさまざまな関係者が、この問題について十分に理解し、合意を形成する必要がある。また、こうした障害者と社会の新たな関係づくりが成立しないと、知的障害者や家族が地域社会で生活していくことへの安心や納得を確保することができない。
 したがって、知的障害者の居住環境の確保にあたっては、知的障害者と社会との新たな関係づくりを進め、知的障害者や家族と社会との相互の安心・納得を確保する必要がある。
 
基本方向の具体化のイメージ(例)
○知的障害者育成会と近隣団体(町内会自治会、地域づくりNPO等)との、対話・交流機会の拡充
○民生・児童委員、社会福祉協議会、食生活改善推進委員、市町村保健師・ケースワーカー等の地域の保健・福祉関係者と地域の知的障害者との情報の共有
 
カ 生活ホーム・グループホームの整備・拡充
 ノーマライゼーション理念に基づく知的障害者の居住環境の確保の最も現実的・具体的な手段が、生活ホーム、グループホームの整備である。生活ホーム、グループホームを整備することで、上記のア〜オの基本的方向の実現にも寄与するため、生活ホーム、グループホームの整備・拡充は社会的に大きな意義を有する。
 生活ホーム、グループホームについては、千葉県障害者施策新長期計画(平成7年〜16年)に基づき整備が進められ、平成6年度末の21箇所から約5倍の109箇所と大幅に増加した。なお、市町村の市町村障害者計画では、調査時点以降平成17年3月までに累計すると新たにグループホーム61人分の整備が予定されている。
 国の新障害者プランでは、今後、新たに4,560人分の知的障害者のグループホームの整備を目標に掲げている。これを在宅の知的障害者数から、千葉県に按分するとグループホームは新たに260人分の整備が必要になり、既存分と合わせて約420人分の確保が必要となってくる。千葉県の場合は、グループホームとは別に生活ホームが整備されており、この定員数を加えると、現在既に約500人分が確保されている現状にある。
 しかし、市町村において整備の格差がみられ、生活ホームとグループホームが両方整備されている市町村は5市で、生活ホームだけが設置されている市町村が21、グループホームだけが整備されている市町村が5、両方とも設置されていない市町村が48となっている。(平成15年8月現在)
 今後の基本的方向としては、必要な時に誰もがどの地域でも利用することができるよう、(1)利用者ニーズに対応した必要な量の確保、(2)安心・安全性・一定の専門性等の十分な質の確保、(3)地域的な整備格差の解消等により、計画的な整備・拡充を図る必要がある。
 
基本方向の具体化のイメージ(例)
○入居を希望する知的障害者等のニーズに対応した生活ホーム、グループホームの量的な建物、居室の確保
○安心・安全性・一定の専門性等が確保され、知的障害者が“自立して生活できる”、十分な質の確保された生活ホーム、グループホームの整備
○知的障害者が希望する地域環境のなかで生活できるよう、生活ホーム・グループホームを千葉県内各地域に計画的に整備・拡充







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