日本財団 図書館


3 業務・運営
(1)業務
 県及び国要綱では、生活ホーム、グループホームが行う必要がある業務内容を明示しているが、両者に共通する業務は、(1)入居者に対する食事の提供、(2)入居者負担金の徴収・管理の2つで、他の項目については、必ずしも一致していない。
 生活ホームでは、就労や社会福祉施設へ通所する入居者を対象としているため、入居者の就労・職業訓練・社会福祉施設等への通所にかかる指導、入居者の地域活動等の社会参加に必要な援助及び指導について明示されている。
 グループホームでは、生活ホームにみられる就業・通所・社会参加等への援助及び指導については示されていないが、日常生活に必要な援助については、食事の提供以外にも、健康管理・金銭管理、余暇利用の助言をはじめ、日常生活に必要な援助を行うこととされている。また、世話人の指導・監督・援助・研修、入居者の記録、運営にかかる会計諸帳簿の整備なども明示されている。
 
図表3-6 生活ホーム・グループホームの業務内容の比較(1)
区分 生活ホーム グループホーム
根拠 「知的障害者生活ホーム運営事業実施要綱」
(昭和61年7月1日)
「知的障害者地域生活援助事業実施要綱」
(平成元年5月29日)
業務内容 (第9条)
・入居者の日常生活の指導及び自炊等のできない入居者に対し、飲食物の提供を行うこと
・入居者が疾病等により日常生活の困難が生じた場合、医療機関、援護者及び家族等に速やかに連絡をとるなど適切な措置を行うこと
・入居者を地域社会の成員として尊重し、地域社会の行事、奉仕活動等への積極的な参加指導を行うこと
・入居者の社会適応状況に応じ、就労、職業訓練及び社会福祉施設等への通所指導を行うこと
・その他社会参加に必要な援助及び指導を行うこと
(第15条)
・生活ホームを運営する者は、入居者の負担金等にかかる会計及び処遇等にかかる帳簿を整備しなければならない
(第6)
・世話人の選定及び世話人の代替要員を確保すること
・入居者に対して食事の提供、健康管理、金銭管理の援助、余暇利用の助言等日常生活に必要な援助を行うこと
・緊急時の対応、職場等における問題への対応、財産管理等入居者に対し、上記に掲げるもの以外の必要な援助を行うこと。
・世話人の指導、監督、援助、研修を行うこと。
・入居者の生活状況、食事の内容等に関する記録を行うこと。
・入居者負担金を徴収し、それを適正に処理するとともに、これに関連する諸帳簿を整備すること。
・グループホーム運営にかかる会計に関する諸帳簿を整備すること。
 
図表3-7 生活ホーム・グループホームの業務内容の比較(2)
区分 入居者関係 世話人関係 管理関係
食事の提供 健康管理 金銭管理 余暇利用の助言 援護者

家庭への連絡
医療機関への連絡 地域社会活動への参加指導 就労

職業訓練

通所指導
世話人の指導 世話人の監督 世話人の援助 世話人の研修 入居者の記録 入居負担金の徴収
・管理
運営帳簿等の整備
生活ホーム              
グループホーム        
(注)○運営主体に求められる業務、◎世話人に全部又は一部を行わせることができる業務
 
 上記の運営主体が行う業務のうち、グループホームでは、(1)生活援助、(2)入居者の生活状況、食事の内容等に関する記録、(3)入居者負担金の徴収・管理(諸帳簿整備)については、全部又は一部を世話人に行わせることができると規定している。
 調査したホームの業務のうち、現在、世話人が行っている業務内容をみると、生活ホーム、グループホームともに、食事の提供を中心とした「ホーム生活者(入居者)の生活介助」が中心で、回答があった世話人の9割以上が担当している。その他では、「毎日の記録作成(日報)」、「ホーム生活者(入居者)の個人記録の整理」、「ホームの現金出納」、「ホーム生活者(入居者)の金銭管理」が世話人の業務となっているホームが多い。
 また、「役所への提出資料(実績報告等)の作成」、「ホーム生活者の事務手続き代行」は、グループホームではバックアップ機関を確保していることや要綱上世話人の業務とされていないことなどから、生活ホームと比較して担当していない世話人が多くなっている。
 
図表3-8 世話人の業務
 
(2)運営
ア 収支構造
 聴取調査、「生連協・生活・グループホーム実態調査報告書」等から、生活ホーム・グループホームの平均的な収入・支出構造をとりまとめると、図表3-9のような内容となっている。
 収入については、(1)公的補助・支援費に係る収入、(2)徴収金、(3)家賃本人負担の3つが基本収入となっている。このうち、(1)については、入居者1人当たり7万3,000円(グループホームの重度の区分Iの入居者の場合は、地域区分、定員ごとに市町村長が定める額)が基準額となっており、収入額全体の5割以上を占める基幹的財源となっている。(2)、(3)は入居者(又は入居者の家族・支援者)が負担するものであり、(2)は食費・日用品費に充てられるもので、月額は入居者1人当たり3〜5万円の負担額となっている。負担方法については、定額制としているホームも多いが、毎月の支出実費額を入居者割にして請求しているホームもあり、実費負担の要素が強い。(3)は家賃負担として徴収されるもので、入居者の負担額は1〜4万円となっている。事業者が施設に係る土地・建物を賃貸している場合(賃貸型ホーム)は、土地・建物を所有している場合(所有型ホーム)よりも家賃本人負担額は1〜2万程度高くなる場合が一般的である。
 支出については、(1)世話人等職員人件費、(2)食費・公共料金等の生活費、賃貸型ホームの場合は(3)地代、家代等が大きな支出項目となっている。その他の支出としては、什器備品費、車両費、所有型ホームの場合は、住宅関連保険金、修繕積立金等の費用項目があった。
 
図表3-9 ホームの収支構造(モデル)
(注)
事例調査結果、「生連協・生活・グループホーム実態調査報告書」等を基に、入居者4人のホームのモデル的な収支構造を算定したもの。特定のホームの収支を意味しない。
 
イ 入居規則
 生活ホームでは、運営主体は「入居者の状態、能力等を把握し、指導方針を定める」ことが規定されており、生活指導の観点から、入居上の規則等を定めることが認められている。これに対して、グループホームでは、アパート・マンション等の一般住宅と可能な限り同質性をもたせる観点から、運営主体による管理性を排除することが原則となっており、生活上の規則の取り決めについては、入居者同士の合意形成によることが望ましいとされている(運営ハンドブック)。
 
(1)日常生活の規則
 外出、外泊、外食、来客の4つの日常生活上の規則をみると、生活ホーム、グループホームともに「原則として自由」としているところが4〜5割程度を占め最も多くなっている。しかし、一定の管理性を入居者に求めているホームも存在しており、外泊などは、「許可した場合のみ」とするホームの割合が比較的高くなっている。
 
図表3-10 日常生活の規則
(注)
調査では、“原則自由”は「原則として自由」、“ルールの範囲内”は「時間など、一定のルールを決めて、そのなかでは自由」、“許可した場合”は「許可した場合のみ」、“決めていない”は「特に決めていない」と標記し、ホーム代表者から回答を得た。
 
(2)設備利用の規則
 浴室、台所など、居室以外の居住環境として必要な施設は、共用の設備等を確保し、入居者・世話人が共同で利用することとなっている。共用設備の利用にあたっては、入居者間の円滑な利用や安全管理上の目的から、利用に一定の規則を設けているホームもある。
 調査したホームの浴室、台所、共用スペース(リビングルーム等)の3つの設備の利用上の規則をみると、共用スペースについては8割以上のホームでは特に規則を設けず「原則として自由」に利用できる環境にある。台所、浴室についても、「原則自由」とするホームが多いが、共用スペースと比較すると、一定の利用規則を設けているところが多くなっている。
 
図表3-11 設備利用の規則
(注)
調査では、“原則自由”は「原則として自由」、“時間内は自由”は「使用できる時間を決めて、時間内には自由に利用が可能」、“許可した場合”は「使用できる時間を決めて、時間に許可した場合のみ利用が可能」又は「許可した揚合のみ」、“決めていない”は「特に決めていない」と標記し、ホーム代表者から回答を得た。
 
(3)家電製品の利用
 第2章でみたとおり、在宅者の大半が専用の個室を確保し、居室にはテレビ・オーディオなどの家電製品を専用している現状にある。家電製品は生活の利便性を向上させるだけではなく、パソコンやAV家電のように個人の嗜好・趣味などとも関係が深いものも増えてきたため、ホームにおいても居室への持ち込みを希望する入居者が増えてきている。調査では、主要な家電製品8品目の利用可能状況について調査した。
 生活ホームとグループホームの間に利用上の大きな差はないが、両方ともテレビやビデオ・オーディオ、携帯電話といった個人的に使用するものは持込自由が多く、電話やエアコン、冷蔵庫等の共用するものはホーム側で設置する場合が多い。ただし、エアコン等の冷暖房・空調設備の設置については、居住者の管理能力(火の始末等)や経済的負担能力(設置費や毎月の冷暖房費)により、入居者ごとに設置を決めているホームもあり、エアコン等の冷暖房機が設置されていない居室で生活する入居者もみられる。
 
図表3-12 家電製品の利用
(注)
“持込自由”は「個人の持ち込みにより、自由に利用可能」、“時間制限”は「個人の持ち込みによるが、使用できる時間を決めている」、“ホームで設置”は「ホームで設置してある」、“未設置・持込不可”は「設置していない、あるいは持込を許可していない」と標記し、ホーム代表者から回答を得た。
 
(3)運営上の問題点
ア 代表者からみた問題点
 代表者が考えるホーム運営上の問題点については、生活ホーム、グループホームともに、第1位が「現在の制度が、将来的に変更になったり、廃止される恐れがあること(制度の変更)」、第2位が「世話人などの職員の給与や福利厚生を改善すること(給与・福利厚生)」であった。
 問題点が異なる事項をみると、生活ホームでは、「入居を希望する人が少ないため、定員に空きのでる恐れがあること(希望者が少ない)」と回答したホームが約2割を占めているのに対して、「入居を希望する人が多いため、問い合わせを断っていること(希望者が多い)」と回答したホームは1割未満となっている。これに対してグループホームの場合は、「希望者が少ない」と回答したホームは1割未満で、反対に「希望者が多い」と回答したホームが3割を占めている。また、「採算性があわない、赤字であること(赤字)」は、生活ホームでは約4割のホームがあげているのに対して、グループホームでは1割未満にとどまっている。
 
図表3-13 代表者からみた運営上の問題点
 
イ 世話人からみた問題点
 世話人が考えるホーム運営上の問題点については、生活ホームでは、「給与や福利厚生の水準が希望どおりでないこと」、「専門知識や専門技術が不足していること」、「休日や休息が十分にとれないこと」の3項目が高い割合を示した。これに対して、グループホームでは「専門知識や専門技術が不足していること」、「休日や休息が十分にとれないこと」、「入居者との意思の疎通が十分にできないこと」の3項目が高い割合を示している。
 調査で把握した世話人の自由回答意見などから、各問題の背景をみると、共通問題である「休日・休息上の問題」については、入居者と同居している世話人の場合、勤務時間と私的時間との区分が困難なこと、交代要員の確保が難しいため定期休暇、長期休暇などの取得が困難なことなどがあげられている。「専門知識・技術上の問題」については、生活ホーム制度、グループホーム制度は創設されてからの期間が短く、経験やノウハウの蓄積が不足していることなどがあげられている。グループホームで高かった「入居者との意思の疎通」については、世話人の勤務経験の短さや同居型勤務の世話人の割合の低さなどが影響していることがあげられている。
 
図表3-14 世話人からみた運営上の問題点







日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION