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3 連邦財政調整制度
(1)連邦財政調整の目的
 各州はその規模や地理的条件、経済的条件が異なるため、財政需要にも課税力にもかなりばらつきが生じる。しかしながら、州税の立法権はそのほとんどが連邦に属しており、州には、税率の変更や新税の導入などによって、自ら財政力を調整する裁量がほとんど与えられていない、そこで租税収入の再配分、すなわち狭義の財政調整が必要とされる。
 ドイツ憲法は、州間の財政力不均衡を調整することを連邦および州に求めており、その要請は連邦法である財政調整法を通じて実現されている。こうした州の財政調整は連邦財政調整と呼ばれ、売上税収の垂直的配分、売上税収の州間配分、州間財政調整、連邦補充交付金という4つの手段を通じて行われている。
 
図表2-2-7 ドイツにおける財政調整の概念
出所:
Zimmermann, H [1999], Kommunalfinanzen, Nomos Verlagsgesellschaft (Baden-Baden)
 
(2)売上税収の垂直的配分と州間配分
 共同税の税収は、連邦・州・市町村に配分されるが、売上税は他の共同税と異なり、その比率が弾力的に決定される。法人税や所得税の配分比率は憲法に定められており固定的であるが、売上税の場合は、必要に応じて連邦法である財政調整法の改定によって変更される。財政調整法の改正には連邦参議院の合意が必要とされる。
 売上税収のうち州が取得した分については、その75%がすべての州に人口比例的に、残りの25%が財政力の弱い州に優先的に配分される。財政力の弱い州とは、売上税以外の州税額の一人当たり州平均額が、連邦平均を下回る州と定義され、連邦平均額の92%に至るまで配分される。
 州取得分の25%で平均の92%が達成して余りある場合には、残余分は全ての州に人口比例的に配分される。
 この配分方法には、すべての州に一定水準以上の所得を保障することに加え、州間の財政力格差を縮小する効果がある。売上税は付加価値税であるので、本来であれば州内で生じた付加価値の総額か、または州内で行われた消費の総額を指標として配分すべきであるが、現行では、税収は主として人口に応じて配分される。財政需要の少なくない部分が人口に依存する場合、課税力をより財政需要に近づける措置となる。
 
(3)州間財政調整
 州間財政調整とは、財政力の強い州から財政力の弱い州へ交付金を給付する制度である。これは各州が相互に直接的な財政調整を行うことを意味しており、狭義の水平的財政調整にあたる。この州間財政調整は他の国にみられない独特のものであり、共同税と並んでドイツの財政調整制度を特徴づけるものとなっている。
 給付要件としては以下の3つの要素がある。
 
○各州の課税力
○各州の財政需要
○調整の度合い
 
ア 課税力測定値の算出の仕方
 州の税収+州内市町村税収合計額の2分の1(但し、市町村の税率決定権に影響を与えないよう、市町村の収入は税率に依存せず、課税ベースのみから見積もられる。また、港湾を有する州については特別負担額として一定額が控除される)。
 
イ 調整額測定値(狭義の水平的財政調整)
 課税力測定値の全州合計額を補正人口(州及び州内市町村の人口を人口規模と人口密度で補正したもの。州の人口は都市州の場合のみ35%増しとする。州内市町村の人口密度補正係数は以下の下表の通り)の比率で各州に配分。
 これは人口規模が大きいほど、あるいは人口密度が高いほど、住民一人当たりの財政需要が大きくなるというドイツの伝統的な想定(ポーピッツの主張)に基づいている。
 ・課税力測定値が調整額測定値を下回る州は、調整額測定値の95%に至るまで給付を受ける(92%までは100%補償、92%〜100%まではその37.5%を補償するものとして受領額を決定する)。
 ・課税力測定値が調整額測定値を上回る州は、上回る額の比率に応じて分担する(平均額の100%〜101%に相当する部分についてはその15%を、101%〜110%については66%、110%を超える部分についてはその80%を拠出するものとして「調整義務額」を算定し、この額の比率で給付総額を各拠出州で按分する)。
 
図表2-2-8 人口規模による補正
人口 補正係数
〜5千人 100%
5千人〜2万人 110%
2万人〜10万人 115%
10万人〜50万人 120%
50万人〜100万人 125%
100万人〜 130%
(注)
補正係数はmarginal rate。各bracketに適用される。人口7000人ならば、5000人×100%+(7000人−5000人)×110%=7200人。
 
図表2-2-9 人口密度による割増
人口密度 割増率
1500〜2000人/km2 2%
2000〜3000人/km2 4%
3000人km2 6%
(注)
割増率は全人口に適用される。人口10万人で人口密度が3000人/1km2ならば、10万人×104%で10.4万人となる。
 
(4)連邦補充交付金
 不足額連邦補充交付金は、州間財政調整を行ってもなお財政力が不足する州に給付される。州間財政調整では、課税力測定値に交付金受領額を加えたものが、最低でも調整額測定値の95%となるように交付金が給付される。不足額連邦補充交付金は、最大で、残された5%に90%を乗じた額、すなわち調整額測定値の4.5%が給付される。これにより、すべての州に調整額測定値の99.5%に相当する財政力が保障される。
 また、連邦補充交付金には、不足額補充金以外に、特別な需要を補償するためのものとして下表の交付金が設けられている。
 
図表2-2-10 特別な需要を補償するための連邦補充交付金
政府運営費用に係る
特別需要連邦補充交付金
規模の小さい州は政府運営費用や中央行政費用が相対的に重くなるため、これを補うために給付される
旧東ドイツ諸州に対する
特別需要連邦補充交付金
旧東ドイツ地域に属する6州に、旧西ドイツ地域の経済に参加するために係る特別な負担と、州に帰属する市町村の相対的に弱い財政力を補うために給付される
移行期連邦補充交付金 ドイツの再統一に伴う旧西ドイツ諸州の負担を軽減するため、旧西ドイツの財政弱体州に給付される
財政再建のための
特別連邦補充交付金
ブレーメンとザールランドに対し、財政再建の援助を目的として給付される







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