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第2章 ドイツの財政調整制度
1 はじめに
(1)国家統治構造
 ドイツ連邦共和国は、その名が示すとおり連邦国家であり、連邦、州、市町村という3つの行政レベルによって構成されている。したがって、州は、中央政府の一環であり、地方団体ではない。
 主要な政府としては、連邦政府、州政府及び地方団体がある。地方団体の基幹をなすものは、郡及び市町村である。なお、郡は、地方団体であると同時に、州政府の末端機構として、最下級国家機関でもある。
 
図表2-2-1 国家統治構造
資料:現代地方自治全集24「外国の地方制度」
 
 1990年に東西ドイツが統合され16州により構成され、そのうち11州が旧西ドイツ地域にあたり、ハンブルグを始めとする市でありながら州である都市州(1市又は2市の都市のみから構成)が、ブレーメン州及びベルリン州(東西ベルリンが統合)の3州がある。
 また、市町村には、次に掲げられるような種類がある。なお、法的には市町村には含まれないが、町村連合、共同町村等、市町村連合組織を含めて、「市町村」と呼ぶことが少なくない。
 
(2)州と同格の市(都市州)
 州と同格の市は州として取り扱われる
 
(3)郡と同格の市(特別市)
 郡と同格の市、すなわち、郡に所属せず、郡から行政的に独立した市は、特別市と呼ばれ、二層制地方団体制度の例外を成している。
 特別市の事務は、おおむね二層制地方団体制度が適用されている地域における郡の事務と市町村事務を合わせたものである。したがって、特別市は、原則的にはその区域内における地域的行政事務のすべてを独自に執行できる。
 
(4)郡に所属する市町村
 郡所属市町村は、郡を第一層地方団体とする第二層地方団体であり、郡の行政監督を受ける。
 なお、特色としては巨大都市が存在せず、大都市の数が少ないこと、及び極小規模町村が多いことがあげられる。
 
図表2-2-2 基幹的地方団体の構造
(注)
郡:州により設置され、州の最下級行政機関としての性格と自治権を有する地方団体としての性格とを併せもつ。
資料:
現代地方自治全集24「外国の地方制度」
 
(1)租税体系
 ドイツの租税は通常、共同税、連邦税、州税、市町村税の4つに分類される。これは税収がどの行政レベルによって獲得されるかという点に注目した分け方である。連邦税、州税、市町村税はいうまでもなくそれぞれの公共団体が独占的に収入を獲得する税のことであり、共同税はその税収が連邦、州の2者、あるいは連邦、州、市町村の3者に一定の比率に従って配分される。
 主要な税の税目と税収を示したものである。税収面で最も重要であるのは共同税で、全体の7割強を占めている。これには所得税、法人税、売上税(日本の消費税に相当する)が属する。これに対して、連邦税は個別消費課税が中心となっており、州税には主として資産課税が属している。税収はそれぞれ15.7%と3.7%であり、共同税に比べるとかなり低い。市町村税は主として営業税と不動産税からなっているが、これらの税収もまた全体の7%強にすぎない。
 
図表2-2-3 主要な税目と税収(2000年度)
主要な税目 税収額 (百万ユーロ) 構成比 (%)
共同税
 所得税(個人所得税)
 法人税(法人所得税)
 売上税(付加価値税)
368,426
202,718
24,836
140,872
73.3
40.3
4.9
28.0
連邦税
 関税
 保険税
 タバコ税
 コーヒー税
 ブランデー税
 スパークリングワイン税
78,897
3,394
7,243
11,443
1,087
2,151
478
15.7
0.7
1.4
2.3
0.2
0.4
0.1
 石油税
 電気税
 その他
37,826
3,356
11,920
7.5
0.7
2.4
州税
 相続・贈与税
 不動産取得税
 自動車税
 賭博・くじ税
 火災保険税
 ビール税
 その他
18,443
2,981
5,081
7,015
1,801
288
844
433
3.7
0.6
1.0
1.4
0.4
0.1
0.2
0.1
市町村税
 不動産税
 営業税
 その他
36,658
8,849
27,025
784
7.3
1.8
5.4
0.2
合計 502,425 100.0
(注)1ユーロ=1.95583DMで換算
資料:Statistisches Bundesamt, Statistisches Jahrbuch 2001 für die Bundesrepublik Deutschland, Metzler-Poeschel, Stuttgart, 2002,
 
(2)共同税
 共同税である所得税、法人税、売上税はそれぞれ異なった比率で各行政レベルに配分される。所得税は連邦と州にそれぞれ42.5%が割り当てられ、15%が市町村に配分される。ただし所得税のうち利子源泉徴収分については、連邦44%、州44%、市町村12%の割合で、配当の源泉徴収分は、連邦50%、州50%の比率で分けられる。法人税は所得税の配当源泉徴収分と同様、連邦と州に50%ずつ割り当てられる。こうした所得税と法人税の配分比率は憲法に定められており、市町村へ配分後の残額を、連邦と州で単純に折半するところに特徴がある。
 
図表2-2-4 共同税配分前および配分後の税収比率(2000年度)
資料:
Statistisches Bundesamt, Statistisches Jahrbush 2001 für die Bundesrepublik Deutschland, Metzler-Poeschel, Stuttgart, 2002より
 
(3)売上税
 他方、売上税の税収は、まず法定年金に対する連邦補助金の財源として5.63%が連邦に割り当てられる。次にその残額の2.2%が市町村に割り当てられる。そしてさらにその残額が、連邦と州とによって分けられる。
 その比率は、連邦と州の財政状況に応じて弾力的に決定される。参考までに2000年度の配分比率は連邦50.25%、州49.75%である。
 
図表2-2-5 共同税の配分比率(2000年度)
区分 連邦 市町村
所得税 注1 42.5% 42.5% 15.0%
所得税 利子源泉徴収分 44.0% 44.0% 12.0%
所得税 配当源泉徴収分 50.0% 50.0% -
法人税 50.0% 50.0% -
売上税 注2 52.0% 45.9% 2.1%
営業税分担金 50.0% 50.0% 拠出
(注)
1: 利子源泉徴収分及び配当源泉徴収分を除く。
 
2: 市町村への配分は、法定年金補助金財源分である5.63%を連邦へ配分した残額の2.2%であるので、(100%-5.63%)×2.2%で求めた。また、連邦への配分は、市町村配分後の50.25%に法定年金補助金財源分を加えたものであるので、(100%-5.63%-2.2%)×50.25%+5.63%で計算した。同様に、州への配分比率は、(100%-5.63%-2.2%)×49.75%で求めた。
 
図表2-2-6 課税権の配分
区分 立法権 行政権 税収権
共同税
連邦税
州税
市町村税・法定税
市町村税・法定外税
連邦
連邦
連邦
連邦・市町村
州・市町村



州・市町村
市町村
連邦・州・市町村
連邦

連邦・州・市町村
市町村
(注)1:
共同税・連邦税・州税の立法権は連邦に属する。
2:
共同税・関税を除く連邦税・州税の徴収は州が行う。
3:
市町村の法定税(営業税及び不動産税)の立法権は連邦に属するが、賦課率決定権(実質的な税率決定権)は市町村に属する。税額=課税標準×基準率×賦課率
4:
市町村の法定外税(地域税)の立法権のあり方については州がこれを定める。
5:
市町村税の徴収は原則として市町村が行う。







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