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小規模自治体における自治の拡充に関する研究

 事業名 小規模自治体における自治の拡充に関する研究
 団体名 地方自治研究機構 注目度注目度5


5 おわりに−衣川村における自治拡充の展望−
 
 以上、本章では、今後の村づくりに関し、住民と村による取組の基本方向及び重点的取組メニューを、他地域での取組事例を召しつつ、検討、提示した。しかしながら、時間的制約などから、提示した個々の重点的取組メニュー相互の関連や優先順位、さらには、行政施策として取組むのか、住民・地域主体で取組むのかといった取組方法についても深く掘り下げるまでには至らなかった。行政計画風にいえば、村の基本計画での主要な計画項目の総合的かつ体系的整理にとどまらざるをえなかった。
 ここで、「おわり」として、本村において、住民と村行政が連携・協力して、すなわち、協働して“明日の衣川を切りひらいていく”ために、留意されるべきことの整理を試みる。
 
(1)衣川村の明日を考える基本的視点・基本的課題と取組の基本姿勢
 前項までに提示した重点的取組メニューは、第2章3項の(3)で示した「むらづくりの4つの課題」(地域経済の振興と就業の場の確保、生活利便性の確保・向上、地域の特色を活かす定住・交流環境の整備、行財政の効率化と合併問題への対応)ごとに、住民や行政により今後取り組まれることが望ましいメニューを整理したものである。
 だが、来年度以降、住民と行政が協働してむらづくりに取り組むためには、前項までの提示のままでは、どこから検討に着手すべきかとまどわざるをえない事態が生じかねないことを否定できないであろう。
 そこで、今後の検討において堅持することが望ましい基本的視点を、以下のように提案する。
 
〈今後のむらづくりに取り組むための基本的視点〉
基本的視点1:集落の維持・存続
基本的視点2:若者定住
基本的視点3:自治の拡充・協働の風土醸成
 
 前項までに提案した多数の重点的取組メニューは、上記の基本的視点(いい方を変えれば、村が早急に取り組むべき基本的課題)に集約できる。すなわち、例をあげて述べると、重点取組メニューの1つとして提案した「子育て支援」は、集落の維持の問題であり、若者定住の問題である。「農産物直売システムづくり」メニューも同様である。
 すなわち、枝葉のメニューから検討に着手するのでなく、基本的なところ、大きなカテゴリーから着手しないと、方向性を見失い時間の浪費、さらには協働の輪に参加したもの間での不信感の醸成といった悲惨な結果を招きかねないであろう。
 
(2)集落の維持・存続
 本村においては、昭和の中頃に、もっとも奥地に位置していた増沢集落がダム事業に伴いなくなり、伝統ある増沢塗の産地も喪失した。そして、今日、南股・北股の両学区内の集落をはじめとし、村内には存続を維持することがやがて危うくなると危惧される集落が少なくない。
 行政としての投資効率や経済効率の観点からはやがてなくなっていかざるをえない集落があることは確かであるが、このことを防ぐのが村づくりの基本である。
 第2章でみたように、今回のアンケート調査で、回答者の6割近くが「ずっとこの村で暮らしていきたい」と答えている。このことからしても、集落の維持・存続が大きな取組課題であることは自明である。
 
〈補論〉集落の維持
 小規模自治体において、集落は生活・コミュニケーションにおいて、大きな重要性を占める。情報化やモータリゼーションが発達しても、結局のところ、住民が生活するうえでは、リアルなコミュニケーションが必要であり、そして、情報環境が十分に整備されていない場合が多い。
 また、日常生活での助け合いが、小規模自治体で有ればあるほど根強く残っており、それが、コミュニケーションを維持する手法であると共に、生活を維持するうえで、避けられないのが現実である。ただ生命を維持するだけでなく、生活の質を考えるにあたっては、日々の生活に地域行事や近隣世帯との関わりが大変重要である。住民一人では行動を起こすことが難しくても、何人かの住民が集まって行動を起こすと、何倍にもその行動力は増していくのと同様に、住民自治には、ある程度の規模が必要である。
 近年、若者流出や少子高齢化による地域力の低下が指摘されており、そこに暮らす住民にとって必要なこと(地域行事など)が、出来なくなってきている。集落の維持は、住民自治の維持にとって、その機会を低下させることにつながる。
 しかしながら、小規模自治体における財政面からみると、住宅集中地域への生活環境整備と、世帯数が少ない地域への整備は、それか住民にとって等しい需要であっても、限られた財源下では優先度に差が出てくる。所有地等の問題もあろうが、こと、限られた財源下では、土地活用のあり方についての村の方針を示す必要があるとともに、世帯数が少ない地域への環境整備については、相当の負担を求めていかざるをえないであろう。
 観光・自然環境の保護という点では、集落は確かに観光対象となりうるが、環境保護の観点からは、必ずしもその近くに暮らしておく必要はないし、本村においては、周辺自治体と比較しても、特別な優位点を有しているとはいいがたい。
 集落の維持、現実にそこで生活している人の暮らしを守る観点と、自主的な行政運営を行っていく観点の折り合いつけることが求められており、その場合は、行政当局による判断ではなく、住民との話し合いや、議会での議決によって模索する必要がある。
 
(3)若者定住
 本村の次代を担う子ども、青少年が、いつまでも村内に生活の拠点をもてるようにするためにはどうしたらよいか、このことについて、住民、行政による模索を充実していく必要がある。
 前項までに重点的取組メニューとして関連するメニューを複数提示したところであるが、今後は、とりあえずどれから検討するか、検討するのが効果的か、このことを明確にする必要がある。
 また、同時に、保育所や幼稚園の閉園時刻、幼稚園児の送迎、高校生の通学の不便さなど、行政として対応しなければ解決が困難なことについては、早急に住民との対話・協議を開始する必要があろう。
 
〈補論〉若者定住
 小規模町村において、就労場所の確保が定住の大きな要素である。これまでは、農業や林業などの一次産業従事者割合が高いのが、小規模町村の特徴であったが、2次産業、3次産業への流出が進み、また、教育水準が上昇していること、女性の労働環境が整備されつつあることなども含めて、より就業機会の高い都市部への流出が進んでいる。Uターンなどが増えているが、それも、結局のところ都市部での就業に疑問を感じるとか、親と一緒に暮らすなどの消極的な理由が多いのではないか。そして、小規模自治体では、公務員などの一部の業種でなければ、ある程度の収入を確保しづらく、また、一次産業はある程度の経験を要するため、なかなか従事しにくい現状がある。仮に、若者定住のため、公務員などの年齢制限を撤廃するならば、地元に戻ってくるなど、若者・活力のある人材の確保は可能であろう。その場合、行政にとっては歳出拡大になるため、その費用については、地域負担割合を求めていくなどの柔軟な検討が必要である。また、情報・金融環境が整えば、企業の機会も高まるため、起業育成の施策も検討が必要である。さらには、事務事業の見直しを行い可能なものを委託するといった外部委託の検討により、行政のスリム化を図る必要がある。そのためには、受け皿を企業のみとするのではなく、NPO等の設立及び支援施策を進め、受け皿作りに取り組む必要がある。外部委託による行政のスリム化は、同時に地域住民の雇用の場、行政の透明化につながるなど一定の効果が期待されるものの、必ず限界が来る。逆限られた分野への、厚い施策が必要である場合もあり、行政が担っていく部分と、住民が担っていく部分への財源の選択と集中した支出が求められる。
〈補論〉高齢化・子育て支援
 少子化と高齢化の違いは、将来の話と現実である。出生数が少ないという事実は、将来的なことであって、少なければ少ないで、社会的な地域力低下や、雇用、市場の規模の減少として問題はあるが、高齢化は、現実として生活している住民に直接降りかかる問題である。また、高齢者への支援は、その支援を必要としている割合が1割だとしても、乳幼児・子どもへの支援は10割必要であり、本来的には高齢者よりも子どもの支援、子育て親支援への支出が必要である。現実的に歳出面で見ると、高齢者と子どもへの歳出割合は高齢者比率が上回っている。全てが歳出比率で語ることはできないとしても、子どもの定住は親の定住にもつながり、子育て支援の充実が求められるといえよう。とはいっても、高齢者切捨てを行うのではなく、仕組みを変えなくてはいけない。現在実施している、高齢者の健康づくりを進め、元気に年齢を重ね、そして、高齢者の就労支援や、社会参加機会を増やす取り組みを実施すべきである。
 また、障害者・児施策については、絶対数が少ないことから、小規模自治体単独で実施するより、周辺自治体と連携を取りながら広域的な取り組みが求められる。
 さらに家庭内暴力の防止啓発や、男女共同参画の推進をすすめ、男性も女性も暮らしやすい環境整備が必要である。
 
(4)自治の拡充・協働の風土醸成
 近年、住民との協働、協働によるまちづくりといったスローガンが各地に溢れている。協働指針を策定している自治体も少なくない。こうした状況や取組を全否定するつもりはないが、各地の実態からして疑問符をつけざるをえない。
 
ア 協働ブーム
 協働を定義すると、住民、各種団体、事業者、行政など、地域を構成するさまざまな主体が、それぞれの特性と役割を理解、尊重し、相互補完・協力により、自律的に地域課題の解決や活性化を促す仕組み、となろう。だが、住民参加・参画といった言葉とどう違うのだろうか。同じ商品を包装を変えて売り出しているにすぎない。
 では、今日、なぜ、協働ブームなのだろうか。表向きの理由は、分権や自治を地域自前のものにしていくために不可欠ということであり、当然といえば当然のことである。だが、その裏には、行政側の気弱さや人気取りが裏にちらついている。それだけではないし住民・民間の金銭的負担や労力が狙いでありながら、それを隠して、協働の輪に引っ張り込んでいる例も多々ある。こうした水面下の事情が、協働指針はつくってはみたものの、具体的なアクションがみられない自治体を生みだしている。
 
イ わがむら・まち意識の変化・拡散
 住民の意識や行動の多様化は、日常近隣社会、市区町村域など、様々な地域で、まちづくりに対する考え方を大きく変えてきた。町のため、村のためといった地域への帰属意識は薄れ、納得できる目的がなければ、隣近所の人々とともに主体的・積極的に活動する人はほとんどいない。
 
ウ “地域社会の脆弱さ”を踏まえつつ
 協働を実りあるものにしていくためには、まず、一人ひとりにとって日常生活の場である地域社会の「脆弱さ」という現実を直視しておくべきである。
 一例として、地域での子育て支援を考えてみよう(高齢者や心身の不自由な人についても同様)。「隣近所の人々が協力しあって、子どもの成長を支える」、この言葉の響きのなんと心地よいことか、誰もが否定しづらい。しかしながら、各種のアンケート結果にみられるように、地域社会に育児を期待する親は少ない。育児や健全育成への支援を地域の人々に期待しても無理だという認識が、子育て中の父母に定着しているといっても過言ではない。現に、保育所、幼稚園、子育て支援センター、学校、児童館、公民館などと連携・協力し、子育てに対して正面から取り組んでいる住民活動の事例は、少数にとどまっている。同時に、子育て世代やその予備軍世代などに、身近な地域への関心や帰属意識などが薄らいできており、隣近所との関わりを避けたがる傾向が強まっている。これらの状況が、「地域で子どもを守り育てる」ことの理想と現実とのギャップを示している。
 連帯感や共助の気風に満ち溢れた地域社会、すなわち、何十年来理想として掲げられ続けてきたコミュニティ、あたかも桃源郷のような地域がわが国のどこに形成されただろうか。あるべき論、理想論の視点から、現実の問題点を指摘し続けても、犬の遠吠えにすぎず、地域の脆弱さをますます進行させるにほかならない。
 
エ 行政のみを俎上にのせず
 財政面の厳しさが増している今日、自治体をめぐる論議は、職員数の削減、人件費抑制、職員志気の高揚、職員の質の向上等々、行政をターゲットにした議論に終始しがちである。しか,しながら、上述のように、住民、地域社会自体も問題や課題を抱えていることはいうまでもない。また、公共セクターの主要な部分を占める議会、議員についても、機能・役割、報酬、定数などが検討される必要があろう。行政のスリム化のみのでなく、議会・議員のスリム化も併せて追求しなければ、多くの住民が納得できるむらづくりは達成しにくいであろう。
 
オ 自治・分権は地域自らで創りあげるもの
 魅力や個性、活気などに溢れたまちづくりを目指す取組のための第一歩は何か。住民自治の最小あるいは基礎的単位ともいえる地域社会の主体性・自律性の拡充や共同活動の活発化、地域への無関心層の取り込みなどがそれであろう。すなわち、「自己決定」、「自己責任」が分権・自治のキーワードであり、法が施行されたからといって分権・自治が自動的に享受できるわけでない。また、他地域の取組はあくのでも参考に過ぎず、それをまねてみてもうまくいくわけがない。村内の各地区の実態を見据えつつ、一歩一歩着実かつ地道に種々の打開策を模索、実践することが取るべき基本的方向といえよう。
 分権、自治、まちづくり、これらは、自らの地域により即したかたちで実現すべく、試行錯誤の末、創造するものである。レディメードのお仕着せ・安直な選択でなく、考えた末のオーダーメイドでなければならない。他から与えられるものでなく、地域自らの力で創りあげるもの、勝ち取るものである。
 
〈補論〉衣川村の良さを維持していくために
 これからの自治体経営は、スリム化だけではなく、また、広範囲の領域に広く薄くではなく、一定水準の生活水準を住民に保証しながら、特色として、ある分野への濃淡を明確にした財政方針で臨む必要がある。その場合、議員の役割はこれまで以上に重要になり、行政同様に住民に分かりやすい歳出の執行を説明していく必要がある。
 また、必要に応じて、行政レベルを維持していくためにもある程度の住民負担を求めていく一方、行政の事務見直し、行財政改革を通じたスリム化を進めていかなければいけない。そして、住民の自治拡充のため、住民主体の活動を幅広く展開できるような環境づくりに努め、自分達の地域は自分達の手で作っていく気概を高め、国からの交付税などに依存することを極力減らしていく必要がある。







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更新日: 2019年10月12日

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