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第2章 ITを用いた住民・自治体間活動実施上の留意事項
1 ITを用いた住民・自治体間活動実施上踏まえるべき法令・条例・指針等
 
 ここでは、自治体と住民が協働する場として用いられることの多い、電子会議室に代表される投稿参加できるシステムが地図情報インターネット協働システム(仮称。以下、本システムという)に何らかの形で導入されると想定し、これを整備・運用していくにあたって、踏まえるべき法令・条例・指針等を整理する。
 
(1)インターネット接続サービス等に係る法令・条例・指針等
(1)プロバイダ責任制限法
 平成14年5月27日に施行された、プロバイダ等の責任の範囲を限定する法律で、正式名称は「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律」(平成13年法律第137号)という。これは、名誉毀損、プライバシーの侵害、著作権などの知的財産権の侵害、猥褻/児童ポルノなど、異なる法律、異なる所管に分散していた“有害情報”を分野横断的に対象とした法律である。
 
ア 対象となる通信及び対象者
 同法の対象となる「特定電気通信」とは、「不特定の者によって受信されることを目的とする電気通信の送信(放送を除く。)」を指す。総務省の逐条解説によれば、『インターネットでのウェブページや電子掲示板等の不特定の者により受信されることを目的とするような電気通信の送信』をいう。したがって、パスワード等によりアクセスコントロールを行って特定少数の者のみがアクセスできるにすぎない電子掲示板や、1対1の電子メールは特定電気通信に該当しない。
 次に同法の対象となる「特定電気通信役務提供者」とは、『特定電気通信設備を用いて他人の通信を媒介し、その他特定電気通信設備を他人の通信の用に供する者』をいう。具体的には、ホスティングを行うものや電子掲示板等の管理者であるが、営利目的等で限定されていないため、地方自治体や大学、個人も対象になる。
 
イ 制定の背景
 名誉毀損、著作権侵害、プライバシー侵害等の権利の侵害があった場合、発信者が情報の削除要求に応じない、あるいは発信者が特定できない・連絡がつかない等の理由により、権利を侵害されたと主張する者が発信者との当事者間で解決しようと努力しても必ずしもうまく行かないことがあった。
 そこで、権利を侵害されたと主張する者がプロバイダに対し、情報の流通の防止要求や、連絡を取るあるいは訴訟を起こすために発信者情報の請求をすることがあった。
 しかし、プロバイダは利用者との間でサーバの利用に関する契約を結んでおり、ホームページや電子掲示板などによりサーバを積極的に利用させる義務を負っている。また、ホームページや電子掲示板などで意見を表明した利用者には表現の自由があるので、「正当な言論活動である」と主張される可能性がある。そのため権利侵害の申し出があっても、違法性の判断が容易でない一方で、プロバイダがそれを削除してしまうと利用者に契約不履行である」「正当な言論活動を妨害された」などと損害賠償を求められる可能性があった。
 また、発信者情報に関しては、電気通信事業法の「通信の秘密」として保護されているため、刑事事件で裁判所による礼状が発せられた場合にしか開示されなかった。
 こうした状況を、一定の場合にはプロバイダが当該情報を削除しても利用者(情報発信者)に対して賠償責任を免除される、あるいは発信者情報を開示しても責任はないとすることで解決を図ろうとしたのが、本法である。
 
ウ ガイドライン
 同法を踏まえて、電気通信事業者等が特定電気通信における情報の流通による権利侵害に適切かつ迅速に対処することができるよう、平成14年2月に「プロバイダ責任制限法ガイドライン等検討協議会」(事務局は社団法人テレコムサービス協会内に設置)が設けられ、平成15年5月に「著作権関係ガイドライン」「名誉毀損・プライバシー関係ガイドライン」がまとめられた。
 これらは、権利を侵害されたと主張する者からの送信防止措置の要請に対して、プロバイダ等のとるべき行動基準を明らかにすることを通して、プロバイダ等による迅速かつ適切な対応を可能とするための実務上の指針である。
 
エ 手続の流れ
 本法および関係ガイドラインによって、名誉毀損・プライバシー関係送信防止措置と著作権関係送信防止措置と発信者情報開示のための手続が定められた。それぞれの手続の概要を以降に図解する。
 なお、著作権関係送信防止措置には、図表2-2で示した著作権者本人または弁護士等の代理人による申し立ての他に、彼らが信頼性確認団体を経由して申し立てる場合と、著作権等管理事業者が申し立てる場合があり得る。著作権者本人または弁護士等の代理人による申し立ての場合には、申し出における確認はプロバイダ等が行うが、信頼性確認団体を経由する場合と著作権等管理事業者が申し立てる場合は、それぞれ信頼性確認団体、著作権等管理事業者が申し出における確認を行い、プロバイダ等はその確認の妥当性を確認する。
 
図表2-1 名誉毀損・プライバシー関係送信防止措置手続
資料:
プロバイダ責任法ガイドライン等検討協議会「プロバイダ責任法 名誉毀損・プライバシー関係ガイドライン」より作成
 
 
図表2-2 著作権関係送信防止措置手続
資料:
プロバイダ責任法ガイドライン等検討協議会「プロバイダ責任法 著作権関係ガイドライン」より作成
注意:
破線で示された「通知」は義務ではない。
 
 
図表2-3 発信者情報開示手続
資料:
プロバイダ責任法ガイドライン等検討協議会「プロバイダ責任法 関連情報Webサイト」より作成
 
オ 注意点
 情報発信者を特定し、連絡を取り得る立場にある場合に責任が生じるため、レンタルサーバ上でそのレンタルサーバ利用契約者が電子会議室を開き、会議室利用者の管理を行っており、レンタルサーバ事業者が会議室利用者を特定し連絡を取り得る情報を持たない場合、レンタルサーバ事業者は発信者への照会ができない状況にあり、プロバイダとしての責任はないと判断される。







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