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『平成15年度物流講演会』
物流・ロジスティクスを取り巻く環境変化とモーダルシフトの推進について
大阪産業大学経営学部流通学科教授 谷本 谷一
 
物流・ロジスティクスを取り巻く環境変化
 
グローバリティ
 日本経済は、少し良くなりつつありますけれども、去年、日本経済は例えば、JRの在来線のようなものだと言われておりました。「ひかり」もなければ「のぞみ」もないというようなところが・・・。最近はぼつぼつ「ひかり」も「のぞみ」も見えてきたような感じがするわけですけれども、しかし、日本経済はまだまだ厳しいものがあります。各企業においてもリストラやいろいろな合理化を今もやっています。まあ、それに生産性がついていけばいいわけで、これからは生産性向上がどこまで進むかということが鍵になるのではないかと思います。
 ただ数年前からですが、日本だけではどうにも物事が決まらないというか、各企業とも、日本だけでどうこうしようという時代ではなくなってきております。「グローバリティ」という言葉がありますが、日本経済が低迷から抜けきれない状況が続いていますけれども、日本だけではどうにもならない。そして、国際経済を見ると、もうとにかくグローバル化がどんどん進んでいて、今や世界経済が一体化しつつあります。この経済の一体化という言葉を、「グローバリティ」と呼んでいるわけでありまして、もうこれからは経済面においても地球がひとつになってきたというような時代になってきておるのではないかと思います。
 たとえばEUが成功して拡大をしようとしておりますし、各地域の地域連合といいますか、国同士がかたまるというような時代になってきており、アジアでもアジア太平洋地区とかAPECとか、いろいろなことが言われておりますけれども、これからは国際経済というものがひとつになるという方向ではないかと思います。
 
IT革命
 しかし一方では、いろんな事が今進んでいるわけで、その第一が「IT革命」でございます。IT革命にはメリット、デメリットの双方があるわけで、われわれにおきましても、また最近の学生でもそうですが、インターネットで世界の情報が瞬間的に、リアルタイムで、24時間コンピュータで得ることが出来るという、こういう時代になっており、時間と距離の壁が今や無くなってきています。このようなことがIT革命によっておこっているのではないかと思います。しかし、IT革命というのは、言葉ではいいのですけれども「情報の一極集中」の恐れがあります。日本の場合であれば、どうも「東京」へ情報が一極集中している傾向がございます。いわゆる日本イコール東京という感じにどうもなってきているわけですけれども、これがどういう方向にこれから進むのか。メリット、デメリットいろいろあると思いますけれども、その中におきまして企業間の連携がいろいろ進んでいる。それも、今までのような資本系列とかなんとかいったようなことではなくて、いわば、資本を通り越した、例えば三菱と住友といったような、そういう合併、連携といったようなものがおこっています。いわば経済系列とこれを呼んでおりますけれども、このようなことが今起こっております。これもまあIT革命がひとつの原動力になってきている結果ではないかと思いますけれども、そういう中でeコマースのようなものがどんどん発達する。あるいはBtoBとかBtoCとか、いろんなことが今言われておりますけれども、そういうパーシャルな市場がコンピュータを媒体として出てくる、このような時代になってきています。
 
流通システムの変革
 しかし物流に最も影響があるこの流通というものを考えた場合に、今、流通システムが大きく変わろうとしています。あるいは変わってきつつあると、こういう感じがいたします。まず何が変わったか。基本になるのは消費者で、消費者がまず変わってきた。どう変わったか。非常に個性化、対応化、即応化、これは早くから言われていましたけれども、これがますますひどくなってきていて、われわれが学生時代は、もう詰め襟の黒いのを着せられて、みんな同じ様な感じでいたわけですが、今や学生は一人一人全部違います。そういったように人と違うもの、変わったもの、あるいは優れたもの、しかもそれらがすぐ欲しいと、こういう感じが非常に今強くなってきています。これが個性化、対応化、即応化ということですが、一方買う商品に関しては、実用的なものはもうほとんど買っている。まあ皆さんでもそうでしょうけれども、家に帰れば何でもある。もう今や有り余っている。従って今まで必要、いわゆる機能を中心とした必要なものは、もう満足しきっている。これが満足疲労と呼ばれるものでございます。こういうことで、この時代、消費者がずっと変わってきていますけれども、そういうことを考えますと、今までのような役に立つもの、これを機能と言っていますけれども、機能の消費から価値の消費に変わってきた。いわば機能を中心としたものは、もういらない。自分の価値を高めるものとか、あるいは自分の趣味とか個性とか、そういうものを伸ばすことに消費者の目が移ってきているという感じがいたします。
 従いまして、ありきたりのものではよほど安くないと売れない。ところが自分の好みとか趣味とか、あるいは価値を高めるとか、そういうものになりますと、高くても売れる。従って今や安いものと高いものとの購買の二極分化が起こっているのではないかと思います。このように消費者が変わってきています。そうしますと当然消費を供給する側の企業、これも変わらざるを得ません。個性化、対応化、即応化を消費者が指向しているわけですが、それに対応するために多品種少量生産を行なわなければならない。さらには価値の高いもの、これを作らなければいけない。このように企業が変わってきます。従って多品種少量生産というのがここにどうしても進行せざるを得ない。そういう体制、あるいは即応体制が企業の側にも行なわれているということです。
 もうひとつは、このように消費者が変わり、商品を供給する側の企業が変わりますと、供給者と消費者とを結ぶものが流通ということでございますけれども、当然流通も変わらなければならないということになるわけです。そこで流通経路というものが、今までのような外国人から見て日本の流通経路はわかりにくい、また企業自身も自分の前後は分かるけれど、そこから先は分からないと、このような状況であったわけですが、これが合理化とかいろんな面で、すっきりさせようという動きが出てきています。従って、とにかく流通経路を短くしようということで、短絡化が起こる。当然中抜きが起こる。そうすると卸売りが排除されるといったようなことが現在起こっています。大阪でも、大阪は卸売業のメッカであったわけですが、卸売業がだんだん減ってきている状態です。そのようなことで、まさに本当の意味の流通革命が起こっているのではないかと、こういう感じがいたします。
 数十年前に流通革命という言葉がはやりまして、流通革命、流通革命と呼ばれていたわけですが、どうもいろいろ考えてみると、それはスーパーマーケットが出現して売る方法が変わっただけであるという感じがいたします。しかし、今度の流通革命は本当の流通革命。そういう意味でここに「真の流通革命」という言葉を使わせて頂いたわけです。
 
環境問題の重視
 最近、環境問題がクローズアップされてきました。現在は21世紀ですけれども、この21世紀の最大の問題に、環境問題がなりつつあるという感じがいたします。いわば地球というものは、循環しておればこそ維持が可能である。ところがどうもそれが怪しくなってきたと。ここに生まれたのが循環型社会の形成という事になるわけです。国においても、いろいろ推進基本法とか、いろんなものを作って躍起になっていますけれども、ある意味においてこれを確保するためにはどうしたらいいかといいうことが今非常に大きな問題になっているわけです。そして一方ではあれをしてはいけない、これをしてはいけないといった、社会的規制が強まっています。最近リサイクルという言葉が非常によく言われるようになりました。リサイクルといものは、ごみとして捨てるものをもう一度使おうと、こういう分かり切ったことでございますけれども、これをごみとして捨てるもの、いわば経済的に価値のないものを、これをバッズと言っています。これを経済的に価値のあるもの、すなわちグッズに変えようと、こういう動きです。ただこれには、技術革新といいますか、技術と絡まってくる問題で、技術によっていろいろリサイクルも変わってくるであろうと思いますけれども、まあいずれにいたしましてもこのリサイクルということが非常に最近は重視されるようになってきたということです。
 このように社会的変化がいろいろ出てきているわけでありますけれども、しかしこの環境問題とか、いろんな事を考えますと、企業の方はコストがいくらでもかかるということになります。またこの持続可能性とか、いろんな事を言っておりますけども、その資本の論理と、環境の論理、この相矛盾するものを、この間で何とかしようということになるわけですが、しかし、結論的に言うと競争がものすごく激しくなるであろうと、こういう感じがいたします。このように環境問題とかいろんなものが強くなりますと、競争が激しくなり、どうしても勝つか負けるかということになってくるわけです。
 
競争の社会から勝負の社会へ
 「順位を争う社会から、一人勝ちの社会へ」と、これはどういう事かと申しますと、今までは、まあ一位、二位、三位と争っておって競争していたわけですが、これが食うか食われるか、勝か負けるかというような時代にどうも進んできているのではないだろうか?すなわちその為に大型の合併をするとか、あるいは国際的な合併をするとか、提携をするとか、色々な企業間でのつながり、いわゆる鎖のようにつながるとか、あるいは地域自体が、EUのように国同士がかたまる。そして競争の中でとにかく生き残らなければならないと、こういうような時代になってきているのではないかと思います。
 こういったような事が現在の経済社会に起こっているのではないかと思いますけれども、物流というものはやはり経済活動の成果であろうと思いますので、このようなものが背景にあると、当然物流とか、ロジスティクスというものも変わってくるであろうと思います。
 
物流・ロジスティクスの変革
 
物流構造の変化
 まずどのように変わったのか、これがまず「物流構造の変化」ということです。まず物流が変わった。「小口、多頻度、即応化」、これは、早くから言われていたわけですが、これがますますひどくなってきている。このような感じがいたします。多品種、少量化ということになりますと、放っておくと在庫量がいくらでも増えます。特にビールなんかは、もう何百種類とあり、それらを1本づつ在庫に持っているとしても、これはものすごく大きな冷蔵庫がいる、こういうような状態になってきます。従って登用仕入れといいますか、売れただけ仕入れると、こういう方向がどうしても生まれてくるわけですが、こうなるとますます即応化というか、ジャスト・イン・タイム物流というものが、普及してくることになります。そうなりますと当然物流コストというものは高くなる。これが「物流コストの膨張」ということです。
 もう一つの変化は国際物流が増えたということは先ほども申しましたが、グローバル化ということでお分かりのように、今や国内物流とか、国際物流とか、そういった区分が、果たして意味があるのかどうかという時代になってまいりました。そして、EUでは、カボタージュというのが認められました。ご承知の方も多いと思いますけども、カボタージュというのは、外国資本が、あるいは外国の企業が他の国の市場で活動すること、ですからアメリカの資本が日本の市場へ乗り込んできて、日本の中で大阪から東京へ貨物を運ぶというようなことを言うわけです。これを認めるという方向が、今、EUでは実際に起こっています。やがて日本でも、すでに航空分野ではそういうことが言われつつありますけれども、やがてトラックとか船、そういう分野にも、このカボタージュが、認められるようになってくるのではないだろうかという感じもいたします。
 これは、今後のことなのでどうなるか分かりませんが、いずれにしましても国際物流というものの地位が非常に高まってきた感じがいたします。そこで、企業でも、今までは、物流合理化等をいろいろと考えていたわけですが、商品開発から調達、そして生産、販売、さらにはリサイクルに至る過程において、そこに物流が全部絡まっているわけで、これらをトータルで把握する必要がある、これがいわゆるロジスティクスと呼ばれるものでございますけれども、そういう要求が非常に強まってきています。
 
物流アライアンスの必要性
 そういう中において、一方では一企業だけでそういうロジスティクスをやろうとすれば、果たしてそれが出来るのかどうか、こういう感じもいたしまして、関連企業とかが力を合わせなければならない。これが物流アライアンスという具合に呼ばれているものでございます。要するに一企業だけでやると、あるいは自前主義といいますか、自社だけでやろうという時代はもう終わってしまった。そして関連あるいは地域企業、関連企業が力を合わせて共同化とか、共用化を進めなければ、これからはやっていけないのではなかろうかという感じがいたします。
 
ロジスティクスの変革
 そういうことで、このロジスティクスということも、この連携ということが非常に大事になりますので、関連企業が力を合わすということになってくるわけですが、そのロジスティクスも、「後方支援から、企業経営のベースに」と変わってきたと、当初の物流というものの考えは、これは企業経営の後押しがあるということで、ロジスティクスも物流をトータルでシステム化しようとするのも、企業経営の後押しをするという感じであったわけですが、これがだんだん進歩してきて、とにかくロジスティクスをベースにして、企業が利益を追求しようとそういう時代になってきて、いわば企業経営のベースとしてロジスティクスを考えようと、こういうことになってきました。その為にはどうしても共同化とか協業化、あるいはアウトソーシングとかいうものが必要になってくるわけです。
 そういうことになりますと、このロジスティクス自体が、企業経営のベースになる訳ですが、従来は自社企業だけのことを考えていれば良かったわけですが、先ほどから申しますように、関連企業全部がつながっている、あるいはつながる必要があるいうことになりますと、例えばメーカー、卸、そして小売りという、連携とか系列があるわけですけれども、その中で商品供給者の全部が力を合わせて最も優れた物流システムを組もうというのが「サプライチェーンロジスティクス」と呼ばれるもので、サプライチェーンに発展してきた。それをベースにしてサプライチェーンマネジメントをやろうというように現在はなってきています。
 まだそこまでいっている企業は非常に少ないけれども、大手の企業はそういう方向を今指向して来ています。
 
モーダルシフトの推進について
 
物流の要、輸送の実態
 そこで、いよいよそういう背景を基にしてモーダルシフトをどのように推進していったらいいのだろうかということになるわけです。まずそれには輸送というものが物流の要にあり、要になるわけであります。企業の側が即ち荷主企業の方々が何をもって輸送手段を決定しているかということが鍵になるわけです。
 物流というものは、端的には時間と費用です。早く、あるいはジャスト・イン・タイム、それと安いか高いか、これがベースになって、そして、それにプラスいろんな付帯サービスということになろうかと思います。そういうことを考えた場合に、その輸送モードを企業が決定する場合に、どういうことを基本にするかということが非常に大事になるわけです。現在のトラック輸送が優れているということは、結局早くて安いからです。だからどうしてもトラック輸送が増えていくということになるわけです。一方では、いろいろ規制緩和が言われているわけですが、トラックにはメリットとデメリットがあるのだということを、ここで考えなければいけないと思います。
 メリットというのは、これはもう皆さんは当然ご承知のように、小回りがきく、早い、また競争関係で料金も比較的安いというようなことです。これが非常に優れているということが一般に言われていて、その為に90パーセント以上もトラック輸送に依存しているわけですけれども、基本的にわたしが考えますのは、トラックの優れている点は、アクセシビリティという問題だろうと、これは比較的近接度と訳していますけれども、目的の場所にどれだけ近く接近できるか、こういうことをアクセシビリティと言います。このアクセシビリティの良さが、トラックの最大の力であろうと思います。要するにドアツードアということです。これがトラックの最大の強みです。いかに飛行機が速いとか、新幹線が速いと言っても、家の前まで飛行機を横付けするわけにはいかない。最後はトラックに依存しなければならないということになるわけで、非常にトラックにメリットがあるわけです。
 一方デメリットとしては、これは言うまでもなく環境問題です。いい面だけではなくて、悪い面もわれわれはこれから考えなければいけないと思います。大気汚染をはじめとした公害問題、それから最近やかましく言われているディーゼル車規制とか、スピード規制とかいうことで、これからは、トラックもそう安く走れなくなるであろうという感じもいたします。経済的規制緩和というものが非常に進んでいて、いい言葉になっているわけですけれども、これによって何が起こるか。競争はますます激しくなってくる可能性があります。そして一方では社会的規制、この交通公害とか、大気汚染に対する規制ですが、こういうものを社会的規制と言っておりますけれども、こういうものがますます強くなる。そうすると、将来トラックが今のままでいけるかどうかという問題を荷主サイドでも考えていかなければならない問題であろうかと思います。
 
荷主企業の取り組み
 そこで荷主企業がどういう方向で現在モーダルシフトというものを考えているのであろうかということを、ちょっと口幅ったい言い方ですけれども、現実の企業の方々の方が詳しいと思いますが、まず「イメージアップ」ということだと思います。
 今の時代の中で荷主企業がどういう行動を取っておられるかということでありますが、企業がISO14100といいますか、これをもうほとんどの企業が取得しています。これからはCO2削減というものがやかましくなる。その為にいろいろ環境投資といいますか、そういう投資を増やしているわけです。またさきほど言ったように、トラックヘの規制がいろいろ強まってくる。そういう中で、大手の企業を中心としてモーダルシフトへの取り組みを本気で考えだした、こういう感じがします。しかし、まだまだイメージアップの段階であるという感じがいたします。
 このISOも企業のイメージアップの為に非常に役に立ったわけですが、これからはモーダルシフトというものが、大きなイメージアップになるのではなかろうかと、こう思います。そして、大手の企業を中心として、CO2の削減目標をかなり設定しておりますけれども、それを前倒ししようと、こういう動きが出ています。これによって、自社企業はとにかく環境に力を入れているのだということをアピールするということになっていくのではないかと思います。この辺は実際に企業にいませんので、口幅ったいかもしれませんが、そんな感じで第三者からは見ているのではないだろうかと、このように思います。
 最後には速度制限と、ディーゼル車規制等をどう企業が考えていくかということで、いつまでもトラックに依存してばかりいたのではやがて、問題が起こりそうだという感じをぼつぼつ持ってきているのではないかと思います。
 
鉄道輸送面からの考察
 一方、モーダルシフトを受ける側の鉄道輸送、いわゆるJR貨物ですが、これはどういう具合に今動いているのかということですが、まず、JR貨物はオンレールである、レールの上だけをやるのが基本です。従っていわば間借り人であるわけです。その辺の規制がどうしてもありますが、しかし、資金不足の中でいろいろ施設整備をやられております。この辺はJR貨物が詳しいわけですが、いろいろヤードパス列車であるとか、あるいはオフヤードターミナルですか、そういうものを作ったり、あるいはカンガルー輸送のような複合一貫輸送をやるとか、あるいはダイヤの改正とか、とにかくスピードアップというものを心掛けています。また料金にしても、総括料金といったようなことを取り入れたり、トラックと競争しても勝てるようなタリフにならないとなかなか難しいわけで、その辺の努力をされているのではないかと思いますが、しかし、どうしてもダイヤの規制というものがあるわけで、間借り人の悲しさといいますか、そういうことで、どこまでいけるか問題がありますが、しかし世の中はモーダルシフトに対して追い風が今吹いてるわけで、JR貨物も、その辺を意識されていろいろ努力されているのではないかと思います。
 要はトラックと競争し得るだけの水準にならなければ、モーダルシフトはなかなか進まないであろうという感じがいたします。それとやはり鉄道の場合は、どうしても両端をトラックに依存しなければならないという問題もあるわけで、その辺が難しいところですが、その辺の努力をこれからいろいろ研究されていくのではないかと思います。
 もう一つ問題は通運業者との関係でございます。まあ鉄道輸送をする場合は通運業者というか、今は通運業者という名称は公的には無くなったようですが、いずれにしても従来の通運業者の協力が必要なわけで、かつては、通運業者は鉄道会社のいわば下請けといいますか、協力者といいますか、そういう地位にあったわけで、どちらかというと鉄道会社の方が地位が上であったのです。ところが通運業者というのは、これはトラック業者です。従って、トラック輸送がどんどん伸びてきて、長距離輸送がトラックでも可能だということになりますと、トラック便が有利なものは、起点から終点まで当然自社便で運ぶということになる。従って有利なものは自社で運ぶが、あまり有利でないというと語弊がありますけども、それはJRに頼むということに、なってくるかもしれない。ということは、いわば通運業者とこの鉄道貨物業者の地位がどうも逆転しているのではないだろうかという感じがいたします。要するに、かつては下であったものが、今は上になってきたと、こういうような感じがいたします。
 しかし、いずれにしましても、この両者が協力しないと鉄道輸送というのは普及しないわけで、とにかく通運業者と、JR貨物とが力を合わせてこれからやっていかないとモーダルシフトは推進できないであろうという感じがいたします。
 
船舶輸送面からの考察
 それともう一つは、船の方でございますが、船はどうかと。これもまあ船会社の方がおられるので、あまり知ったかぶりでは言えないのですが、第三者的な感じで申しますと、まず時間と距離の制約が船の場合はあるのではなかろうかという感じがいたします。船は遅いというイメージがある。それからあまり近距離では、これは意味はなさないわけです。荷役とか、いろんなことが絡まっているうえ端末輸送が必要となります。そして、水に濡れるとか、天候によって左右されるとか、いろんな不利な面がどうも第三者から見てある。そしてある程度貨物量がまとまっていないと意味がないかもしれない、そういう意味で、大口荷主へどうも特化している傾向があるのではなかろうかという感じがいたします。
 まとまっていないと、あまりメリットがないということになりますと、現在の小口、多頻度、あるいはジャスト・イン・タイムといったようなものに果たしてどこまで対応できるのか。まあ非常に難しい問題があろうと思いますけれども、そういう意味で適応貨物にどうも制約が今のところあると。いわゆる遅いとか水に濡れるとか、まあ水に濡れないようにいろいろ努力はされておりますけれども、あるいは荷物がまとまってないと適応性がないというようなことを考えますと、いわゆるバルキー・カーゴといいますか、量のまとまったものに特化する可能性が強い。そして小口、多頻度とかいわゆるゼェネラル・カーゴと呼ばれるもの、雑貨類、あるいは加工品、高度加工品、そういったようなものへの適応性が今のところは弱い。しかし一方では、テクノスーパーライナーのようなものを実用化していくということになりますと、これからは徐々に対応可能となるかという感じがいたします。
 またフェリー輸送ですが、共同一貫輸送をすることによって、シェアを高めていくということもこれからの方向であろうと思います。そういう意味でゼネラル・カーゴへの適応性をこれからどのようにして強めていくのかということが非常に大きな課題になろうと思います。それともう一つは情報システムの整備ということでございます。IT時代ということで、情報はかなり進んでおりますが、先ほど来申しましたように、どうしても大口荷主中心にならざるを得ないということになりますと、そういう企業とは密接にネットで結ぶけれども、一般の荷主とはどうも結び付きが弱いのではなかろうかという感じがするわけで、この情報システムをこれからはもう少し広げていく必要があるのではなかろうか、そのような感じがいたします。
 
モーダルシフトの推進の方向
 いずれにしても、これからは鉄道、船への移行ということでモーダルシフトを推進しないと、世の中が回転しなくなるであろうと、いわゆる循環というものがうまくいかない、そういう時代がやがて来る。そして、われわれの時代はまだいいわけですが、恐らく孫子の時代になると今のまま地球の温暖化が進めば、かなりの陸地が海に沈んでしまう地域が出てくる可能性があるということです。
 理論的には、モーダルシフトをとにかく推進しないといけないということが言えるわけですが、企業では利益を得なければいけないということになりますと、その辺の資本の論理と、環境の論理との矛盾がどうしても出てくるわけです。
 このような状況の中でモーダルシフトをどのようにして推進したらいいかというのが、最後の結論になるわけで、この辺を皆さんにもいろいろ考えて頂ければと思いますが、まず、第一は「物流アライアンス」でございます。すなわち通運業者とJR、船会社とJRといったようなものが協力し合わなければならないというのが物流アライアンスということではありますけれども、物流は今や一人では出来ない、そういう時代になっていますので、関連業者がこれからは協力し合わなければならない。これを物流アライアンスと呼んでいるわけで、これをとにかく推進しようというのが一つでございます。それからもう一つは「持続可能性の追求」ということですが、先ほど来、環境問題をいろいろ申し上げましたが、この持続可能な社会、これを維持するためには、今のように、公害を垂れ流したままでいいのかどうかということになるわけで、このままではどうにもならないと、何とかして地球を維持可能なものにしようということをみんなが考えないといけないと、そのように感じるわけです。すなわち大気汚染とか、地球温暖化とか、そういうものをどういう具合に、これから解決していくのかということになろうかと思います。
 そういうことで、このモーダルシフトを先ほど来から申しましたように、理論としてとにかく推進しようということになるわけですが、その理論が非常に難しい。そこでわたしは最後にですね、「ソーシャルロジスティクス」という言葉をここで上げさせて頂きました。これはどういう事かと申しますと、ロジスティクスとか、あるいはサプライチェーンマネジメントとか、いろいろ言われておりますけれども、それはいわば詰まるところ、自社の企業、あるいは自社のチェーン、これの最適化を狙ったものであります。すなわち、これはいわば資本の論理で、もうけることを中心に、言い換えれば効率化の理論であるわけです。これはこれで非常に意味があるわけですが、しかしそればっかりでやっていたのでは、やがて行き詰まりが来る可能性があるということです。
 例えば、ある企業にとって最もいいシステムを組んだとしても、それが地域にとって、あるいはマイナスになっているかもしれない。あるいは国自体にとってマイナスかもしれないということになりますと、そのシステムは長続きがしない。こういう感じがいたします。すなわち、今はいいけれども、やがてそのシステムが自分に降り掛かってくるということでして、そこでこの全体の最適システムというものが、ソーシャルロジスティクスということでございます。はじめからそればっかりを主張するわけにはいきませんが、やはり企業の方も、どこかこういう面も、頭のどこかに置いておく必要があるのではないだろうかと思います。
 すなわち、そういうことを考えますと、その効率化という、今はそういう基準があるわけではありませんが、そういういわば単一的な価値観といいますか、これだけでは不十分になるという感じがするわけで、いわばこの多様な価値観を持つ必要がある。例えばこちらの方が安いのだけれども、逆にこっちを買えばそれが地球に優しいのだということになれば、少しは高くても、そちらを選ぶというようなことがこれからは必要になってくるのではなかろうかと、そのような感じがするわけです。これがそのソーシャルロジスティクスの追求、結局、地域全体、国全体としての社会的な最も望ましいシステムを組むということであるわけでございますけども、それをソーシャルロジスティクスと呼んでいるわけで、この辺までは理論的には言えるわけですが、企業の方にとっては、やはり営利を目的とする訳ですから、それだけに難しさというものがあろうかと思います。
 しかし、やがてそのマイナスは、企業にとってプラスになる、あるいはプラスになって返ってくるのではなかろうかと、こういう感じがするわけです。ちょっと学者の抽象論になろうかと思いますけれども、そういう気持ちを少し持たないと、モーダルシフトはなかなか進まないという感じがいたします。JR貨物、あるいは船会社が、トラックと競争するだけの条件を持つことが出来れば、どんどん進んでいくでありましょうけれども、当面はどうもまだそこまでなかなか進まないと、じゃあモーダルシフトはほっておいていいのかということになるわけですが、それでは具合が悪いと。やはりトラックにもいろいろなマイナス要因がある。またJRとか船にもプラス要因がある。あるいは今改善しつつあると。そういうものを若干先取りして、そして少しは社会全体のことを考えてやらないと、なかなか進まないと思うわけで、どうか、本日ご出席の皆様も、このような意識の基に、モーダルシフトを少しでも推進しようということをお考え頂ければ幸いに思います。







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