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はじめに
 「理解に苦しみますね。」とマイクを向けられた年配の女性は答えていました。テレビの画面では専門家が、事件を起こした少年の心理分析をしてコメントしています。
 日本の社会はこの30年〜40年の間で、良くも悪くも大きく変貌してしまいました。その大波をまともに喰ってしまったのが価値観も主体も形成中の子どもたちです。共通一次を1つの境にして、子ども達の成長のプロセスは比較と競争の連続になっていきました。競争や比較そのものが悪いのではなく、一人の人間の価値がたった1つの物差しでしか計られなかったことが問題だったのだと思います。結果、子どもたちは他人の目で自分の価値を計り、自分自身を見失っていきます。その上学校の成績の良さや、管理しやすいいい子という条件付きでしか愛されたことがなく、ありのままの自分を受け止められた経験を持たない子どもたちは、自己肯定を育てる術を持てませんでした。それが自尊感情の未成熟につながっていると感じます。電話という一本のラインを通した会話の根底に、受け手研修会のディスカッションの場に出されるユースの発言の中に、それらが露呈されてきます。
 年次報告は友だちや学校の話が実はいじめのことであったり、家庭の問題の中に虐待のことが隠されていたり、性の問題も単に性に終わっていないことを、どこまで分析し数値化できるか自信はありません。しかし子どもたちの声を真摯に受け止めて、社会に発信するものにしたいと切に願いながら取り組んでいます。しかもそれだけに終わらせず、日常的に展開している子どもたちの育ちの現場になっている事業の一部と、3年を目処に行政、企業、他団体と取り組んでいる「子どもの心を受け止める24時間フリーダイヤル相談電話」の途中経過も掲載させていただくことに致しました。
 全くお金を生み出さない私たちの活動をご理解下さり、ご支援いただきましたお陰でこのたび念願であった年次報告を作成、受け止めた子どもたちの声を社会に発信していく責務を果たすことができました。心より感謝申し上げます。
 
特定非営利活動法人 MIEチャイルドラインセンター
代表理事 田部 眞樹子
 
 自己肯定や自尊感情を育めない社会の中で成長した多くの子どもたちの心のうちは、私たち大人が想像する以上に複雑なものがあります。追いつめられた子どもたちは、そんな息苦しさから逃れようとさまざまな社会問題を起こしたりしています。
 子ども自身が悩んだり、何とかしようとしている姿が電話を通して見えてきます。私たちは、子どもを主体として捉え、その状況を社会に提言し子どもの視点から変革していく使命を負っています。
 以下は指導しない指示しない子どもの声にひたすら傾聴する電話を通して届いた子どもたちの声から見えてきたことです。
 
学校生活−友達との関係・いじめ
 学校生活の中で、子どもたちが一番気になっているのは、友達との関係であることが統計からみえてきます。かかってくる電話では、「友達とケンカしてしまった仲直りをしたいのだがどうしたらいいのかわからない」から始まる事例が多いです。
 一見楽しそうに仲良く関係を築いているようにみえても実際のところは、相手に嫌われないように合わせていく子どもたちがいます。そして行き違いをどう修復していいかわからないようです。人とのコミュニケーションの取り方、人とのつながりを作っていくことに、とまどい悩んでいる子どもたちの姿があります。
 また、いじめが子どもたちをとりまく状況として社会的な問題として提起されて久しいですが、子どもたちの電話に必ずといっていいほど出てくる事柄です。本人がいじめられている場合や友達がいじめられていて止めたいけど自分に標的が変わってくるのでいえない場合など、子どもたちの置かれている状況の厳しさがうかがわれます。
 
ありのままの私でいけないの?−雑談からみえてくるもの
 統計の中で「その他」に分類される項目の中で多いのが雑談です。
 楽しいこともちょっとしたでき事を話したい時もそんな相手がいない、共感したり、共有したりする相手がいない状況がみえてきます。
 そういう話のやりとりの中から出てくる家族関係の電話では、親に心配かけたくないから悩んでいること、傷ついたこと等は言えないという声があります。「弟はよくできるから」とか「僕はダメだから」など比較されて、深く傷ついている子どもたちの姿もあります。
 ありのままの自分を受け入れてもらった体験が少なく、自分を好きになれなかったり自分のいいところも見つけられなかったりします。それでも子どもたちは親が好きで愛されたいと心から願っているのが電話から伝わってきます。
 
ふえてきた性の問題
 2002年9月に常設してからふえてきたのが性に関する電話です。といっても、単に身体のことを聞いてくるだけではなく、セックス通話や、作話と思われるような電話が多いのも事実です。
 そこには、性のことが隠蔽されている背景があります。思春期には成長の段階として性に興味を持つのは当然といえますが、このことは、自己肯定感や自尊感情と深く関係しています。性は人としての生き方と結びついていることを受け手講習会のディスカッションからも見えてきます。
 
無言から感じること
 子どもたちは自分の気持ちをなかなか声に出すことができません。着信数の中ででも3分の1近くを占めるのが無言電話です。かけてはみたものの、本当に気持ちを聞いてもらえるんだろうか、話していいんだろうかと確かめずにはいられない子どもの気持ちが見えてきます。
 
 MIEチャイルドラインセンター一つの団体の力を伸ばすことだけを考えず、三重県中の子ども達の心を受け止める仕組み「子どもの心を受け止める24時間フリーダイヤル相談電話」を協働でつくることを通して、子どもに関する団体のネットワークをつくり子ども達の声から政策提言、活動づくりを行っていくことを目指しました。それと同時に、NPO同士、行政窓口同士の子どもという切り口を通した横の連携を強めることを目指し、NPOの自立連携、行政改革につながる取り組みにしたいと考えました。
 
【これまでの経緯】
・三重県では、NPOと行政の協働を推進する取り組みの一つとして、「NPOからの協働事業提案」を募集しました。この取り組みでは、NPOからの提案を受けてワーキングをつくり、提案したNPOと県の関係チームのほか、提案事業に参加したいNPOなどにも参加を呼びかけ、事業の企画内容やNPOと行政の役割分担、事業実施に向けての進め方などを検討していきます。
・MIEチャイルドラインセンターが提案した「子どもの心を受け止める24時間フリーダイヤル相談電話設立に向けての段階的アプローチ」については、平成15年9月16日の審査会で採択されてから、4回の準備会議を行った結果、子どもの心を受け止める仕組みづくりを考えるためのネットワーク(仮称:「子どもの心を受けとめるNW(ネットワーク)みえ」)ワーキングをスタートさせることになりました。
 
【ワーキングの目的】
(1)子どもに関わるさまざまなNPOや行政がネットワークをつくり、いろいろな切り口で子どもに関する問題に取り組んでいくことを目指します。
(2)子ども(18歳まで)を対象とした24時間フリーダイヤル相談電話を複数の団体、行政などの協働により実施・運営することを目指します。
 
【ワーキングの目指す方向】
・H15年度〜H17年度の3ヵ年計画で、目的(1)の(仮称)「子どもの心を受けとめるNW(ネットワーク)みえ」をつくることと、目的(2)の24時間フリーダイヤル相談電話が実現することを目指してNPOと行政が協働で取り組み、必要な体制づくりや役割分担、予算議論を段階的に行っていきます。
 
(会議日程)
ワーキング準備会(1) 9月26日
ワーキング準備会(2) 10月23日
ワーキング準備会(3) 11月12日
ワーキング準備会(4) 12月18日
作業 12月25日
第1回公開ワーキング 1月28日
第2回公開ワーキング 4月7日
今後隔月にて公開ワーキング実施予定
 
(呼びかけ団体)
特定非営利活動法人MIEチャイルドラインセンター
県健康福祉部こども家庭チーム
県生活部青少年育成チーム
県教育委員会事務局企画チーム
県生活部NPOチーム
 
(参加を呼びかけた団体)〜子どもの悩み相談に応じている団体をリストアップ〜
【NPO】(順不同、敬称略)
 三重いのちの電話協会、家庭危機管理・ひまわりの仲間たち、三重ダルク、久居市子育て支援ネットワークNPOどんど、みえ親子人間関係研究会、MCサポートセンター(みっくみえ)、フリースペースめだかの学校、三重シューレ(三重にフリースクールを作る会)、BBS、CAP
【行政】(順不同、敬称略)
 子どものこころの相談室(あすなろ学園)、こころのテレホン相談(健康づくりチーム)、いじめ110番(警察)、みえ子ども医療ダイヤル、県民局保健福祉部(9ヵ所)、児童相談所(5ヵ所)、教育行政相談、乳幼児の保育教育相談、少年サポートセンター(警察、5ヵ所)、各学校カウンセリング・生活指導・心の相談員 他
 
(コア団体)2004年2月現在
 家庭危機管理・ひまわりの仲間たち、市川・青山(三重ダルク)、三重シューレ(三重にフリースクールを作る会)、こども家庭チーム、青少年育成チーム、MIEチャイルドラインセンター
 
「子どもの心を受け止める24時間フリーダイヤル相談電話」 イメージ図
(拡大画面:34KB)
この図は、現時点での試案ですので、今後の議論の結果によりよりよいものを作成していきます。







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