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野の花と虫たち
 
野の花と虫たち
創作折り紙教室申込書
 
■特別講師紹介
吉澤 章(よしざわあきら)先生
 
国際折り紙研究会会長 現代折り紙創始者
1911年栃木県に生まれる。
1954年に国際折り紙研究会を設立。本格的に折り紙を世界に紹介する活動開始。
オランダ、アメリカ、フランス等、世界10ヶ国以上で個展・講演を行い“ORIGAMI”として世界に広めた。毎年のように展覧会を国内外で開催し、多くの人々に絶賛されている。
人生を折り紙にかけ、その手から生まれる折り紙作品は、本物により近い軟らかさ、温かさを感じさせる作品である。
折り紙に関する著書『折り紙読本I・II』『折り紙博物誌I・II』等を執筆。
 
国際折り紙研究会(International Origami Society)
1954年創設。国内外に多くの会員を有する。
折り紙の理論、実技、教育方法、実技指導を行っている。
折り紙は紙の面と線の屈曲と色彩の調和から生まれる造形の詩。現在では、自由表現による創作折り紙が美術造形として認められるようになった。紙造形の可能性と創造美の追求を行っている。
 
■事業概要
 
(1)事業の意図目的
 日本の伝統文化である折り紙に着目し、その伝承と発展を目指す。
 一枚の紙が動植物へと創作されていくプロセスに触れ、自己の創作性を掻き立て、「折り紙」の魅力を堪能する事により、日本が世界に誇る伝統文化の次世代への継承と発展を目指す。また、薄れつつある世代間・地域間交流を共同作業という形をとることで、生き生きと心が通じ合う人間関係を養う。
(2)事業概要
 身近な遊びである「折り紙」をより深く追求するため、創作折り紙作家の吉澤章氏から創作折り紙を学ぶ。折り紙に人生をかけてきた先輩から直接指導・解説を受けることで、世代から世代へと伝承していくことの大切さを体感する。また、制作作品を展示することで、より多くの人々に「折り紙」の素晴らしさを伝え、芸術文化への関心を育てる。
 
■使用材料
・7.5cm四方(クロユリの葉などを折る)
・15cm四方(一般的に手にする折り紙のサイズ)
・20cm四方(主に動物に使う紙)
 紙は吉澤章先生仕様の和紙。7.5cm、15cmの折り紙は、色付けが全て手塗りであり、筆の痕跡が確認できる。紙が非常に薄く軟らかいので、手に馴染んでくる。花など、曲線が多くやさしさを感じさせるものを折るのに適している。
 20cmの折り紙は“折り”に堪えられる厚みのある特別な和紙。厚みがあり、折りにくいため、紙の裏側全体を軽く絞ったタオルで湿気を与えて、軟らかくしてから折る。
 
■創作折り紙教室の風景
 
<5月17日(土):11時00分〜12時00分>
テーマ:「誰にでもわかる特別講座」野の花と虫たちの解説と観察
配布物:花の解説と昆虫の解説 日程表
 
 創作折り紙教室を受講する前に、今回の折り紙の対象である「野の花と虫たち」について、特別授業を行った。講師は、駒ケ根市在住の昆虫研究家 田中邦治氏と植物に造詣が深い当館館長 松井君子。
 昆虫は、標本を使い解説。蝶、とんぼ、カメムシ等身近に観察できるものを選んだ。自分で捕まえたことが無く、気持ち悪がる子どももいた。羽の模様、触覚など細かい部分についての解説を受けた。
 野の花は、パネル解説及び当館敷地内に咲く花を観察。やまぶき、水仙、スイレン、椿、クロユリその他高原植物等、駒ケ根高原で多く見られるものを選択。
 参加した子ども、大人を問わず普段見過ごしがちな動植物の解説を熱心に聞いていた。特に昆虫の標本に興味を示していた。昆虫だけでなく、標本の作り方などを講師に質問していた参加者もいた。
 
<5月17日(土):13時30分〜17時00分>
テーマ:身近な草花
配布物:折り紙セット(手染折り紙1束、7.5cm紙、色画用紙) 日程表
 
 子ども達が家族と共に早くから訪れ、会場前に展示された吉澤先生の作品に見入っていた。教室で習うものと同じ作品に加え、より精巧かつ緻密な作品が100点以上あり、更に制作意欲を刺激されていたようである。
  [花]:15cmの折り紙を使用。3種類の折り方を習ったが、それぞれがまったく違う形を見せた。4回折ると形が生れる机に立つ花は基本なのだが、少しの折りのズレで立たせることが出来ず、立つようにバランスを調整していた。
 紙の色のある面を内側に折り、最後に花びらになる部分の1枚を思いきり引っ張り上げると、「パッ」と花が開く。このまるでビックリ箱のような作品には、参加者全員が驚き、歓声を上げながら何度も閉じたり開いたりしていた。
 また、花と葉を組み合わせ、家族の作品を集めると花束のようになった。
  [蝶]:15cmの折り紙を使用。
 基本の蝶から発展型であり、世界中で親しまれている「吉澤の蝶」まで3種類の蝶に挑戦。
     先生:「これはとてもシンプルな形ですが、蝶の特徴を適確に捉えています。世界中で“吉澤の蝶”と呼ばれる代表作です。ちょっと難しいかもしれませんが頑張って、皆さんもしっかり覚えて、お友達に教えてあげられるようになってください。」
     3種とも、机に置いて背中を押してあげると羽ばたく。ただし、簡単な折り方ほどバランスが難しく、最初の一折り目がずれてしまうと形が崩れてしまう。
     先生:「人間の目はとても精巧に出来ていて、定規で測るよりも正確です。紙をずらして、じっと見つめてください。」
     との先生の言葉に、参加者は一生懸命に手にした折り紙を見つめて、折り目を決めていた。
  [樹木]:15cmと15cmの折り紙を半分にした長方形、7.5cmの折り紙を使用。
 樹木は‘折る’‘はさむ’を組み合わせた作品。丸みを重視しているので、しっかりと折り目をつけない。そのため、柔らかい風合いが楽しめる。幹と葉は、紙の一部を重ね巻き込む形で接続。立体の樹木なので、立たせてみるのだが上下のバランスと折りがズレていると立たない。参加者たちも微妙な調整にかなり苦労していた。7.5cmの紙では遠景の樹木を折り、作品を並べてみると家族や隣席の参加者との共同制作の森が出現した。
  [花つなぎ]:15cm、7.5cm、2cmの折り紙、4つ切り色画用紙を使用。
      同系色の折り紙を2色(計5枚)使って作品を制作。椿の花を5輪作り、花びらの形を出すために裏に折った部分を利用して、花をつなぐ。今回は吉澤先生の特製糊を使用。米粒をよく練りつぶした糊なので、早くしっかりと接続ができた。
     先生:「これはお米から作った、手作りの糊です。普通の糊と違ってたくさん付けなくても、ちゃんとつながります。薄くすこ〜し塗って、大切に使ってください。」
     5輪が離れてしまわないように、色画用紙に更に貼りつけた。花のつなぎ方は十人十色で、様々な「花つなぎ」が出来あがった。花の色のグラデーションはピンク系とオレンジ系に統一したが、配置によってまったく違うオリジナルの作品となった。“綺麗な花を折り、自分の感性でつなぐ”この折り紙は特にイキイキと制作活動をしていたように思う。小さい子どもは椿だけでなく、花に誘われたように自分で折った蝶を付けていた。
 
<5月18日(日):9時30分〜12時30分>
テーマ:高山植物と虫たち
配布物:手染折り紙1束、造形折り紙用紙1枚、その他) 日程表
 
 受付を済ませた参加者は、前日と同様、先生の展示作品に見入っていた。何度見ても不思議と飽きず、見れば見るほど「どうやって折っているの?」という疑問が大きくなっているようだった。
  [カタツムリ]:15cm、の折り紙を使用。
      色のある面で殻、白い面で頭と尻尾を表現。殻の部分は紙の中心部を利用し、膨らませて立体感を出した。しかし、膨らみの調節が難しく、広げ過ぎた参加者のカタツムリは折りが開いてしまっていた。頭の触覚も折ったが、4mm程の折なので引っ張りすぎて、触覚部分が千切れてしまう人もいた。‘折り込んだ部分を数ミリ引っ張り出す’作業は鳥などのクチバシを折るとき等によく使う方法だが、見た目は簡単でも細かな作業なので、折ることは難しい。
  [木の葉]:20cmの折り紙を使用。
      とても簡単な木の葉の表現。6回折ると出来あがる。カタツムリを乗せる木の葉とスイレンの葉を折った。参加者は、折り上がった木の葉に葉脈のすじを折りで表現したり、机から少し浮いた感じになるように、アレンジを加えていた。
  [スイレン]:15cmの折り紙を2枚使用。
      ピンク色と緑色の折り紙を外表に重ねて制作。2枚重ねて一緒に折っていく方法は始めてだったので、参加者も理解するのに時間がかかった。糊で貼り合わせず、2枚同時に折るため、どうしてもズレやすかった。まだ手が小さい子ども達には難しかったようで、親やスタッフが一人ずつに丁寧に指導した。
      基本の形は一つ。しかし、花びらの部分の開き加減で蕾、咲き始め、満開と様々な表情を見せることが出来る。そのまま水に浮かべて見たくなるような作品が出来た。
  [カエル]:15cmの折り紙を使用。
      「跳ね蛙」という名のついた作品に挑戦した。折り方は途中までは蝶と同じ。
      後ろ足の左右のバランスによって、跳ねの良し悪しが決まる。参加者みんなが、完成したカエルを机の上で跳ねさせようと一生懸命になっていた。しかし、なかなか前には跳ねず、「ひっくりカエル」になっていた。先生のカエルは30cm以上跳ねるのが、不思議に思えた。
     先生:「このカエルは良く跳ねるでしょ。丁寧に折ってあげて、皆さんが命を吹き込んであげるんです。」
     と話をされ、みんなと一緒にカエルを跳ねさせて遊んだ。
  [クロユリ]:6角形、7.5cm、長方形の折り紙を使用。
      今回の教室の為に新しく先生が考えた作品。基本はユリで、少しアレンジされている。花の内側に色面を使い、一切白い面が見えない作品。
     先生:「特別に考案した作品です。難しいですから頑張ってください。」
     最初に15cmの折り紙を6角形にする方法を学んだ。先生が考案した、簡単かつ正確な方法だが、幾何学的な説明もあり大人でも理解するのに時間を要した。
     先生に直接聞いたり、スタッフに質問しながら、6角形を作った。
     先生:「折るときに正確に線をつけていれば、きれいな6角形ができます。ズレが出てこないように、気をつけてください。」
     と注意を促した。一番大切な作業なので、みんな真剣。ここで完成時の美しさに差が出てくる。15cmよりさらに小さくなった6角形の折り紙なので、大人はかなり苦労していた。子ども達は細かい部分を開いたりするとき、鉛筆の先を使うなど自分なりの工夫をしていた。折りの工程には、ユリや鶴を折る時と似た工程があった。とても細かい作業ではあったが、花の形が見えてくると、参加者の真剣な顔が笑顔になっていく様子が印象に残った。
      葉も今回の為にアレンジを加えた形。先に習ったものより若干細めにし、クロユリの葉に近い形を求めた。茎に付ける時、クロユリの葉のつき方と同じになるよう、写真を参考に花のすぐ下に1枚、7cmほど下に3枚を接着。花・茎・葉が接続されると本物の花のようで、とても綺麗なクロユリが出現した。1時間半集中して作り、予定時間を30分ほど超えたが、全員が完成させることができ、キレイな折り紙のクロユリと最高の笑顔を見せてくれた。
 
■作品展示
 
 教室終了後、5月28日(水)〜6月30日(月)の約1ヶ月間、当館多目的ホールに「野の花と虫たち」を制作・展示。折り紙教室で制作した作品を約120点展示。クロユリの群生、森、スイレンの沼、お花畑を展開。
 教室参加者の協力を得て、カラフルな花々と森を再現した。高山植物のクロユリの群生地帯を少し高い位置に置き、開く花をまるでお花畑か紫陽花のように配置した。カタツムリを大きい殻、小さい殻と数種類作ってもらい、親子カタツムリのように展示。
 展示期間中、当館を訪れた入館者にも非常に好評であった。「花」というテーマは見る側にとっても身近なので、多くの人に喜ばれた。特にクロユリは、折り方の説明を求める声が多く、次回の教室を求める声が多く寄せられた。展示によって、折り紙の存在を再確認してもらったり、興味を持ってもらえたことは、大きなプラスの効果であった。
 参加者も作品展示を見に来て、とても楽しそうに説明し、笑顔を置いていった。
 
■成果と今後の課題
 
 平面である1枚の紙を、計算された“折り”によって立体作品に変化させていく過程を、自分の手、自分の努力で体験できたことで、“作り出す喜び”を与えることが出来たと思う。特に連続参加者は毎年技術の向上が見られた。子ども達は1年経つと体の成長は勿論、精神的成長が著しく、自己主張やアレンジが出来ている姿が目に見えた。伝承芸術を受け継ぐ子ども達、ただ受け継ぎ伝えるのではなく、オリジナルの工夫をして伝えていく。“遊び”に終わらない折り紙の表現力を子ども達が生み出してくれた。
 また、さらに高度な折り紙を求める声と、ワークショップへの関心を多くの人が持ってくれたことは、大変嬉しいことであった。
先生:「私が教えているのではありません。神様が皆さんに折り紙を折って、紙に命を与えてくれるよう伝えているのです。これからもどんどんキレイな作品を作り出してください。」
と、子ども達へメッセージを下さったように、そのチャンスを与える場所として、今後も美術館を活用できるのではないだろうか。







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