2000/12/16 読売新聞朝刊
[社説]次期防決定 21世紀の「軍事革命」に遅れるな
スキのない防衛体制を構築するには、技術革新や内外の情勢の変化を的確に踏まえた防衛力整備が不可欠である。
来年度から五年間の新たな中期防衛力整備計画(次期防)はそうした観点から、IT(情報技術)革命への対応や、ゲリラ、特殊部隊などによる多様な攻撃への対処能力の向上に重点を置いた。妥当な認識と言える。
ITの急速な進歩と普及は軍事の分野にも劇的な変化をもたらしつつある。
米国は湾岸戦争以降、先進的な技術を生かした組織、戦術、装備全般にわたる「軍事における革命」(RMA)を積極的に推進している。
日本は大幅に遅れ、これから着手する段階だ。自衛隊の能力向上だけでなく、日米安保の効果的運用の面からも危機感をもって取り組まなければならない。
IT分野の技術革新は予想以上の速度で進む。必要なら次期防期間中でも計画を見直し、迅速に対応すべきだ。
ゲリラ、特殊部隊の攻撃等への対処能力強化は、昨年の北朝鮮の工作船による領海侵犯事件を踏まえたものだろう。 南北首脳会談を機に朝鮮半島で対話ムードは高まっているが、軍事情勢には変化はない。
期間中の防衛費の総額は二十五兆千六百億円を上限としている。装備の質の向上は不可欠だ。同時に、厳しい財政事情を踏まえ、調達価格の抑制にも一層努力する必要がある。
主要装備では、懸案の空中給油機四機の導入が盛り込まれた。これまで「専守防衛に反する」などとして反対してきた公明党も今回は容認した。
ただ、防衛庁が要求していた来年度予算への購入費の計上は、公明党が認めなかったため、見送られた。公明党内には「次期防に加えて、来年度予算での導入まで認めたら、来年夏の参院選に響きかねない」といった声が強いという。
国民の生命と財産を守る安保・防衛は国政の基本だ。防衛の重要事項を後回しにして、選挙対策を優先したのだとしたら、責任ある与党とは言えない。
今回の次期防をめぐる与党の論議は、全体に極めて低調だった。
次期防策定は、装備だけでなく、二十一世紀の防衛のあり方について本格的に論議する絶好の機会だったはずだ。
米国では同盟強化の観点から、日本に集団的自衛権行使の容認を求める動きが高まりつつある。これを正面から受け止め、責任ある防衛政策を打ち出すことが政治の役割だ。
次期防の着実な実行とあわせ、政党は防衛の本質論議を深めてほしい。
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