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1991/09/11 読売新聞朝刊
[社説]PKO法案の今国会成立を期せ
 
 国連平和維持活動(PKO)協力法案(仮称)をめぐる自民、公明、民社三党の協議が、最終合意へあと一歩のところまで、大きく前進した。
 PKOへの参加は、「日本の姿勢には顔が見えない」と言われてきた経済大国・日本が、カネだけでなく、人的協力によって世界の平和に積極的に貢献する「新たな顔」を打ち出すことを意味する。日本として、前向きに取り組むべき重要課題だ。
 三党のこれまでの努力は評価するが、今国会の審議時間に、もうあまり余裕はない。三党は早急に残る問題点をつめ、海外における大規模災害時の国際緊急援助隊に自衛隊を参加させるための関係法改正とともに、PKO協力法案を今国会で成立させるよう、全力をあげてもらいたい。
 国連のPKOには、選挙監視団、停戦監視団、平和維持軍(PKF)の三分野があるが、これまでの三党協議の焦点は、自衛のための最小限の武器を携帯するPKFへの自衛隊の参加問題だった。
 この点については、九日の三党幹事長・書記長会談で、さきに政府が示した「PKFへの参加五条件」を法制化することで合意した。PKFの実態からみて、この法制化には特に問題はない。妥当な取り扱いだろう。
 「五条件」は、〈1〉紛争当事者間で停戦合意が成立している〈2〉紛争当事者が、維持軍へのわが国の参加に同意している〈3〉維持軍が特定の紛争当事者に偏ることなく中立的な立場を厳守する、などだ。これらは、実は、いずれも、これまで実施されてきたPKFでは、当然のことと考えられているものばかりである。
 このうち特に重要なのは、紛争当事者が停戦に合意しない段階では、PKFの活動は始まらない、という点だ。これは、PKFだけでなく、PKO全体に言えることだが、活動が開始されるのは、戦闘状態が終結して平和が戻っていることが大前提となる。これがPKOの基本的性格だ。
 これまでの国内の論議には、PKOとは何か、という基本的な認識に欠けるものが少なくなかった。紛争を押さえ込むために武器を持って出かけるのではないか、という誤った考えに基づく反対もしばしばみられた。九日の三党合意は、こうした状況からの“脱皮”をうかがわせる。
 PKFは敵を持たず、戦う軍隊ではない、という基本性格からみれば、憲法上の問題も存在しないと考える。九日の三党合意では、改めて、PKF参加と憲法の関係について、政府統一見解を出すことになったが、国民の誤解を一掃するためにも、この点は、明確にしてほしい。
 三党協議で残っている問題は、報告か事前承認かという、政府と国会の関係だ。民社党は、政府の独走をチェックする立場から、国会での承認を主張している。
 文民統制重視という点で、理解できる考え方だが、PKOは、必要な時にタイムリーに派遣することも必要だ。五条件が法制化されれば、政府独走の心配はあるまい。「報告」が現実的だ。
 
 
 
 
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