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1990/09/01 読売新聞朝刊
[踏み出した日本](下)国際社会の「踏み絵」 貢献第二弾焦点に(連載)
 
 「目に見える貢献策が民間飛行機一機か二機の借り上げ、船舶の提供程度ということでは、米国はとても収まらず、日本への信頼感はぶち壊しになる」
 自民党の小沢幹事長の命を受け、八月末、米国に飛び、国連、米政府、議会関係者の感触を探ってきた柿沢弘治・衆院外務委員長は三十日、小沢幹事長に米国の日本への冷たい視線をこう報告した。
 小沢氏の懸念は的中した格好となった。小沢氏は、さる二十六日の海部首相との会談の席で、現行法制下でも国連軍への自衛隊派遣は可能との持論を展開、「あなたが政治決断することだ」と迫った。
 「中東貢献策はカネを出せば済むというものではない。いかに日本が国際的責任を果たし得るかであり、世界各国と共存共栄の道を歩むか、国際社会で孤立の道を選ぶかの重要な岐路にある」との思いから、政府部内の調整は「内閣法制局や役人の法解釈に引きずられ、あれもできない、これもできないと言っている」と、小沢氏の目に映っていたようだ。この思いは、首相に近いといわれる西岡総務会長も同様で、やはり首相に、輸送支援など「非武装の自衛隊」の派遣にまで踏み込むよう求めていた。
 一方、竹下派会長の金丸信・元副総理も、小沢氏と相談のうえで、緊急時法制の整備、さらには憲法見直し論議の必要性を指摘、「首相の決断にかかっている。その結果、国民の大きな批判を受けることがあれば、甘んじて受けて、その責任をとったらいいではないか」と、首相の政治決断を求めた。
 しかし、政府の中東貢献策は「憲法のワク内で出来るギリギリの案」(河野洋平外交調査会長)との評価はあるにしても、米国内などの評価は今一つで、さらなる貢献を求められている。
 今、自民党内で描かれているスケジュールは、第一段階、現行法制下での貢献、第二段階、国連平和協力法など緊急時法制の整備による新たな日本の貢献策の模索、第三段階、憲法論議−−といったもので、特に「目に見える貢献」が求められている折、第二段階をどう早急に具体化するかが焦点となっている。
 もっとも、野党の状況となると、「国際情勢の変化を理解できず、あまりにお粗末」(自民党幹部)との声が出るほど、政府・自民党との距離は遠い。
 社会党は「平和憲法のもとで何が出来るのか、党も考えなければいけない」(同党首脳)として、柔軟に対応する構えだったが、フタを開けると、「政府の貢献策は、多国籍軍の軍事行動の後方支援であり、認められない」(山口書記長談話)と建前論に終始。
 こうした党の方針に反発した新人議員が、自衛隊を除くとしながらも「国連平和軍」への後方支援の必要性を盛り込んだ意見書を提出するなど、その「非現実的政策」(民社党幹部)が党内でも揺さぶりにあっている。
 公明党は、市川書記長が三十日、「武力行使を前提としない自衛隊の派遣は、憲法上許されないわけではない」として、武力行使を伴わない自衛隊員の派遣検討を表明したが、一日前の二十九日の会見では、国連軍への自衛隊派遣に関する小沢発言を「無理でしょう」といっしゅう、いわば“日替わりメニュー”みたいな対応ぶり。一貫して自衛隊派遣を含む抜本的対応を主張しているのは民社党だけという図式だ。
 また、自民内でも宮沢喜一・元副総理や後藤田正晴・元官房長官などは、自衛隊の海外派遣問題には慎重な姿勢を示しており、今後焦点になるとみられる国連平和協力法の内容をめぐり、政府、自民党内では、「同床異夢」(党幹部)の観もある。
 緊急時に備えた法整備はいずれ国会で論議されることになるが、公明党が自衛隊の海外派遣問題で柔軟姿勢に転じたことから、自民党内では「自公民は同じ土俵に乗れるから、参院の逆転現象の中で法整備を進める展望が出てきた」との見方も出ている。
 同時に「この問題が社会党内の左右対立の亀裂を一層深め、政界再編の大きな流れに弾みをつける契機となる可能性がある」との声もある。
 これらの問題への対応が、大きく変動する国際社会の中で、わが国がどう生きていくかの「踏み絵」となってきているようだ。
 
 
 
 
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