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1990/04/23 読売新聞朝刊
[社説]軍事大国化の「歯止め」は何か
 
 米政府が、今後十年間の米国の兵力展開方針などを示したアジア戦略についての報告書(二十一世紀に臨むアジア・太平洋地域の戦略的枠組み)を議会に提出した。
 同報告書は「日米関係は、引き続き米国のアジアでの安全保障戦略にとって、緊要なかなめである」として、改めて日米安保体制の重要性を強調する一方、日本の軍事大国化は、地域の不安定要因になるとの考えから、日本の「戦力投入能力」向上の抑制などを指摘している。
 日米安保体制を堅持しつつ、専守防衛に徹して軍事大国の道を歩まないことは、平和国家・日本の安全保障政策の極めて重要な柱である。同報告書の指摘は、大筋で妥当なものと言えよう。
 この報告書は、さる二月のチェイニー米国防長官来日の際に明らかにされた在日米軍の削減方針を、より具体的に明らかにするとともに、米軍削減をめぐるアジア諸国の懸念にもこたえる内容になっている。
 在日米軍削減に関して注目してよいのは、今後三年間に進められる五千―六千人の人員削減が、沖縄県を中心に進められるという点だ。
 沖縄には、常時使用されている在日米軍基地のうちの七五%(面積比)が集中していることもあって、米軍と周辺住民との間のトラブルが多発し、日米安保体制の運用上、憂慮されている。
 今回の報告書は、人員削減のほか、施設に関しても「用地を返還し、地元との関係改善を図る」と述べている。適切な措置である。
 五千―六千人の削減規模は、現在駐留している在日米軍の一割に相当する。そのうえ、在韓、在比米軍も削減されるため、アジア諸国の間には、同地域における米抑止力の低下を心配する声が出ていた。
 この点について、報告書は、米国の平和時におけるアジアでの目的として〈1〉潜在的な侵略を抑止するため、近い将来にわたって、前方展開戦略を継続する〈2〉太平洋地域全域で、各施設への到達手段を維持拡充する−−などを掲げている。日本では、三沢空軍基地と横須賀の前方展開空母を維持することを明記している。
 北大西洋条約機構とワルシャワ条約機構が対峙(じ)し、東西の二極化が進んでいる欧州では、双方の話し合いによる軍事力の相互削減は比較的進展しやすい状況にある。しかし、アジアには、東西関係の好転の影響が及びにくい部分がまだ少なくない。アジアでの軍縮は、中、長期的課題とならざるを得ないのが現状だ。
 こうした状況下では、米国が、前方展開戦力を維持するのは、当然である。
 日本の防衛体制は、限定的で小規模な侵略には、自衛隊が独力で対処するが、それ以上の侵略には、日米安保体制により、米軍事力に大きく依存する仕組みだ。この仕組みを変えることは、日本の軍事大国化についてのアジア諸国の懸念を増幅させ、この地域の不安定要因となる。
 日米安保体制は、そのような事態を招かないための歯止めの役割を果たしている。
 
 
 
 
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