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1988/07/11 読売新聞夕刊
自衛隊の海外派遣、6割越す根強い反対/読売新聞全国世論調査の内容
 
 米ソの中距離核戦力(INF)全廃条約の発効など、核軍縮への動きが目立つ一方で、地域紛争も依然として続発しているが、国民は、わが国の防衛問題の現状についてどう考えているのだろうか。読売新聞社の全国世論調査(六月十八、十九日実施)で、自衛隊のあり方に対する考えや防衛意識の動向を探り、過去の調査データと比較し、その変化を追ってみた。
◇自衛隊
 《印象》 自衛隊に対する国民の印象は、「良い印象を持っている」8%、「どちらかといえば良い印象を持っている」29%、「どちらかといえば悪い印象を持っている」14%、「悪い印象を持っている」4%、「とくに良い悪いの印象はない」42%。前回五十九年七月調査に比べ、「印象はない」が7%増えている。
 「良い」と「どちらかといえば良い」を合わせると37%、「どちらかといえば悪い」と「悪い」の合計は19%と、「良い方」の印象が多い。「良い方」は前回調査比1%増、「悪い方」は同じく7%減で、「悪い方」の減った分が「印象はない」へ回った形だ。
 《あり方》 自衛隊のあり方について、国民はどう思っているのか尋ねたところ、「現状より増強」8%、「現状程度」67%、「現状より縮小」17%、「なくすべきだ」3%となり、現状程度の維持を望む人が三分の二を占めている。
 五十九年七月の前回調査と比較すると、増強論、縮小論、廃止論がいずれも減っているのに対し、現状維持論だけが12%も増えている。六十二、六十三年度の当初予算で、防衛費は国民総生産(GNP)の一%枠を突破しているが、国民は冷静に受け止めているといえよう。
 増強論での特徴は、支持政党別でみた場合、民社党支持者が前回調査の10%から16%に増え、社会党支持者も6%から8%に微増している点だ。これに対して、自民党支持者は16%から9%に減っている。民社党は、防衛政策で自民党より“突出”しているともいわれるが、調査でも裏付けられた格好だ。
 現状維持論は、どの階層でも前回より増加したが、中でも支持政党別で、社会党支持者が前回の45%から今回60%と一挙に16%増となったのが目を引く。増強論では自民党支持者を上回った民社党支持者は67%、自民党支持者は73%。
 一方、縮小論は、現状維持論と対照的に、ほとんどの階層で微減しているが、支持政党別で、社会党支持者が27%と、前回と比べて9%も減っている。この傾向は、廃止論でも見られ、社会党支持者の廃止論は2%と前回より6%減っている。
 「非武装中立」を堅持している社会党の支持者の間では、防衛問題に現実的に対応しようという意識が広まっていることを示している。
◆災害救助への期待最大◆
 《任務》 自衛隊の任務や仕事で、今後最も力を入れていくべきものとして、「わが国の安全確保」35%、「台風や地震などでの災害救助」42%、「急病人の輸送や不発弾の処理など民生協力」12%で、「災害救助」への期待が最も大きい。災害救助と「民生協力」を合わせると54%と半数を超える。
 「国の安全確保」では、男女別で、男性41%、女性31%と男性の方が多い。職業別では、管理・専門職が52%と高く、支持政党別では、民社党支持者(49%)が自民党支持者(43%)を上回った。
 「災害救助」では、男女別で、女性44%、男性39%と女性が多く、「国の安全確保」と対照的だ。職業別では、農林・水産業、事務・技術職、主婦で40%を超えている。支持政党別では、公明党支持者55%、社会党支持者44%、自民党支持者と共産党支持者各39%、民社党支持者33%となり、自衛隊に対する各政党の基本姿勢の違いがにじみ出ている。
 《海外派遣》 経済大国になったわが国に対し、政治的にも国際社会に貢献してほしいという声が強まってきている。その一つが、国連の平和維持活動への自衛隊の参加。それには自衛隊法の改正が必要だが、国民は、法改正−−平和維持活動への参加(海外派遣)をどのように考えているのだろうか。
 「平和維持活動に派遣できるようにする方が望ましい」が23%、一方、「一切海外へ出ない方が望ましい」は63%にのぼっている。これを五十九年十二月調査と比べると、ともに1%減。さらに今回調査をその前の五十六年一月調査と比べても、「派遣」は増減なく、「出ない」は3%増。事実上、この七年間、国民の考えはほとんど変化していないことがわかる。
 今回の調査を階層別にみると、支持政党別では、自民党支持者は「派遣」が25%、「出ない」が62%、同様に、社会党支持者は19%―72%、公明党支持者は25%―60%、民社党支持者は33%―65%、共産党支持者は14%―69%。
 《有事立法》 国会でこれまで大きな論争の一つになってきたのが、いわゆる有事立法だが、調査では「戦争など“有事”に備えて、国が交通・通信・経済の統制など非常措置をとれるよう平時から準備しておくべきだ」という有事立法賛成論は28%、これに対し、「そのような制度は民主主義と人権にとって危険だから設けるべきではない」という有事立法反対論が38%、「いちがいにいえない」という態度保留が26%。五十六年四月と五十九年十一月にも同じ調査を実施しており、今回調査と比べてみると、賛成論は1%減―1%増と事実上横ばい、反対論は3%増―5%増で漸増傾向、態度保留は4%減―2%減と漸減傾向を示している。
 今回調査を階層別にみると、支持政党別では、賛成論は、民社党支持者が47%と抜きんでており、次いで自民党支持者33%、社会党支持者23%、共産党支持者22%、公明党支持者20%の順。年齢別では、高年層(六十歳代33%、七十歳以上36%−−二十歳代24%)に比較的多い。
 《憲法九条》 戦争放棄を規定した憲法九条と自衛隊との関係については、国民はどう考えているのだろうか。
 最も多かったのは、「自衛隊は合憲とみてよいから憲法改正は必要ない」で43%(五十九年十一月調査比12%増)。次いで、「自衛隊は憲法違反ではないと思うが、国の自衛権を明記するため憲法を改正する」が20%(同4%減)、「自衛隊は憲法違反だからもっと規模を縮小する」が11%(同2%減)、「自衛隊は憲法違反だから、順次、廃止の方向へもっていく」が4%(同1%減)、「本格的な軍隊を持てるよう憲法を改正する」2%(同2%減)−−の順だった。この順位は、五十六年四月調査を含め三回の調査とも同じだが、今回は、過去二回の調査に比べ、トップの「自衛隊合憲−−憲法改正不要」が一割強も増えたのが目立つ。
 今回の調査結果を支持政党別にみると、支持者は各政党の見解をそれなりに反映しているといえそうだ。自民党支持者と民社党支持者は、「自衛隊合憲−−憲法改正不要」がトップで、「自衛権明記−−憲法改正」が二位、社会党支持者と公明党支持者は、トップは自、民と同じだが、二位は「自衛隊違憲−−規模縮小」、共産党支持者は、トップが「自衛隊違憲−−廃止」で、二位が「自衛隊合憲−−憲法改正不要」だった。
◇防衛意識
 《関心》 「日本の防衛問題に関心があるか」聞いたところ、「非常に」と「少しは」を合わせて「関心がある」グループは63%(前回五十九年九月調査67%)で、前回よりも3%減り、一方、「あまり」と「全く」を合わせて「関心がない」グループは35%(同30%)で、前回より5%増えている。
 無関心グループは二十歳代(46%)、女性(44%)に目立ち、関心グループは管理・専門職(87%)、男性、大学卒(いずれも74%)に多い。
◆戦争の危機感減少 「北朝鮮が脅威」は14%増◆
 《戦争の危険性》 米ソ間に緊張緩和の動きが強まる一方で、ペルシャ湾ではイランを中心に混迷は深まるばかり。揺れ動く世界情勢の中で、国民は、近い将来日本が戦争をしかけられたり、戦争に巻き込まれたりする可能性があると思っているのだろうか。
 「非常に」と「少しは」を合わせて「ある」とした人が50%と半数を占めたものの、「ない」も41%で、ほぼ二分した格好だ。前回の五十九年九月調査と比べ、「ある」は6%減り、「ない」が9%増えており、有事への危機意識を底流としながらも、わが国を取り巻く国際環境については楽観視する人が増えている。
 男女別では「危険性がある」とした人が、男性の方が女性より6%多く、また、年代別では二十歳代で61%と高い。
 一方、支持政党別による意識の差は大きく、「ある」とする人は、民社党支持者の69%を筆頭に、社会党支持者60%、共産党支持者59%に多く、自民党支持者では50%。
 危険性の有無を答えた人にそれぞれの理由を尋ねたところ(複数回答)、「ある」とした人で圧倒的に多かったのが「日本の周辺での緊張や対立がなくならないから」(56%)、以下「日本の防衛力を脅威だと感じる国があるから」(26%)、「日米安保条約があるから」(23%)、「国民の防衛意識が低いから」(21%)、「自衛力が十分でないから」(17%)−−の順。
 「ない」とした人では、最も多かった理由が「日本の周辺で戦争になるほどの緊張や対立がないから」の44%で、前回調査と比べ16%も増えている。以下、「憲法で戦争を放棄しているから」(34%)、「日米安保条約があるから」(20%)、「国民の防衛意識が高いから」(18%)、「国連があるから」(14%)−−の順。「自衛隊があるから」は7%に過ぎず、自衛隊の“抑止機能”を期待している人は少ないようだ。
 《脅威》 日本の安全にとってとくに脅威を感じている国は−−。アメリカ、韓国、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)、中国、ソ連の中からいくつでもあげてもらったところ、トップはソ連の36%(前回五十九年九月調査54%)だが、前回比17%の大幅減となっている。ソ連が進めている「ペレストロイカ」(立て直し)などの新政策を日本国民が好意的に受け止めていることなどが反映しているようだ。二位は北朝鮮20%(同5%)で、前回比14%増。大韓航空機事件や、ソウル・オリンピックを前に北朝鮮が何らかの妨害工作に出るのではないか、といった不信感が広がっているためかもしれない。三位はアメリカ11%(同8%)で、前回比4%増。四位韓国5%(同3%)、五位中国4%(同2%)の順。「脅威は感じるが、とくにどの国ということはない」は20%(同16%)、「脅威を感じていない」が21%(同14%)。脅威を感じていない人が8%増えている。
 《国を守る気概》 「国を守ろう」という気持ちの強弱を聞いたところ、「非常に強い」と「どちらかといえば強い」を合わせた「強い」が59%で、「どちらかといえば弱い」と「非常に弱い」を合わせた「弱い」が34%。「強い」が「弱い」を大幅に上回っており、この傾向は、五十九年九月調査の結果と比べてほとんど変化はみられない。支持政党別にみると、「強い」は自民党支持者が66%、共産党支持者65%、公明党支持者64%、社会党支持者63%、民社党支持者59%−−と続く。
 年代別にみると、「強い」は年齢が高くなるほど多くなり、二十歳代40%、四十歳代58%、六十歳代75%−−となっている。
 《侵略されたら》 万一、日本が外国から武力侵略された場合には、国民はどのような行動をとると考えているだろうか。「何らかの方法で自衛隊を支援する」が28%で最も多く、これに「武力によらない抵抗運動を続ける」、「より安全な場所へ逃げる」各23%−−などと続いている。「何らかの方法で自衛隊を支援する」や「武力によらない抵抗運動を続ける」のほかに、「自衛隊に参加して戦う」(4%)、「ゲリラ的な抵抗をして戦う」(3%)を加えると、何らかの形で侵略に抵抗する意思を持っている人は六割近い。
 年代別でみると、「自衛隊に参加して戦う」や「何らかの方法で自衛隊を支援する」では四十―六十歳代で多く、「より安全な場所へ逃げる」や「抵抗せず降参する」では二十歳代が最も多く、抵抗の意思の強弱は世代によってかなり差がみられる。
〈調査の方法〉
 この調査は、去る六月十八、十九の両日、全国の有権者の中から層化多段無作為抽出法で選んだ三千人(二百五十地点)を対象に、調査員による個別訪問面接法で実施。旅行、病気、転居などの理由で面接できなかった人を除く二千二百二十二人から回答を得た(回収率74%)。
◆質問と回答(数字は%)◆
◆あなたは、日本の防衛問題に関心がありますか、関心がありませんか。
・非常に関心がある 18.9
・あまり感心がない 27.1
・少しは関心がある 44.2
・全く関心がない 8.3
・答えない 1.5
 
◆あなたは、近い将来日本が戦争をしかけられたり、戦争に巻き込まれたりする危険性があると思いますか、ないと思いますか。
・非常にある 7.5
・少しはある 42.5
・ない 41.1
・答えない 8.9
 
◇【前問で「ある」と答えた人だけに】 では、あなたがそうした危険性があると思う主な理由は何ですか。次の中から、いくつでもあげて下さい。
・日本の周辺での緊張や対立がなくならないから 55.7
・日本の防衛力を脅威だと感じる国があるから 26.3
・日米安保条約があるから 23.3
・国連の機能が不十分だから 16.4
・自衛力が十分でないから 17.3
・国民の防衛意識が低いから 20.5
・その他 1.6
・答えない 5.4
 
◇【前問で「ない」と答えた人だけに】 では、あなたがそうした危険性がないと思う主な理由は何ですか。次の中から、いくつでもあげて下さい。
・日本の周辺で戦争になるほどの緊張や対立がないから 43.7
・憲法で戦争を放棄しているから 34.3
・日米安保条約があるから 20.3
・国連があるから 14.0
・自衛隊があるから 6.7
・国民の防衛意識が高いから 18.2
・その他 4.3
・答えない 8.8
 
◆あなたは、最近日本の安全にとってとくに脅威を感じている国がありますか。次の中から、いくつでもあげて下さい。
・ソ連 36.2
・脅威を感じていない 21.3
・脅威は感じているがとくにどの国ということはない 20.3
・朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮) 19.7
・アメリカ 11.4
・韓国 5.4
・答えない 6.0
・中国 3.7
・その他 0.5
 
◆「国を守ろう」という気持ちについてお聞きしますが、あなたご自身は、「国を守ろう」という気持ちが強いい方だと思いますか、それとも弱い方だと思いますか。
・非常に強い 16.3
・どちらかといえば弱い 29.2
・どちらかといえば強い 42.7
・非常に弱い 4.3
・答えない 7.4
 
◆万一、日本が外国から武力侵略された場合、あなたはどうしますか。次の中から、一つだけあげて下さい。
・自衛隊に参加して戦う 3.6
・何らかの方法で自衛隊を支援する 28.3
・ゲリラ的な抵抗して戦う 2.6
・武力によらない抵抗運動を続ける 23.0
・抵抗せず降参する 7.0
・より安全な場所へ逃げる 22.7
・その他 1.8
・答えない 11.2
 
◆あなたは、現在、自衛隊に対して、良い印象を持っていますか、それとも悪い印象を持っていますか。
・良い印象を持っている 8.0
・どちらかといえば良い印象を持っている 28.6
・どちらかといえば悪い印象を持っている 14.3
・悪い印象を持っている 4.4
・とくに良い悪いの印象はない 41.9
・答えない 2.8
 
◆自衛隊のあり方について、次にあげる意見のうち、あなたのお考えに最も近いものを一つだけあげて下さい。
・現状より増強する必要がある 7.8
・現状より縮小すべきだ 17.1
・現状程度がよい 66.7
・なくすべきだ 3.4
・答えない 5.0
 
◆自衛隊には次のような任務や仕事がありますが、あなたが今後最も力を入れていくべきだと思うものは何ですか。次の中から、一つだけあげて下さい。
・わが国の安全確保 35.4
・台風や地震などでの災害援助 42.0
・急病人の輸送や不発弾の処理など民生協力 11.7
・その他 0.1
・とくにない 8.2
・答えない 2.6
 
◆自衛隊を海外派遣することは法律でできないことになっていますが、あなたは、国連が行う平和維持活動のためなら、自衛隊を派遣できるようにする方が望ましいと思いますか、それとも現状通り自衛隊は一切海外へ出ない方が望ましいと思いますか。
・国連の平和維持活動には派遣できるようにする方が望ましい 22.5
・一切海外へ出ない方が望ましい 62.5
・答えない 14.9
 
◆(A)「戦争など“有事”に備えて、国が交通・通信・経済の統制など非常の措置をとれるよう、平時から準備をしておくべきだ」という意見と、(B)「そのような制度は民主主義と人権にとって危険だから設けるべきではない」という意見があります。あなたは、どちらの意見に賛成ですか。
・(A)の意見に賛成 27.9
・いちがいにいえない 25.9
・(B)の意見に賛成 37.5
・答えない 8.6
 
◆憲法第九条の戦争放棄の規定と自衛隊の関係について、次のような意見があります。あなたのお考えに最も近いものを一つだけあげて下さい。
・本格的な軍隊を持てるように、憲法を改正する 2.3
・いまの自衛隊は、憲法違反ではないと思うが、国の自衛権を明記するため、憲法を改正する 19.5
・いまの自衛隊は、合憲とみてよいから、憲法の改正は必要ない 42.7
・いまの自衛隊は、憲法違反だから、もっと規模を縮小する 10.8
・いまの自衛隊は、憲法違反だから、順次、廃止の方向へ持っていく 4.0
・その他 0.4
・答えない 20.3
 
 
 
 
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