2004/07/02 毎日新聞朝刊
[記者の目]自衛隊50年と多国籍軍参加=清宮克良(政治部)
◇対米傾斜是正こそ現実的−−国際貢献を問い直せ
自衛隊は1日、創設50年を迎えた。91年の湾岸戦争を契機に海外に派遣された自衛隊は、6月28日、イラク暫定政府への主権移譲に伴い、初めて多国籍軍に参加した。だが、これは、国民の十分な理解と支持に基づいた派遣と言えるだろうか。自衛隊が半世紀の歴史を刻んだ節目にあたり、小泉純一郎首相の説明不足を問いたい。日本の主体的な国際貢献のために、行き過ぎた対米傾斜の是正を求めたい。
首相の対応を問題にしたい理由は二つある。第一に、ブッシュ米政権の予防先制攻撃論と単独行動主義が限界にきていると考えるから。第二に、イラクでの自衛隊の活動が対米協力なのか国際貢献なのか分かりにくいからである。
今、イラク国内には反米テロが相次ぐ厳しい現実がある。「6・30」のはずだった主権移譲が早まった最大の理由は、式典などがテロの標的になることを避けるところにあった。圧倒的な軍事力を誇る米国が「この指とまれ」式に各国部隊を糾合して治安維持に努めても追いつかないまでに事態は悪化している。
いま一度、イラク多国籍軍の成り立ちを振り返ってみよう。主権移譲に伴う米英占領当局(CPA)の解散を前提に、国連を通じて各国に多国籍軍編成を活発に働きかけたのは米国だった。ネオコン(新保守主義)の思想を背景にした「有志連合(=この指とまれ)」型から、国連のお墨付きのある「多国籍軍」型へ脱皮を図ろうとした。
11月に大統領選を控えたブッシュ大統領としては、イラク戦争に対する疑問や批判も広がり始めた国内世論を意識せざるを得ず、国際協調を演出したい意図があったと見るべきだろう。
一方、小泉首相とブッシュ大統領は、80年代の中曽根康弘首相とレーガン大統領以来の蜜月関係にある。小泉首相は、6月8日の日米首脳会談で、多国籍軍のイラク駐留容認を含む国連安保理決議1546採択を踏まえ、ブッシュ大統領に自衛隊の多国籍軍参加をいち早く伝えた。
ここが問題だと思う。小泉、ブッシュ両首脳の個人的な信頼関係がそれほど強固だというなら、首相は大統領にこう言うべきだった。「日本は国際協調主義の旗振り役になる。それが米国のためになる。大統領も納得してほしい」――。
日米外交において、日本が米国に批判的なメッセージを伝えることが、国益無視の無謀で非現実的な選択であるかのように言う向きがあるが、そうだろうか。国際協調に基づく多国籍軍のイラク駐留は米国にとってもプラスであるはずだ。自衛隊の多国籍軍参加にあたっても、国連重視に固執する姿勢を伝えることは十分に現実的な外交姿勢であると思う。
もう一つ、小泉首相に注文したいのは、日米同盟と国際貢献の違いを明確にすることだ。昨年5月の日米首脳会談で、首相は「世界の中の日米同盟」という概念を持ちだした。日米安保条約が想定する米軍と自衛隊の行動範囲は「極東」にとどまる。自衛隊のイラク派遣は日米同盟の地理的な拡大を意味するのか、それとも、日米同盟とは異なる次元の国際貢献なのか。
この点について、石破茂防衛庁長官は「イラク派遣と日米安保は何の関係もない」(毎日新聞のインタビュー)と、明快だ。しかし、現地で航空自衛隊が引き続き担う米兵輸送などの安全確保支援は事実上の対米協力であり、「武力行使と一体化」につながる可能性がある。首相は先月29日の記者会見で「(多国籍)軍というと戦争に行くんじゃないかと誤解する。それ(誤解)が解ければ(国民は)わかってくれる」と語ったが、問題意識が粗雑過ぎないか。
自衛隊の多国籍軍参加論議は今回、急に浮上したわけではない。90年代から、PKO(国連平和維持活動)参加を通じ、盛んに議論された。9・11米同時多発テロ後のテロ対策支援特措法(01年)はアフガニスタン攻撃に参加する米軍中心の連合軍を自衛隊が後方支援するという意味において「多国籍軍」参加に通じていたが、国民的な議論には至らなかった。
だからこそ、多国籍軍参加にあたり、首相は国際貢献の意味を明確にする必要がある。「日本にふさわしい人道復興支援を」と繰り返すだけではなく、将来にわたる自衛隊の海外派遣を日本の主体的な意思に基づいて行うために、対米傾斜の是正まで踏み込むことは、現実的な思考から決してかけ離れてはいない。
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