2003/12/20 毎日新聞朝刊
[社説]空自派遣命令 重大な責任背負った小泉首相
石破茂防衛庁長官は19日、イラク復興特別措置法に基づき、航空自衛隊の先遣隊に対し派遣命令を出した。陸海空の各自衛隊の本隊に関しては、派遣準備命令を出した。
航空自衛隊の先遣隊は早ければ26日にも現地に向かう。これにより自衛隊が初の「戦地」での活動に踏み出すことになる。
イラクへの自衛隊派遣に対し、野党はいずれも反対している。国民世論も分かれている。派遣の根拠であるイラク特措法にはいくつかの疑問が指摘されている。イラクのどこに「非戦闘地域」があるのか。不思議に思う国民はなお少なくない。
イラク特措法が成立した7月時点よりイラクの治安情勢は確実に悪化している。日本の自衛隊が反米勢力のターゲットにされる危険性も増している。状況が変化し、イラク特措法では対応できない事態となっているとの疑問をぬぐい去ることはできない。
小泉純一郎首相は先の記者会見で、憲法の前文を引用しながら「憲法の精神、理念に合致する行動に自衛隊の諸君も活躍してもらいたい。これは大義名分にかなう」と語った。イラクの復興支援は憲法の国際平和主義の精神に沿ったものだと強調した。憲法の枠を超えた行動はとらないということだ。これを首相の国民への約束だと理解したい。
防衛庁は政府の基本計画に基づき実施要項をまとめ、小泉首相の承認を得た。実施要項は任務や安全確保の方策などをきめ細かく記しているというが、公表されたのはその概要である。
概要では「活動の一時休止及び避難等に関する事項」を明らかにした。テロ攻撃などで戦闘行為が行われ、自衛隊員の身が危険にさらされる可能性がある場合、業務を一時中断したうえで、「直ちに防衛庁長官まで報告し、指示を待つこと」と規定した。
イラク特措法9条で自衛隊の部隊の安全確保を義務づけている以上、安全に配慮するのは当然だ。安全確保の最終責任を首相と防衛庁長官が持ち、的確な指示を迅速に出さなければならない。
本体派遣の時期は、実施要項には盛り込まず、いつ派遣するかの判断は防衛庁長官が行い、首相が承認するという。
首相の承認は法律上は必要ないが、自衛隊の最高指揮官である首相が承認することは、首相が派遣の全責任を負うことを意味する。文民統制の観点からいえば、当然のことである。首相は陸自の派遣時期を公明党と相談するとの覚書をかわしたというが、派遣の責任はあくまで小泉首相にある。状況をぎりぎりまで見極めたうえで判断しなければならない。
一足早く派遣される先遣隊の役割は重要だ。空自本隊が物資輸送の任務で安全を脅かされないようバグダッド空港の危機情報の収集などに万全を期してほしい。
人道復興支援を目的とした自衛隊のイラク派遣では、犠牲者を出してはならない。小泉首相には重大な責任がある。
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