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2003/08/18 毎日新聞朝刊
[社説]文民統制 軍事コントロールの見識磨け
 
 「民主主義国家において、政治の軍事に対する優位は確保されなければならない」
 政府見解「シビリアンコントロール(文民統制)の原則」(80年10月)の一節である。
 政府見解は戦前の軍部の暴走に対する反省を踏まえ、(1)首相、閣僚は文民でなければならない(2)国防の重要事項は国防会議(現安全保障会議)の議を経る(3)自衛隊の法律、予算などは国会のコントロール下に置かれている――と原則を提示する。文民=政治が自衛隊の活動に枠をはめ、その行動に歯止めをかけたという。だが、これはあくまで仕組みであって、本当の意味で文民統制が機能しているかどうかは別の問題である。
 03年版「防衛白書」は本土への侵攻を想定した冷戦型の安保政策からの転換を明確に打ち出す一方で、国際テロへの対処やミサイル防衛(MD)システム導入の必要性を強調した。
 白書は同時に「文民統制の確保」の項目で、「事務次官が長官を助け、事務を監督する・・・」という部分を削除した。
 削除した部分は、防衛庁内の事務次官をトップとする官僚組織が自衛官を統制していると誤解されかねないというわけだ。制服組の意をくんでの措置と言われるが、防衛庁内の「文民」が官僚ではなく長官と副大臣ら政治家にあることを明確にする点で意味がある。
 問題は、政治が本当に軍事をコントロールできるかどうかである。冷戦時代には、自衛隊違憲論が野党の論議の中心だった。国際情勢の変化で議論も変化している。文民統制のあり方も改めて考える必要がある。
 自衛隊がPKOなどで次々と海外に派遣され、自衛隊の活動も国際化した。ミサイル防衛システムは、IT(情報技術)を駆使した高性能の兵器だ。高度なテクノロジーの知識抜きには語れない。
 先の通常国会で有事法制が9割の賛成で成立したように、政治の側も変化しているが、政治家が軍事技術の変化についていけず議論が空回りする場面が多々ある。イラク特措法の審議では「非戦闘地域」の議論に終始し、復興・支援の議論にまで踏み込めなかった。
 米議会の軍事委員会では、軍人を呼ぶなどして専門的な立場から議論が行われているという。日本の国会に同等のレベルの議論を求めるのは難しいが、軍事のメカニズムを理解し、より客観的に評価したうえで議論しなければ真の文民統制はできない。
 議論の質を高めるには、安全保障の知識を持つ政策担当スタッフを充実させなければならない。政策担当秘書制度はそのために設けたのではなかったのか。
 政府は来年度、ミサイル防衛の整備に着手する。ヘリ空母と呼ばれる新型護衛艦導入の方針も固めた。有事法制の国民保護法制整備も次期通常国会の大きな課題だ。
 時代が大きく変わる中でコントロールすべき軍事の中身も変容している。政治の側は研さんを積まなければ、軍事に対する優位を確保できない。
 
 
 
 
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