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1995/02/08 毎日新聞朝刊
[社説]自衛隊 柔軟に災害対策を考えよ
 
 阪神大震災への自衛隊の初動の遅れが指摘された防衛庁が、大規模災害に対する活動の在り方を研究するプロジェクトチームを庁内に設けて検討を始めることになった。
 現在の自衛隊法第八三条には(1)都道府県知事らから要請があれば、部隊を派遣することができる(2)緊急を要し、要請を待ついとまがない時は、要請を待たないで派遣できる(3)隊舎などの近隣で災害が発生した時も派遣できる――と規定されている。
 今回の震災に対して「自衛隊は超法規的に出動すべきだった」などといった意見が出ている。また新進党は、災害対策基本法に新たな自衛隊の役割を規定し、そのために自衛隊法を改正するとともに、国家の安全が脅かされた時や災害時の「国家の危機管理に対する有事立法の実現」などを提案している。
 シビリアンコントロール(文民統制)の観点からも「超法規的な出動」を求める意見は行き過ぎであり、とても賛成できるものではないし、防衛問題と自然災害対策を即座に結び付けて有事立法を、という主張についても国民の納得は得られないのではないかと考える。
 しかし現実に自衛隊法第八三条には第二項の規定があるのだから、この規定を使っていれば、自衛隊はもっと迅速に出動できたはずだとの不満が政府、与野党内に残っているのも事実である。
 自衛隊側は「第二項で出動したケースは過去、一回もない」と釈明しているが、こうした理由にこだわり過ぎ、対応が後手に回った側面があったことは否定できない。
 このため防衛庁は、現行の法制自体には問題はないとの考えから、法改正や新規立法はせず、自主的に出動する場合の判断基準を政・省令で明文化する方針という。
 自衛隊が実力部隊であることに変わりはない。それだけに「緊急時だった」という一時の興奮から、自衛隊に大規模部隊を無制限に出動させるべきだったと短絡的にいうのは避けるべきだろう。その意味で防衛庁が「現行の法律の枠内で」との姿勢をとっていることは支持できる。
 このほか防衛庁は、情報収集体制の強化、自治体との防災訓練の充実、救難・救援に必要な装備についても研究する。
 当然のことだが、とくに情報収集体制の強化に関連して、今回、初期情報の伝達という面で防衛庁・自衛隊が万全の体制だったかというと首をかしげざるを得ない点があった。
 震災当日の午前七時十四分、陸上自衛隊のヘリコプターが神戸市や淡路島を偵察して八時五十分に帰還、「相当程度の被害が出ている」と中部方面総監部に報告している。ところが、この情報が同総監部段階でストップしてしまい、首相官邸はもちろん防衛庁長官、国土庁防災局にも届かなかった。
 自衛隊側は、災害対策基本法など現行マニュアルに従ったというが、人命の救助、被害の拡大防止のために臨機応変に、こうした情報を東京に伝えるべきだったのではないか。
 隊員確保のため、基地の外に居住する隊員が多かったため非常呼集に時間がかかった点も改善した方がいい。最高指揮官(首相)の判断能力を高めるための情報収集・伝達手段を確立し、危機管理能力を万全なものにするために、防衛庁は現在の体制を根本的に見直すべきだ。
 
 
 
 
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