2002/11/29 読売新聞朝刊
都立高復権へ教育活動予算を校長裁量に 私立高に負けない特色作り狙う(解説)
東京都教育委員会は来年度から、都立高校に配分される「教育活動予算」を、校長の裁量で自由に使えるようにする。(社会部 志賀克也)
文部科学省の調査によると、今春の全国平均の高校進学率は97%。都内では、約十万六千人の中学卒業生のうち、都立高三百二校(定時制を含む)に進学したのは、半数近い約四万九千人だった。難関大への進学を目指す生徒から、中学の学習内容が習熟できていない生徒まで学力差は大きく、都立高を卒業した後、進学も就職もせず、フリーターになる生徒も増えている。
多様化する生徒に対応するため、都教委は今年十月、都立高改革の実施計画を策定した。進学指導重点校や中高一貫校の指定など、有名私立高への対抗策をはじめ、〈1〉働きながら長期の職業訓練を受ければ卒業単位を認定する工業高〈2〉不登校や中途退学者を積極的に受け入れる単位制の定時制校――など、新タイプの学校の設置は十七種類。今後、八年がかりで順次、開校していく予定だ。
これらの整備とともに、大きな柱になったのが、校長の持つ裁量・権限の拡大。教育活動予算の使途を校長の裁量に全面的にゆだねるのは、その拡大路線の一環といえる。
教育活動予算は、一校平均で約二千二百万円。文具や印刷物の購入にあてたり、教育機器類を買い入れたりする経費で、現行制度では、都教委が高校の生徒数などに応じて配分している。使い道も限定しており、「備品購入」で予算が余っても、他の使途に転用できなかった。
校長の裁量になれば、各校が独自で進学指導に力を入れたり、体験学習を充実させたりすることが可能になる。都教委では、改革の実績を上げた高校には予算や人材を重点的に回すことにしている。
反面、校長の責任も明確化し、例えばバランスシート(貸借対照表)や数値目標を盛り込んだ経営計画を作って都民への公開を義務づけた。現場の教職員をまとめ上げる力量も問われることになり、一連の改革は各校長に対し、学校の「運営者」から「経営者」への意識転換を迫るものと評価できるだろう。
都教委は「学校という組織の力を向上させるには、まず校長がリーダーシップを発揮する必要がある」と力説する。
ただ、これまで都立高内では職員会議を意思決定機関とする慣行も広がっていて、急激な改革に戸惑いを覚える高校が出る恐れもある。下村哲夫・早大教授(教育経営学)も「一連の都立高改革は的を射た内容だが、行政主導で進められてきたので、現場の教師との間に認識のズレがある。都教委は改革の必要性について、現場の理解を得る努力が必要だ」と指摘している。
都立高では来年度入試から学区が全廃され、受験生が学校を自由に選べるようになり、改革の成否はまず、生徒の評価にさらされる。都教委は、保護者や教師、生徒らの声に耳を傾けて現場を支援する姿勢も求められる。公立高改革は、私立と競合する大都市圏の府県教委の共通課題。先陣を切る形の都教委の施策が試金石と見られることは間違いなく、失敗すれば都立の復権はいよいよ遠のくだろう。
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