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2001/05/23 産経新聞夕刊
【和田秀樹のべんきょう私論】宿題は必要か 復習で頭に残す勉強の習慣づけ
 
 NHKのニュースを見ていたら、恐るべき内容の報道があった。
 日本の子どもの学校外(塾を含む)の勉強時間が世界で最低レベルなうえ、家に帰って勉強をまったくしない子どもの割合が41%と国際平均より著しく高いというのだ。
 最近の文部科学省の調査では、塾通いをする子どもが減っていることも報告されているが、恐らくは世界最低レベルの宿題の少なさが、この勉強時間の少なさに寄与していると私はみている。
 昨年12月に発表された第3回国際数学・理科教育調査の第2段階となる国際調査結果報告の速報によると、1999年段階で家で数学の勉強や宿題をする子どもの割合は74%で、国際比較参加23カ国中22位となっている。学校外で勉強や宿題を合計3時間以上する子どもの割合も17%で、国際平均を大幅に下回っている。
 しかも、この両者とも1995年と比べて10ポイント以上低下している。
 要するに日本は世界でもっとも宿題を出さない国になっている上に、その傾向がさらに加速しているのだ。
 こんなことで大丈夫かと心配になるが、文部科学省も多くの学校も宿題を軽視しているのが実情のようだ。そうでなければ、子どもの4割もが家に帰ってまったく勉強しないということはあり得ないだろう。
 先週、紹介した兵庫県の山口小学校にしても、計算だけで基礎学力をつけているわけではない。学年かける15分から20分の家庭学習ができるように、それに応じた宿題を出している。6年生なら90分から2時間の計算になる。
 私は宿題には概ね2つの効用があると考えている。復習と勉強の習慣づけである。
 最近の脳科学の研究でも、人間は復習をしないと脳が不必要な情報だと自動的に判断して、それを捨て去ってしまう、つまり記憶に残らないことが明らかになっている。
 また記憶には、丸覚え型の記憶と、経験に結びついた記憶があることもわかっている。後者のほうが忘れにくく、いつでも思い出せるのだが、この記憶は使ってないとすぐに丸暗記型の記憶に置き換わってしまう、つまり使えない記憶になってしまうこともわかってきた。昔は解けた算数の問題も、やっていないうちに、やり方すら覚えていない状態になるのだ。
 復習を少しやるだけで記憶の残り方が違うのだから、宿題は授業で習ったことを頭に残すにはうってつけの課題なのだ。
 勉強の習慣も大切だ。私は受験生に、合格した春休みに受験生時代の半分は勉強するように指導している。毎日3時間以上勉強していた人間が春休みに丸々遊んでしまうと、受験が終わって緊張感がなくなったことも重なって、中学生になってから1日1時間の勉強が苦痛になるのだ。
 しかし、受験が終わったら勉強は半分でいいと言われれば、1時間半の勉強でも、楽に感じるはずだ。それを、中学入学前の英語や数学などにあてられれば、最初から優等生のレールに乗れるのだ。
 そのような点で宿題は勉強を習慣づけるのに大いに役立つ。人間は易きに流れるもので、勉強の習慣などは簡単に弱まっていく。だからこそ学校側が毎日宿題を用意すべきなのだ。
 アメリカやイギリスも教育の建て直しのために、宿題をどんどん増やしている。日本も、このまま宿題が減りつづけるようなら、教育レベルで確実に取り残されることになるだろう。(精神科医)
◇和田 秀樹(わだ ひでき)
1960年生まれ。
東京大学医学部卒業。
東京大学医学部付属病院精神神経科助手を経て現在、一橋大学経済学部非常勤講師、東北大学医学部非常勤講師、川崎幸病院精神科顧問などを務めるかたわらマスコミにて積極的な言論活動を展開している。精神科医。


 
 
 
 
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