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2000年2月号 正論
揺らぎ始めた“日教組王国” 「勤評オールB」「不正出張」発覚でその後の三重県事情
皇學館大学助教授●新田 均(にった・ひとし)
 
 『正論』十二月号掲載の皇學館大學助教授・松浦光修氏の論文がついに三重県議会で取り上げられた。浜田耕司県議らが、「オールB・開示」「勤務時間内の組合活動」について、中林正彦県教育長を質したのである。松浦氏が指摘した三重県教育の問題点が、県政の課題として取り上げられることになった。大変動の予兆がここかしこで見えてきたのである。その渦中にある者として、現在、三重県の教育正常化運動に取り組んでいる人々が、何を考え、どう行動しているのかをレポートしてみたい。
 十一月十九日付産経新聞(三重版)によれば、「浜田耕司委員(自民)が『勤務評定で無差別にオールBにしているというが、本当か』とただしたのに対し、中林(正彦)教育長が『すべての学校ではないが、(指摘の事実はあるので)早急に是正措置を取りたい』とした。また芝博一委員(県政会)も『県教委改革を叫ぶなら、実態が分からないと議論できない。何割がオールBで、何割がそうでないのか、具体的な数字を示せ』とし、県教委も提出を約束した」という。
 また翌二十日付の同紙によれば、北川正恭・三重県知事は「県教委の県教育行政システム改革で、一律の勤務評定問題などが議論されていることに関して、一義的には教育長の問題としながらも、『今は生活者起点の時代で、(改革は)一気には変わらないだろうが、三教組さんなどが自ら積極的に変革し、エクセレント(ほまれ高いもの)に成長してほしい』と述べた」と述べている。
 さらに、同二十三日付の同紙は、「三重県の公立学校の教職員が、勤務時間内に県教職員組合(三教組)の活動をしていることが二十二日、県議会予算特別委員会で指摘され、中林正彦県教育長は、事実を認めたうえで、『組合活動は勤務時間外にすべきとする通達を今週中にも出す』と改善を表明した。委員会では、萩原量吉委員(共産)が『県教委が電話連絡で、組合活動を勤務時間外にするようにという通達を出すと各現場に連絡しているが、教職員の組合活動には教育研修も含まれており、強圧的な通達は現場を混乱させるだけ』とただした。中林教育長は、『長年の労使の慣行として、(勤務時間内活動が)あったようだが、ただすべきはただすとして通達する』と述べた。萩原委員は『なぜ、堂々と委員会に発表せずに、こそっとやろうとしているのか』などと訴えたが、中林教育長は、委員会後に、『通達は今週中にも正式に出す』とした。さらに、中林教育長は産経新聞の取材に対し、『方法論として、不正な年休を廃止し、正当な組合活動をしてもらうため、組合専従者を増やすなどの改善策を三教組に提案していきたい』と述べた」と報じている。
 
教育委員会はどこまで本気で取り組むのか
 
 不正出張を正すのは当然すぎるほど当然である。これは労働慣行だ、などという言い訳は通用しない。「一回の詐欺は犯罪だが、常習なら犯罪ではない。一人の万引きは犯罪だが、集団万引きは犯罪ではない」と言っているのと同じで、不正はいくら積み上げても不正なのだ。
 中林教育長の行動は素早かった。早くも十一月二十四日に県立学校長・各教育事務所長・市町村等教育委員会教育長に対して、次のような文書を出した。
 
〈勤務評定の適正化と教職員の服務規律の確保について(通知)〉
 このことについては、かねてから注意を喚起しているところですが、学校職員の勤務成績の評定及び勤務時間における職務専念義務について不適切な実態があるとの指摘があります。学校に対する県民の関心がますます高まるなか、かかる実態が過去からの慣行により行われている場合には、早急に是正を図り、県民の期待に応える必要があります。貴職におかれては、下記事項により、勤務評定の適正化と教職員の服務規律の確保を図られるよう通知します。なお、市町村等教育委員会にあっては、このことについて貴管内各学校長にその趣旨の徹底を図られるよう願います。
 1、勤務評定の実施にあたっては「三重県市町村立学校職員の勤務成績の評定に関する規則」「三重県立学校職員の評定に関する規則」に則り、適正に行うこと。
 2、職員は、勤務時間中は職務に専念しなければならないものであること。なお、勤務につかない場合には、事前に適切な手続きをとること。
 
 確かに、教育長の対応の早さは評価できる。しかし、内容は至極平凡、しかも、新聞では「通達」とあったものが、実際には「通知」(罰則がない)に格下げされている。ただ、そうはいっても、三教組にとって、この通知はやはり「寝耳に水」だったのでないか。なにしろ、彼らは今年の六月にこんな文書を出していたのである(「津市情報公開条例」に基づいて入手)。
一九九九年六月二九日
 津市教育委員会教育長 田中 彌様
 三重県教職員組合津支部 執行委員長 池田淳二
〈一九九九年度「勤務評定」に関する要望〉
表題の件につき、下記のように要望します。
1、勤務評定を廃止すること
2、勤務評定を廃止できない場合、次の点につき、周知徹底をはかること
(1)評定は、オールBとすること
(2)記述事項(特記事項、性格、所見等)は、斜線引きとすること
(3)指導を受ける方法(形態)に際して
○本人を含む複数指導(公開)とすること
○分会長を中心とした複数の組合員に一覧表を公開すること
(4)勤務評定の提出にあたって、各市町村教委からの提出は最終日とすること
(5)一二月一日、二月一日実施の勤務評定についても同様とすること
 
 これまで、組合によっていかに勤務評定が骨抜きにされてきたのかを、この文書は如実に物語っている。それにしても、(1)が全県的に行われていることはすでに周知の事実である。それでは、(2)(3)(4)(5)はどうなのか。「分会長を中心とした複数の組合員に一覧表を公開すること」との要求までのんでいたとすれば、「勤務評定の実質的作成者は組合員」ということになる。
 
不正出張は不正な公金支出ではないのか
 
 さて、教育長の対応の早さは、三教組ばかりでなく、私たちをも驚かせた。そして、かえって、「教育長はこの問題をさらに追及する覚悟があるのか、それとも、これで一件落着にするつもりなのか」との疑念が生じた。こんな大問題を一片の通知だけで、過去に対する何の処分もなしに片づけられ、「喉元すぎれば」で復活されてはたまらない。
 とりあえず、不正出張の確実な証拠集めが必要だと考え始めた頃、各地の市民から、情報公開条例に基づいて開示された、執行委員のいる公立学校の時間割が松浦氏のもとに届き始めた。現在、三教組の中勢高支部に属する高校、津支部に属する小中学校、伊勢支部に属する小中学校の時間割が手に入り、いずれにおいても、執行部・執行委員には、午前中しか授業が組まれていないことが判明している。これらの資料を証拠として、さらに住民監査請求や議会請願を行うという広島の運動を手本とした活動を展開して行こうということで、みんなの話がまとまった。
 だが、それにしても時間がかかる。何かよい手はないか。
 みんなで智恵を絞っていた矢先、天佑神助とでも言うべき、ある男性からの投書が舞い込んできた。その投書には、十一月三十日付産経新聞主張欄「税金ムダ遣い・悪質なケースは刑事告発を」が同封されていた。
 この論説は、会計検査院が公表した「平成十年度決算に関する検査報告書」(ムダ遣い白書)を取り上げて、「教育の問題についても、児童・生徒数の減少にもかかわらず、義務教育国庫負担金の総額が二兆八千億円前後で高止まりしている現状を示し、高齢化の目立つ教育職員構成の改善や小規模校の適正配置などを提起した。“聖域化”している教育分野に財政負担の面から切り込んだ点は評価できる」と論評していた。
 この論説のコピーに添えられた短い手紙には、「松浦先生の論文にある不正出張は、税金の不正支出に当たるのではありませんか。あらゆる法の網の目をくぐり抜けたアル・カポネを捕まえたのは『脱税』です」と書かれていた。この投書を見た瞬間、私たちの目からウロコが落ちた。これまで、私たちは、勤務時間中の組合活動を「不正出張」と呼んできた。
 しかし、それは膨大な額の「税金の不正支出」だったのだ。
 この観点から、試算してみるとこうなる。三重県において、組合の執行部・執行委員は、ほぼ「毎日、午後」不正な組合活動を繰り返している。つまり、彼らが職務に専念しているのは勤務時間の半分だけということになる。したがって、年俸の半分は不正に取得していることになる。年俸の平均を仮に六百万円とすれば、一人当たり、毎年三百万円の不正給与を受け取っているというわけだ。
 ところで、三重県には、二十六の組合支部があり、一支部あたり、約十名、つまり二百六十名ほどの教員が、組合執行部・執行委員となっている。
 したがって、不正支出の総額は、三〇〇×二六〇で約八億円にものぼることになる。義務教育課程の公立学校の教職員の給与は、国と自治体が半分ずつ負担しているから、大ざっぱに言って半額の四億円は会計検査院の検査対象に属するはずである。
 しかも、勤務時間中の組合活動は、執行部・執行委員の活動に限らない。一般の教員も「青年部」「婦人部」等々の活動を勤務時間中に行い、これを各学校長は校長権限で許可している(その証拠を示す組合からの校長宛の文書は校長室や職員室に無造作に置かれているという)。
 さらに、組合と友好的な団体の行事への旅費が公費から支出されている例もあるようだ。その行事への動員を要請する、ある執行委員長から各職場委員に宛てた文書には「参加者から校長に申し出て、校長の判断で『出張』または『研修』の扱いを受ける事ができますので、旅費は学校請求になります!(県教委と三教組とで確認済み)」と書かれている。このような事例を合算していくと、軽く十億円を超えてしまうかもしれない。
 しかも、これはわずか一年間の額である。この不正が操り返されてきた歳月を思うとき、愕然とするのは私たちだけではあるまい。
 このような試算に基づいて、私たちは、この事実を会計検査院渉外広報室に文書で知らせ、調査を依頼した。ある地方公務員にこの話をしてみたところ、「あそこ(会計検査院)は公務員にとって涙がちょちょぎ出るほど恐ろしいところです。民間人にとってのマルサと同じ。ここが動いたら、もうお仕舞いですわ」とさも恐ろしげな表情をしてみせたのだが、本当だろうか。
 それはともかく、果たして市民の問いかけに応えて会計検査院は動いてくれるのか。それとも、金額・違反者の多さを前にしてたじろぐのか。われわれは今後の展開を大いに注目しているのだが・・・。
 
公務員としての自覚養う方策を
 
 ところで、「時は金なり」という。この格言をひっくり返せば「金は時なり」で、金の不正は時間の不正ということになりはしないか。すなわち、本来教育に充てられるべき膨大な時間が失われ、生徒の「教育を受ける権利」が重大な侵害を受けている可能性があるのだ。教師が組合大会、青年部、婦人部、友好団体の活動に動員されている間、生徒たちはどうしているのだろうか。
 三重県では、学校をサボっているようには見えない生徒たちが、昼間、町をぶらついているのが目につく。彼らはどうして学校にいないのか。彼らを監督すべき教師たちはいったい何をしているのだろうか(上野市、鈴鹿市、四日市市の小中学校では、教職員の研修というような名目で、毎週水曜日が半日授業となっている)。研修を教育活動の内などという者もいようが、「練習があるので試合を休みます」と言っているのと同じで、本末転倒もはなはだしい。
 こうして、調査、研究をつづけているとき、「日本会議三重」が私たちの“成果”を取り込んだ「要望書」を、中林教育長に提出することになった。この要望書の提出は、「日本会議三重」の運営委員会にかけられ、了承された。十二月二日のことである。その全文は左記の通りである。
 
《要望書》
 私どもは、誇りある豊かな国づくりをめざす「日本会議」の綱領および運動方針に則って、三重県において、本年八月四日に設立された団体であります。日本会議の綱領とは、
 一、我々は、悠久なる日本の歴史に育まれた伝統と文化を継承し、健全なる国民精神の興隆を期す。
 二、我々は、国の栄光と自主独立を保持し、国民各自がその所を得る豊かで秩序ある社会の建設をめざす。
 三、我々は、人と自然の調和をはかり、相互の文化を尊重する共生共栄の世界の実現に寄与する。この三点であります。
 この綱領の趣旨に則って、日本会議三重の活動基本方針には「教育問題に関する国民運動」が掲げられております。この方針に沿って、左の四項目を要望いたします。
 一、三重県下の公立学校の教職員が不正な組合活動を行っていることは、すでにマスコミなどで報じられ、県議会でも取り上げられ、教育長御自身がその事実を認められたところであります。そして、その是正のための通知を出されました。しかしながら、不正な組合活動を行っていた教職員に対する通常の給与の支出は、公金の不正支出にあたると考えられます。そこで、行政の統一性という観点からしても、広島県におけると同様に、勤務時間中の不正な組合活動を自己申告させて、その実態を明らかにし、不正行為を行った教職員を法規に照らして厳正に処分し、不当に得ていた給与については全額返還させること。これ以外にも不正な公金の支出が行われていないかを調査し、厳正に対処することを要望いたします。
 二、公務時間中における不正な組合活動は、各公立学校の授業時間数を大幅に減少させているのではないかと思われます。そこで、各公立学校の実際の年間授業時間数を調査し、著しく不足している学校については指導を行うことを要望いたします。
 三、国旗・国歌が法制化された以上、国民の遵法精神を養うべき公立学校は、この法規を遵守し、入学式・卒業式などにおいて、国旗の掲揚、国歌の斉唱を誠実に実行する義務があるものと考えます。そこで、各学校における国旗の掲揚、国歌の斉唱の実態を県民に公表すること。また、『学習指導要領』に基づいて、国旗・国歌に関する教育の具体的内容を明確にし、各公立学校に徹底させ、これに従わない場合には厳正に対処することを要望いたします。
 四、国民としての自覚と誇りを養うことは、義務教育ならびに公立学校の重要な任務であります。この点から見て、人権教育に名を借りた反日自虐教育が行われないようにしっかり各学校を監督すること。また、総合学習の時間が特定の思想に偏らないように、しっかりと監督することを要望いたします。
 公立学校の教職員は「公務員」であります。しかも、次代を担う子どもたちの遵法精神を養い、公共の秩序を維持するという重大な使命を有する人々であります。このような人々が不正な公金の支出を当然のこととし、法的拘束力を有する『学習指導要領』を踏みにじるようでは、社会秩序は崩壊してしまいます。この点を厳粛に受けとめられ、右に掲げた私どもの要望を実現していただきたいと存じます。
 日本会議三重
 平成十一年十二月六日
 三重県教育長 中林正彦殿
 
 この要望書は十二月六日に、佐野方比古・日本会議三重運営委員長らによって中林教育長に手渡された。中林教育長は、佐野氏らに対して、県教委として誠実に対応していくと述べた。しかし、三教組の圧力も予想される中、県教育長はどの程度市民の要望に応えてくれるのだろうか。
 さらに、日本会議三重は、十二月九日に三重県選出の国会議員に対して陳情を行うことを予定しているという。陳情の内容は、県教育長宛ての要望書とほとんど同じだが、やはり国会議員ということで、もう一つ付け加えるそうである。それは、公立学校の教師に「公務員としての自覚」を持たせる教育を行うように、文部省に働きかけてもらいたいということである。まだ原案の段階だが「要望書」には次のような内容が盛られる予定だという。
 
 前述のような問題が発生する根本原因は、公立学校の教員に「自分は公務員である」との自覚、「公務員とはいかにあるべきか」という認識が欠如していることにあります。したがって、教員養成課程において、教育内容や教育方法のみが教えられて、肝心の公務員としての自覚を養う教育がおろそかにされている現状に鑑み、教員養成課程に公務員としての自覚を与える教科を組み込み、既に教員になっている者に対しては、再教育を施すように、文部省に働きかけていただきたいと存じます。
 「要望書」に「公務員としての自覚を養う教育」を盛り込んだのは、三重県の新採用の教員の中には、「日教組を公共団体だと思っている者がいる」という笑えぬ現実があるからだ。果たして、国会議員は、動いてくれるだろうか。文部省はどう対応してくれるのだろうか。
 日本会議三重が陳情書の提出を決めた翌日、「三重タイムズ」という地方紙(県庁所在地の津を中心に約七万部を発行。「中日新聞」の折り込み新聞)が、独自の取材により、勤務時間中の組合活動の実態を明らかにした画期的な記事を一面トップで掲載した。
 まず、三教組津支部の中村正彦書記長が「学校現場の理解を得て活動しているが、申し訳ないと思っている。法的には公務中であり違法行為と指摘されてもやむを得ないと思う。その点の批判は受けたいとおもう」と「不正」であることを組合幹部自身が認めているのは画期的である。
 次に、ある学校長は、勤務時間中は学校にいて、職務に専念するのが普通ではないのか、学校にいるように指示、命令できないのかとの記者の質問に対して、「理屈の上ではできる。しかしこれまでの流れがある」と泣き言を述べて、学校が無法地帯と化していることを告白している。
 さらに、津市の田中彌教育長は「なぜこうなったのかについては、三教組と県教育委員会との暗黙の了解があったのではないかと思う」と、密約の存在を暗示するような発言まで行っている。この記事の最も面白いところは、同じ公務員である津市役所職員組合の役員・執行委員らの勤務中の組合活動が「地方公務員法に定められた事項(勤務条件事案)での当局側との交渉に限られている」ことを指摘して、三教組の組合活動がいかに突出したものであるかを浮かび上がらせている点だ。この記事に対しては、多数の市民から支持の声が新聞社に寄せられ、新聞自体もあっと言う間に売り切れたという。
 
県教委と三教組の癒着構造こそ問題
 
 最近、ようやく、教育改革に熱心な県議や市議と出会うことができた。冒頭に登場した浜田耕司県議や、津市議会の田矢修介市議といった方々である。ちなみに田矢市議は二十七歳、日本最年少の市会議員である。
 十二月十日に、私と松浦氏は三重県の若手県議会議員でつくる超党派の研究会「波動21」の会合に招かれ、教育改革について話をすることになった。浜田県議はその下調べのために、わざわざ私と松浦氏とを訪ねてくださり、三時間ほど三重県の現状を話してくださった。田矢市議は、十二月十三日の津市議会一般質問において、国旗の掲揚・国歌の斉唱が厳粛かつ誠実に実行されるように、教育委員会に要望する予定であるという。今後の三重県議会や津市議会の動きから目が離せなくなってきた。
 以上が、十二月六日現在の三重県の状況である。私たちの仲間には、老若男女さまざまな人々がいるが、いずれも献身的で勇敢な人たちばかりである。そして、名も無き民として縁の下の力持ちに徹することができる克己心の持ち主である。背後にこのような素晴らしき仲間の存在があってはじめて、私や松浦氏の言論活動が可能になっていることを申し上げておきたい。
 最後に、私と松浦氏周辺に関することを少々付け加えておきたい。私たちが所属する皇學館大學(新田は文学部神道学科、松浦は同国史学科)に対して、新田・松浦の活動をそのままにしておくと学生募集・教育実習・教員採用その他の就職に影響するぞ、といった圧力めいた投書が寄せられているという。驚くべきことである。
 確かに、我が皇學館大學は「道義の確立」を学則に掲げる大学であり、私たちは、自分たちの活動は、それに則ったものだと信じている。私たちの活動を支援してくださっている教職員・OBも少なくない。しかし、だからといって、私たちと大学全体の意思が完全に一致しているわけではなく、まして、大学当局に命ぜられて教育正常化運動を行っているわけではない。そもそも、たかが助教授二人、それが全大学を代表しているなどと考えるのは誇大妄想である。そんな区別もできずに大学を敵視する輩がいるとは情けない。
 それにしても、公務員であり、日頃、人権教育に熱心な公立学校の教師の中に、個人的な好悪によって生徒の進路を意図的にねじ曲げ、出身大学によって学生を差別する者がいるとは信じがたい。まさか、いくらなんでも、そこまで教師は腐っていないだろう、と思いたい。もし実際にそのようなことが行われるとすれば、それは重大かつ悪質な人権侵害である。公務員としては重大な違法行為である。そうなったら、思想の一致云々とは無関係に、我が大学当局は、大学における思想・表現の自由と学生たちの人権を守るために毅然たる対応をとってくれるものと信じている。
 もう一つ付け加えれば、私たちが三教組の不正を追及しているのは、憎いからでも、潰そうと思っているからでもない。三重県においては、本来まったく機能を異にする教育委員会と三教組とがベッタリと癒着してしまっている。この癒着構造が温存される限り、いくらまっとうな言論を展開しても、教育現場には決して反映されない。癒着構造こそ三重県の教育を歪めている根本原因なのであり、その癒着を断ち切ろうと努めているにすぎない(三教組の拠点施設である三重県教育文化会館――全国でも自前のビルを所有しているのは三教組だけらしいのだが――、そこには校長会が入居している)。私たちの願いは、学校と教員をしっかり監督することができる教育委員会、組合員の福利厚生に専念する普通の公務員組合、このような正常な状態に戻すことなのである。そういう意味では、私たちの取り組みは三教組正常化運動でもあるのだ。
◇新田 均(にった ひとし)
1958年生まれ。
早稲田大学大学院政治学研究科博士後期過程に学ぶ。
現在、皇学館大学助教授。


 
 
 
 
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