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2003/07/08 産経新聞朝刊
【主張】教育次長自殺 改革を阻む土壌にメスを
 
 広島県尾道市教委の教育次長が自殺した。三月に民間出身の小学校長が自殺してから二人目の悲劇である。尾道市の教育界は、立て続けに改革の担い手を失った。
 自殺した山岡將吉次長は市教委のナンバー2として、民間出身校長の登用や学校に独自の研究主題を設定させる「一校一研究」など、同市の教育改革を実務面で支えてきた。三月に自殺した民間出身の慶徳和宏・市立高須小校長とも生前、相談相手になり、校長自殺後は、教育長が入院したこともあり激務に追われていた。
 しかし、過労だけが原因とは思われない。山岡次長らは五月、慶徳校長の自殺について「教員の非協力的な態度に悩んでいた」とする調査報告をまとめた。報告はその具体例として、運動会で国旗・国歌の実施に反対したり、卒業式での元号表記を拒否したりしたことなどを挙げている。尾道市は教職員組合の勢力が強く、山岡次長もこの報告書の内容をめぐり、組合から反発を受けていた。これらの動きがどの程度、山岡次長の業務に影響を与えたのかも解明されねばならない。
 亀田良一市長は「マスコミも、公正・公平な立場であるべきなのに、取材なのか組合の運動の手助けなのか分からないような取材を(山岡次長は)受けていた」と話している。報道機関には言論の自由が認められており、軽々には論じられないが、逸脱行為があったとすれば、反省すべきだろう。
 それにしても、広島県でなぜ、こうも教育関係者の自殺が続くのか。平成十一年二月、県立世羅高校の校長が卒業式での国旗・国歌実施に反対する組合の執拗(しつよう)な抵抗に悩み、自殺した事件は記憶に新しい。当時の国会で、それ以前にも五人の校長が自殺していたことが報告された。同県選出の宮沢喜一蔵相(当時)は「この問題は四十年ほどの歴史がある。私自身も事態の解決に十分寄与できなかったことを恥ずかしく思う」と語った。
 旧文部省や県教委による是正指導が行われているが、今回の尾道市の相次ぐ自殺は、広島の教育界が四年前に宮沢氏が述べた状況と本質的にはほとんど変わっていないことをうかがわせる。「悲劇の連鎖」を断つためには、教育改革を阻む土壌にメスを入れなければならない。


 
 
 
 
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