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2001/10/24 産経新聞朝刊
【主張】テロと教育 現実的平和論を教えよう
 
 米国で起きた中枢同時テロ事件は、日本の子供たちにも衝撃を与えた。だが、これを機に、冷戦後の平和や国際貢献のあり方について、子供たちに考えさせる教育も大切である。
 今回の同時テロは特定の要人を狙ったテロと違い、一般市民も標的にした「新しい形の戦争」だ。日本人も二十四人が犠牲になった。日本にとって対岸の火事ではなく、テロ被害の「直接当事国」である。まず、教師自身がこうしたテロの実態を正しく把握し、それを児童生徒に伝える必要がある。
 その上で、自衛隊派遣やそれ以外の国際貢献のあり方について、発表させたり、作文を書かせたりすればよい。その際、教師は特定のイデオロギーを押しつけないことだ。
 十年前の湾岸戦争では「自衛隊派遣は憲法に違反する」「日本が戦争に巻き込まれる」といった考え方に子供たちを誘導し、反戦ポスターなどを作らせたりする実践例が日教組の集会で報告された。このような一国平和主義に基づく“反戦平和”は戦後日本が生んだ身勝手な論理であり、世界に通用するものではない。
 ニューヨークで家族がテロの犠牲になった日本人子女の心のケアのため、文部科学省から派遣された臨床心理士は帰国後、こう指摘した。「平和教育に慣れてしまい、米国人のように一枚岩でテロに対応できない日本の大人社会の混迷が、在米日本人の子供たちのストレスを一層高めている」。この場合の平和教育も、従来の「日本だけ平和であればよい」という“反戦平和”教育を指している。今回のテロは、こうした平和教育のパラダイム(枠組み)転換を図るべき機会でもある。
 日本の教育現場では、テロのような凶悪事件が起きるたびに、「命の大切さ」という常とう句が繰り返されてきた。木村治美・共立女子大教授は大阪の小学校で八人の児童が犠牲になった事件を例にとり、学校側は「命の大切さ」よりも、「大切な命を奪った犯人への怒り」「子供を守ることができなかった学校の責任」を子供たちに強調すべきだった−と指摘している。
 「人の命」も「平和」も、ただ願っているだけでは守れない。時には、卑劣なテロに対し、結束して闘う勇気の大切さも、子供たちに伝えたい。


 
 
 
 
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