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2001/04/03 産経新聞朝刊
【潮流】国旗・国歌実施率100%を読み解く 数字の裏に「君が代いじめ」
 
◆教育正常化とは一致せず
 九〇%を下回る数字が続いていればまちがいなく問題があるが、一〇〇%だったからといって、問題がないというわけではない・・・。無味乾燥な国旗・国歌実施率の数字を読み解く際には、こんな「法則」を頭においておく必要がある。
 卒業式シーズンが終わり、国旗・国歌の実施率が話題となる季節。ざっと全国各地の数字を眺めてみると、関西のいくつかの地域で九〇%以下の数字が目につくが、ほかはおおむね改善の傾向だ。
 昨年、屋上の国旗掲揚をめぐり、児童が校長に土下座謝罪を求め社会問題化した東京都国立市では国旗・国歌とも一〇〇%実施された。戦後、一度も国旗・国歌が実施されなかったとまでいわれた国立市だったが、国旗は正面あるいは壁面に掲げられ、関係者は「市民のバックアップが大きかった」と感慨深げに語った。
 前回の卒業式で中学校の国歌斉唱率が一二・四%にとどまった札幌市でもほぼ一〇〇%が達成された。しかし、札幌ではこんな実態もあった。
 卒業生が入場し着席した後、突然司会者が「国歌を歌います」とアナウンス。間髪をいれず、テープで君が代が流れ始めた。もともと起立を求められていない保護者は、けげんな顔で座ったまま。続いての校歌斉唱では、急に生徒全員が勢いよく起立し、指揮者役の生徒がタクトを振って斉唱を始めた。
 ここまでくると「君が代いじめ」としか思えない。なんともしまらない「国歌斉唱実施」となった。
 国旗・国歌の実施率が上がったことは改善に違いない。しかし、ある文部科学省幹部は「国旗・国歌問題と教育の正常化は、区別する必要がある」という。
 国旗・国歌は、正常化のひとつの目安としても、イコールではない。北海道の教育でいえば、正常化されるべきは46協定に代表される違法な枠組みにあぐらをかき、安楽をむさぼっている教員であり、国立の教育でいえば、日教組の教研集会で来賓の都教育長に「ヒトラー」と罵声(ばせい)を浴びせて恥じない非常識さである。
 その実態が変わらないなら、たとえ国旗・国歌の実施率がどうであろうと、正常化されたとはいえない。
 今年、小中高全校で一〇〇%の実施率を達成した広島県では、すでに平成十一年三月の卒業式の時点で急激に実施率が上昇していた。しかし、広島ではその後も並行して、「学校へ行こう週間」と銘打って学校開放を進めるなど、改革が続けられてきた。補習授業も盛んに行われはじめ、「少し前までは学力向上という言葉さえ禁句だった」(県教委幹部)状況が一変している。
 国旗・国歌の数字の裏側に、さまざまな改革の努力があって、初めて教育正常化は実を結ぶ。
 「私は前を向いて歌うから、だれが立ったか立たないかチェックしようがない」。今年の札幌市の卒業式で、四面楚歌の中で国歌斉唱を行ったある校長は、こう漏らした。起立しない教員がいても黙認するという言外のメッセージだが、「第一歩」の重みを考えれば、一概に責めることはできない。
 ただし、ぎりぎりの攻防の末に行った今年の妥協は、来年には容易になれ合いに変化してしまう。現場には、とりあえずの数字を残せた安ど感とともに、早くも次に向けての緊張感が漂っている。(松尾理也)


 
 
 
 
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