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2000/07/28 産経新聞朝刊
【主張】「日本人へ」 心で熟読したい呼びかけ
 
 森喜朗首相の諮問機関「教育改革国民会議」は、これまでの審議で大筋合意に達した教育基本法改正や青少年の奉仕活動などを盛り込んだ報告書を森首相に提出するとともに、「日本人へ」と題するメッセージを発表した。戦後教育が避けてきた問題があますところなく提起されている。
 このメッセージは、主として教育基本法改正問題を検討してきた第一分科会で出されたさまざまな意見を、委員の一人である作家の曽野綾子さんがまとめた報告書の一部だ。未来の日本を担う子供たちが厳しい試練を乗り越え、強く正しく生き抜いてほしいという願いがこめられている。
 いろいろな読み方があろうが、特に若い親たちに読んでほしいのは、「人生の最初の教師は父母」というくだりだ。「学齢期までの子供のしつけは父母の責任と楽しみである」としたうえで、(1)団体行動に従う(2)あいさつができる(3)単純な善悪をわきまえる(4)我慢する−などの基礎訓練を求めている。これだけでもしつけておいてから、子供を小学校に送り出せば、学級崩壊などは起きないはずだ。
 「三つ子の魂百まで」といわれるように、家庭教育は最初が肝心である。幼いころから、しつけをきちんとやっておけば、成長してからも、道を大きく踏みはずすことは少ないだろう。反抗期などに多少は親をてこずらせるようなことがあっても、比較的早くもとの素直な子に戻るのではないか。
 メッセージの中で「最後は自己責任」というくだりは、子供にも読んでほしい。「教育は本来、父母、当人(子供)、社会が共同して行うものである」「親だけが悪いとか、社会が自分を裏切ったから自分はだめになった、などと言うのは口実に過ぎない」。分科会のだれの意見かは分からないが、実に含蓄のある言葉だ。
 教育というものは、教える側(大人)と教えられる側(子供)がともに努力しないと、成果があがらないことを伝えようとしている。学校でいじめ、校内暴力が起きても、ストレスや競争社会のひずみなどのせいにしてはいけない。悪いのは、いじめた子や暴力をふるった子自身であり、まず本人が責任を感じ、過ちを悔い改めなければならないのである。
 「日本人へ」はこのほか、日本を祖国として生を受けたことの自覚や伝統的な芸術・文化の尊重、道徳教育への社会人参加、死生観の教育の重要性など、さまざまなメッセージを送っている。本紙は二十七日付朝刊にほぼ全文を掲載した。これだけ豊かな文章に出合えば、われわれも希望がわいてくる。


 
 
 
 
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