森喜朗首相の私的諮問機関「教育改革国民会議」での議論が煮つまり、教育基本法の改正と青少年の奉仕活動を中間報告に盛り込むことで、意見が一致しつつある。いずれも戦後教育を立て直すための有意義な提案である。
占領下の昭和二十二年に施行された教育基本法は「人格の完成」「機会均等」「男女共学」など世界共通の普遍的な教育理念をうたっているが、日本人としてのありようには触れられていない。これでは、日本の子供たちが“地球市民”にはなり得ても、自国の歴史と文化に誇りのもてる日本人には育ちにくい。前文を含めた抜本的な改正が必要である。
昭和二十六年、カント(ドイツの哲学者)の研究家でもあった当時の天野貞祐文相は、教育勅語廃止に伴う道徳教育の空白を埋めるため、「国民実践要領」をつくった。戦前の反省も踏まえ、国益と国際協調のバランスをとりながら、日本国民としての規範を示したものだったが、言論界や教育界の猛反発にあい、日の目を見なかった。
明治時代、井上毅らが起草した教育勅語には、超国家主義的な文言もあったが、親孝行や友情、夫婦愛など時代を超えた道徳の基準も示されていた。マスコミや教育関係者の中には、「教育勅語」と聞いただけで拒否反応を示し、思考停止してしまう傾向がある。だが、「温故知新」ということわざが示すように、古いものを全否定するのではなく、古いものの中にも、現在や未来に通用するものを見いだそうとする謙虚さが必要ではないか。
奉仕活動については、(1)小中学生は一年間のうちの一週間、高校生は一カ月間の共同生活を通じて体験させる(2)将来は、満十八歳を迎えた全国民に一年間の体験を義務づける−という方向が固まりつつあるという。
今の日本の子供たちは、ほしいものは何でも手にはいると思い込み、かなえられないと突然「キレる」傾向がある。我慢の大切さや無償の行為の喜びを感じなくなっている。「公共の福祉」より「個人の権利」を強調しすぎた戦後教育の欠陥の一つであろう。「公と個」のバランスを取り戻し、集団生活のルールを教えるためにも、一定期間の奉仕活動は検討に値する。
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