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1999/11/21 産経新聞朝刊
【主張】学級編成 教員増では正常化しない
 
 学級崩壊などに対応するため、文部省は現行の「四十人学級」を見直し、学級の枠組みを超えて小人数指導が可能になる弾力的な運用について検討を始めた。だが、単に学級定員を減らして教員数を増やすだけでは、問題は解決しない。
 「四十人学級」の見直しは、昨年九月の中教審答申に基づくものだ。いじめや校内暴力などの問題行動に加え、学級崩壊が深刻化し、学級運営が担任一人では手に負えなくなってきたという背景がある。一方、日教組や全教などの教職員組合からは「三十人学級」の実現を求める声が高まっている。これには、少子化に伴う教員削減を食い止めたいという狙いもある。
 この九月、国立教育研究所が発表した学級崩壊の実態調査では、原因の七割が教師の指導力不足にあり、五人の小人数クラスでも学級崩壊が起きていることが明らかになった。教師の数を増やすより、質を充実させることが先決だ。そのためには、指導力不足の教師を再教育するシステムの確立と、勤務評定を実効あるものにすることが急務である。
 一クラスの児童生徒数の上限を定めた学級編成基準を欧米と単純比較すれば、米国は州によって二十−三十人台、英国は三十人で、日本の四十人より少ない。しかし、教員一人当たりの児童生徒数は、小学校で日本十七人、米国十九人、英国二十三人、中学校は日本十七人、米国十五人、英国十六人と、日本の教員数が特に少ないわけではない。
 複数の教員がクラスを指導するチーム・ティーチングや非常勤講師の活用、過疎地域における小中学校の授業の兼務など、現在の教員数でも、弾力的な運用はかなり可能なはずだ。
 終戦後の昭和二十二年、学級編成は「五十人学級」とされた。ベビーブーム世代が就学年齢に達すると、一クラス平均六十人にふくれあがり、“すし詰め学級”が問題となった。その後、「四十五人学級」(三十三年)、「四十人学級」(五十五年)へと学級定員が削減された。今日の問題行動が深刻化したのは、むしろ「四十人学級」以降である。
 東京には、教師が午後四時に帰宅できる労使の了解事項がある。広島では、組合員教師が勤務時間内に学校を離れるさい、いったん年休届を出し、後で破棄する“破り年休”や、授業の受け持ち時間を県教委に水増しして報告する“時間割の二重帳簿”など、異常な勤務実態が明るみに出た。正常な授業や学級運営を取り戻すには、こうした悪弊も改める必要がある。


 
 
 
 
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