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1999/03/07 産経新聞朝刊
【主張】日の丸・君が代(上)必要なのは理解と敬愛だ 法制化論議の前提を考える
 
 日の丸と君が代を法律によって国旗、国歌として定めるという方針を政府が打ち出した。これまで一種の慣習法として国旗・国歌とされてきたものを法制化しようというものだ。
 政府としては、広島で県立高校校長を自殺にまで追い込んだ教育現場での日の丸掲揚、国歌斉唱の指導をあと押しする狙いが第一にあるものとみられる。すでに各政党ともこれに対する賛否を明らかにしつつある。
 しかし、そうした法制化論議の前に忘れてはならないことがある。それは国民が国旗、国歌の必要性や日の丸・君が代への理解を共有し、それを大切に思う心を持つということである。
 
◆広く定着してはいるが
 法律では定めていなくとも、日の丸や君が代が国旗、国歌として国民の間に定着していることには、ほとんどの人が異存はないだろう。しかし、愛着だとか尊敬の念となると別である。
 いったい今、祝日に日の丸を掲げる家庭や学校、企業がどのくらいあるだろうか。胸をはって君が代を歌うという国民がどのくらいいるのだろうか。きわめて心細い限りだ。特に戦後教育を受けてきた若い世代ほど「無関心」の度合いが高いといっていい。
 昨年二月の長野冬季オリンピックで優勝した女子選手が、帽子をかぶったまま表彰式での君が代吹奏、日の丸掲揚に臨むというできごとがあった。また十一年前のソウル五輪では、修学旅行の日本の高校生だけが、優勝国の国旗掲揚中、起立もしなかったためひんしゅくを買ったことがあった。
 国際化の中で、各国が自国の国益や矜持を保ちつつ共存するための象徴となるのが国旗・国歌であり、自国や他国の国旗・国歌に敬意を払うことのできない国民は、国際的には失格であり、真の国際親善にそむくことになる。その意味で日の丸・君が代を容認するが敬意を払わないというのは憂慮すべきことなのだ。
 その要因のひとつは、一部日教組などによる学校での日の丸・君が代への敵視や拒否により、子供のころから尊敬するという習慣を持ち得なかったということがある。その意味で女子選手や高校生たちは被害者である。
 
◆歴史的背景の重い意味
 しかし、もうひとつの要因は日の丸・君が代の歴史的由来やその意味について何ら教えられなかったり、学んでこなかったことだ。
 日の丸についていえば、すでに八世紀前半、元日の朝廷での朝賀に「太陽をかたどった旗が掲げられた」という記録がある。
 その後、武門の誉れや正義の旗印に使われるなどの経緯を経て、幕末の安政元年(一八五四年)、薩摩藩主・島津斉彬の提言と、水戸藩の徳川斉昭の賛同を得た上で幕府が外国の船と間違われないように、日の丸を「日本総船印」に決定した。そして明治三年、新政府が太政官布告で各国に「国旗」として通告したという歴史がある。
 君が代については、明治二年、英国の軍楽長から「どこの国にも国歌が必要だ」という提言を受けた薩摩藩士が、和漢朗詠集などにあった「君が代は…」の歌を選び、最終的には宮内省の雅楽課が曲をつけてできあがったのである。
 この二つの経緯を通して、まず、日の丸も君が代も「明治の国づくり」に当たって、国際社会で恥じない国をつくろうとした努力の一環として制定されたことが分かる。いわば、先人たちが国づくりのために流した汗がしみこんでいるといっていい。
 また、国際社会に船出するに当たり、他国との摩擦を避け、理解を得るために制定されたということだ。こうした歴史を学ぶだけでも、自ずと日の丸・君が代への理解と敬愛の念は深まるはずだ。日教組などのいう「軍国主義の象徴」との批判は、一時期の不幸な歴史をことさらに日の丸・君が代に結び付ける論法であろう。
 特に、君が代の歌詞については「天皇が支配する世の中の繁栄を歌ったもので、主権在民に反する」という論議もある。しかし、日本という国は、二千年の歴史の大半は天皇が支配したのではなく、天皇を象徴として国民的な統合を保ってきたのである。だから「天皇を象徴としていただくこの国の弥栄(いやさか)を願った歌」であり、民主主義とも少しも矛盾しない。
 問題は各党やジャーナリズムが法制化への賛否を述べる前に、こうした歴史を持つ日の丸・君が代をどう受け止めているかである。
 法制化問題のきっかけを作った共産党の「法制化には賛成だが、日の丸・君が代には反対」という論や、「自主性に任せるべきだ」とする一部のメディアの意見には、日の丸・君が代に対する国民の関心をそらそうとの意図も感じられる。
 以上のような日の丸・君が代に対する見解を述べた上で、次回、法制化への意見を明らかにしていきたい。


 
 
 
 
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