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1998/12/28 産経新聞朝刊
【主張】教育再興 健全な国、健全な家庭を 先人の教えに学ぶ姿勢も必要
 
 今年一月から一年間にわたった本紙の「教育再興」シリーズが終わった。百三十六回に及ぶ連載は、いじめや対教師暴力、学級崩壊など教育現場の荒廃に苦しみながら、懸命に克服しようとする人たちの試みを紹介するとともに、戦後教育の欠陥も映し出している。それは、親や教師が「国家意識」「倫理観」「家族愛」といった大切な価値を子供たちに十分に教えてこなかったことである。
 戦後世代は連合国軍総司令部(GHQ)の政策もあって、国家意識が希薄になるような教育を強いられてきた。清貧や倹約、礼儀正しさといった日本人の美徳や、古き良き伝統まで捨て去ることが進歩的とされた。教職員組合は国旗(日の丸)・国歌(君が代)も否定した。その教え子たちが現在、“地球市民”などと称する根なし草集団を形成している。
 だが、自分の生まれ育った国をことさらに卑下し、国旗・国歌にも敬意を払わない人間は、逆に世界のどこからも尊敬されない。
 日本の歴史と文化の伝統に誇りを持ち、他国の歴史と文化にも理解を示す。自分を大切にしながらも、国家や社会、人類のために尽くす。時には、自己犠牲もいとわない。他国からの侵略行為には、国を守るため毅然として立つ。これが独立国家の国民が共通して持つ国家意識である。
 経済がいくら繁栄しても、最新の防衛装備がいくら整っていても、国民が国を思い、国を守る気概を持たなければ、国は滅びる。こうした普通の国家意識をはぐくめるような教育環境を一日も早く、取り戻すべきである。
 
◆急速に低下する倫理観
 子供たちの倫理観が急速に低下している。対教師暴力は一年間で倍増し、授業が成立しない学級崩壊は小学校にも及んでいる。家庭内暴力も深刻だ。街頭では、“援助交際”(少女売春)、“おやじ狩り”(少年強盗)がゲーム感覚で横行している。
 これは教育の三本柱である「知・徳・体」の中で最も大切な徳育を怠り、母性(優しさ)よりも父性(厳しさ)を軽視してきた“戦後民主主義教育”の結果といえないだろうか。
 かつては、子供の心に規範意識をはぐくむものとして、教育勅語と修身があった。教育勅語には君臣の関係規定も含まれているが、大半は「親孝行」「兄弟愛」「友情」「夫婦愛」「博愛」といった市井の人々に必要な美徳を説いている。修身の教科書は、二宮金次郎や上杉鷹山、吉田松陰、中江藤樹、ジェンナー、ナイチンゲールといった内外の偉人の伝記を通じ、「正直」「思いやり」「勤勉」「倹約」などの大切さを教えていた。いずれも、GHQによって廃止を余儀なくされた。
 昭和二十六年、天野貞祐文相は「個人」「家」「社会」「国家」の四章に分け、「自由」「責任」「正義」「廉恥」「公徳心」「愛国心」などを求めた「国民実践要領」を発表して徳育の充実を目指した。四十一年には、それをモデルにした「期待される人間像」が中央教育審議会から示されたが、教育現場には浸透しなかった。
 また、三十三年の学習指導要領改訂により、戦前の修身に代わるものとして「道徳の時間」が設けられたが、日教組(日本教職員組合)の反対闘争の標的にされ、形骸化の一途をたどった。今も週に一回、道徳の時間はあるが、進路指導や道徳とは無縁な授業に流用されているのが実情である。
 教育勅語や修身の教科書の中で、今でも通用する部分は有効に活用すべきである。天野文相の「国民実践要領」や中教審の「期待される人間像」は世界に出しても恥ずかしくない道徳の指針を示している。むやみに新しい価値観に飛びつくのではなく、先人たちの教えを謙虚に学び、それを次世代に伝える姿勢も必要である。
 
◆危機の今こそ家族愛を
 家族愛も戦後教育がなおざりにしてきたものの一つだ。個人主義も大切だが、家族が助け合うことはもっと大切だ。子供の権利やプライバシーを尊重するあまり、子供が個室を閉ざし、親が何も干渉できないようでは、家庭教育は成り立たない。母親が子供のことを考えず、ただ「女性の自立」だけのために離婚が流行(はや)るような社会も健全ではない。
 近年、米国の大統領は共和党と民主党でトーンの差はあるものの、就任演説や一般教書で必ず家族の絆の大切さを訴えている。離婚率が五組に二組と欧州一高い英国でも、妻と三人の子供に囲まれた労働党のブレア首相の姿が人気を支えている。
 家族は社会の最小単位である。欧米諸国で「家族の価値(ファミリー・バリュー)」が見直されている現実を、日本の社会がさまざまな危機に囲まれている今こそ、真剣に考えてみる必要があろう。


 
 
 
 
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