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1998/09/21 産経新聞朝刊
【主張】「道徳」公開授業 家庭・地域との連携が大切
 
 学校・家庭・地域社会の連携による「道徳」の公開授業が、東京都内の小中学校で始まり、関心を集めている。中央教育審議会(中教審)の「心の教育」に関する答申(今年六月)を受け、道徳教育を学校だけでなく家庭や地域社会にも担ってもらおうという狙いで計画されたものだ。
 トップを切った千代田区立九段小学校では、国連児童基金(ユニセフ)の活動を題材に、国際理解や開発途上国への協力について考える授業が行われた。児童らは途上国の子供たちを映したビデオに見入り、先生が「日本も敗戦後、ユニセフの援助を受けた。私も援助された給食を食べて育った」と説明、児童たちは「今度は、日本が恵まれない人たちを助ける番だ」「自分も募金したい。同じ仲間だから」などと意見や感想を述べ合った。
 道徳授業としては非の打ちどころのない内容といえる。公開授業は参観者の目を意識し、理想に近い内容となりがちだが、先生たちはふだんの「道徳の時間」でも、緊張感をもって当たってほしい。
 道徳教育の実態は、こうしたモデル授業とは大きくかけ離れている。今年四月末から五月にかけて、文部省が広島県の公立小中学校を現地調査したところ、週一回の道徳の時間のない学校が四十三校に上った。その多くは時間割で「道徳」を「人権」や「M(モラルの頭文字)」に名称変更しており、国旗・国歌に反対する「人権学習指導案」の存在も明るみに出た。「道徳の時間」を“反日教育”の場としている学校は、広島県以外にもかなりあるとみられている。「進路指導の時間」に流用している学校も多い。
 戦前は、古今東西の偉人の伝記などを教えた「修身」という教科があった。敗戦後、連合国軍総司令部(GHQ)によって禁止され、昭和三十三年、「道徳」が設けられた。だが、日教組(日本教職員組合)などの反対で政治闘争に巻き込まれ、形がい化の一途をたどった。それが今日の「弱い者いじめ」「対教師暴力」「学級崩壊」「ナイフ事件」といった教育現場の荒廃を招いている−という指摘もある。
 教育は「知・徳・体」の三本柱から成り立っている。そのなかで「徳育」を怠ってきたのが“戦後民主主義教育”ではなかったか。有名大学への合格率を高めることや野球部を甲子園に行かせることも大事なのだろうが、それよりも、「人間、あるいは日本人として最も大切なことは何か」を教えるのが、教育者の使命ではないか。このことを、学校も家庭も地域社会も肝に銘じてほしい。


 
 
 
 
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