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1998/02/05 産経新聞朝刊
【主張】心の教育 親の無責任は許されない
 
 中央教育審議会の「心の教育」に関する小委員会(座長・木村孟東京工大前学長)は、家庭でのしつけやルールづくりなど家庭教育に重点を置いた座長骨子案を発表した。これまで学校に頼りがちだった家庭のあり方を問い、自由放任主義を戒めている。
 この骨子案は三月にまとめられる中間報告、六月に発表予定の最終答申のたたき台となるものだ。栃木県黒磯市の教諭刺殺事件や東京・亀戸の警官襲撃事件など、中学生のナイフを使った犯罪が相次いだことから、時期を早めて発表された。
 最大の特徴は、家庭のしつけの問題に大きく踏み込んだことだ。しかも、「幼児期から家事を担わせ、責任感や自立心を」「朝の『おはよう』から始めて、礼儀を身につけさせよ」「モノの買い与え過ぎをやめ、我慢を覚えさせよ」「電車で老人に席を譲る習慣を」などと、具体的に提言している。
 いずれも、ひと昔前の家庭では常識だったことばかりだ。こうしたしつけを怠ると、親が学校や地域社会からしかられた。だが、家庭の教育力の低下に伴い、当然のしつけが家庭で行われなくなった。少年非行の凶悪化・低年齢化の原因も、多くは家庭でのしつけがなっていないことにある。そうした無責任な親たちに反省を迫った木村座長ら委員の見識を高く評価したい。
 骨子案は家庭のあり方として「父親の影響力の大切さ」もうたった。以前は、しつけはむしろ父親の役割だった。今の忙しすぎる父親には、昔ほど子供と接する時間がないかもしれないが、時間が問題ではない。子供が悪いことをしたら、母親の手に負えなくても、父親が帰ったらしかられる−という存在感を示す必要がある。
 今回の骨子案のもう一つの特徴は、道徳教育の見直しを打ち出した点だ。戦後の連合国軍総司令部(GHQ)による教育改変の過程で、修身や教育勅語が全面否定されていった。昭和三十三年から道徳の時間が創設されたが、日教組の反対などで政治闘争に巻き込まれ、多くの学校では授業自体が形がい化している。最近では、広島県福山市の学校で「道徳」の授業名を「人権」に変え、学習指導要領を逸脱した授業が行われていたことも明らかになった。
 骨子案は道徳教育について家庭教育ほど具体的な提言は行っていないが、戦後だけでも、天野貞祐文相の「国民実践要領」(二十六年)や中教審の「期待される人間像」(四十一年)など有意義な提言がある。こうした先人たちの残した言葉を参考に、道徳観を根本から立て直す必要がある。


 
 
 
 
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