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1994/07/08 産経新聞朝刊
【主張2】高校改革の理念を見失うな
 
 高校教育はいま、多様化に向かっている。それは個性尊重・創造性重視の教育を目指すもので、高校改革の柱である。制度の改革では、自分の興味や関心、適性に合う科目を選んで学べる総合学科の設置、単位制高校の拡大、新しいタイプの学校の設置、他の高校での学習を単位に認める高校間連携などがある。入試も推薦入学、受験機会の複数化、傾斜配点、調査書の充実など、と多様・多元化に動いている。
 このような施策が全国の公立高校でどの程度取り入れられているのだろうか。文部省の各都道府県教育委員会へのヒアリングでは、多くの自治体から積極的な取り組みが報告されたという。だが、その中身をよく見ると、満足できるものではない。また、今月初めの日教組大会では、文部省・県教委主導の高校改革への反発が目立ち、改革へ向けた教育現場の主体的な取り組みはほとんど示されなかった。
 文部省のヒアリング結果によると、たとえば、総合学科を来年から設ける予定にしているのが七県七校とは寂しい。総合学科は改革のパイオニア的役割を担っているはずだ。自治体も学校も、この学科をもっと積極的に評価してよいのではないか。普通科、専門学科に次ぐ「第三の学科」としての位置付けでは新たな序列化を招く恐れがあるのも確かだ。それなら、総合学科一本化への再編を目指すべきだろう。これによって総合制という高校本来の姿に近づけるのではないか。
 単位制高校の全日制への拡大や学校間連携もテンポがのろい。専修学校での学習の単位認定はようやく来年度から実施される見通しだが、導入を検討しているのは五県だけと低調である。
 制度の多様化とともに、社会変化に対応する教科、科目のリストラを急がなければならない。そのために多様な教科・科目を設けるのはよい。だが、それが雑多な知識の詰め込みにつながってはならない。情報、知識がはんらんする時代であれば、系統立った知識習得と思考型の学習が大事である。
 入試改革では、生徒を多面的にとらえ、評価するという基本的な方向性が今年の入試で定まったといえよう。ただ、観点別学習状況やボランティア活動などの評価をめぐっては模索の段階だ。日教組大会では、この評価そのものを否定する意見があった。問題が多いからやめるというのでは改革は進まない。理念を生かした望ましい評価方法を目指して知恵を絞ってほしい。
 現場からの改革なくしては真の改革は期待できない。


 
 
 
 
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