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1993/02/13 産経新聞朝刊
【主張1】総合学科で高校は変わるか
 
 高校教育改革のパイオニア的な役割を担って総合学科が来年四月から全国で誕生することになる。この学科では生徒は、いまの普通科、職業学科といった枠にとらわれず、たくさんの選択科目の中から、自分の興味や関心、適性に合うものを選んで学習できる。つまり豊富なメニューから好みのものが自由に選べるわけだ。というものの、高校生としての必修科目と学科原則履修科目は外せない。
 多様な科目を設けるといっても、一つの高校には限界がある。そこで、学校同士の連携のほか、専修学校での学習や技能検査の成果の単位認定が行われる。もちろん学年制をなくした単位制のため、中途退学のあと再び就学する「乗り降りの自由」がある。
 高校教育で大事なのは、将来どんな課題に出くわそうとも、主体的に対処し、創造性が発揮できる能力の基礎を養う教育である。それには十分な基礎科目と多様な選択科目が必要だ。その意味では、高校は総合学科一本であるのが望ましい。
 総合学科についての最終報告をまとめた文部省の高校教育改革推進会議は「専門的な能力とともに、普遍的で根源的な人間理解・文化理解に立って、物事を総合的に理解する能力が求められている」と、その必要性をうたい、内容を説明している。しかし、学科の中身は、職業学科に傾斜したもので、本来あるべき総合学科には程遠い。
 また、生徒の自主性を第一に考えた学科になっているが、系統学習への学校側の指導が十分でないと、生徒はやすきにつき、勝手気ままな偏った学習に陥る恐れがある。
 このように総合学科の位置付け、中身には不満が残る。だが、国による総合学科の制度化で高校教育の多様化に拍車がかかるのは確かだろう。都道府県教育委員会や各高校はそれぞれ知恵を出し合って望ましい学科像を探ってもらいたい。
 いずれにせよ、総合学科には興味や関心、適性の異なる生徒が学ぶことになるから、選抜の方法や尺度も多様でなければならない。知識の量や記憶力だけでなく、思考力や判断力、学ぶ意欲やボランティア活動など生徒の多様な能力、成果を評価することが大切だ。これはすべての学科にいえることである。偏差値教育から抜け出さない限り、総合学科が誕生しても、高校の序列化は打破できないだろう。
 さらに、大学入試が改善されないと、総合学科開設に伴う高校教育の本当の多様化は進まない。


 
 
 
 
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