問題があると分かっているものでも、便利だから利用する。そのうちにあまり疑問も抱かなくなり、むしろそれへの依存が強まる−。学校と業者テストの関係がこれにあたる。業者テストは全国の大半の中学校で実施され、このテストによる偏差値で振り分ける進路指導がはびこり、最近では私立高校による受験生の“青田買い”に使われている。かなりの数の私立高校が十二月ごろ行われる中学側との事前相談の際、九月から十一月にかけてのテストの偏差値を主な判断材料にし、推薦入試の合否を決めているという。
しかし「偏差値偏重の早期の進路決定となり、中学教育に悪影響を及ぶす」と文部省の高校教育改革推進会議は八月、私立高校、中学校双方に自粛を求めた。また、総務庁は九月、行政監察結果を発表し、業者テストの実施状況を把握するよう文部省に勧告した。こうした中、埼玉県教委は先月、業者テストの偏差値結果を二学期中は公立中学から私立高校に提供しない方針を決めた。しかし、私立高校側の反発は強く、県教委の説明会への出席を県内外の大半がボイコットした。「客観的な偏差値で早く進路を決めるのなぜ悪いのか」「すべての中学校を公平に扱わなければならない。偏差値を埼玉だけ使わないわかけにいかない」「趣旨は理解できるが、性急すぎる」などと言い分はさまざまだ。
業者テストは実施日が学校によってまちまちなため、問題が漏れる、という欠点も以前から指摘されている。客観的で公平なテストとも言い切れない。自分の教え子の進路を業者の指導に頼るようでは学校として情けない。といっても学校だけの責任ではない。客観性、公平性の名の下に点数至上主義がまかり通っていることに最大の問題がある。知識中心の学力を測るだけなら点数化による客観性が得られるが、創造力や判断力、学習意欲や個性など子供の多様な能力を見るには、さまざまな方法と物差しが必要である。
偏差値偏重は私立高校の推薦入試に限ったことではない。偏差値で機械的に進学先が割り振られ、希望とは違う高校に入って意欲を失う生徒も多い。偏差値による高校のランク付けが徹底し、差別感を生むいまのに入試の弊害は一日も早く解消しなければならない。業者テストの一掃に向けて全国的な取り組みが必要ではないか。
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