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2004/03/01 読売新聞朝刊
[社説]国旗・国歌 卒業式も国際的標準を視野に
 
 様々な国旗がある。十字架、新月など、宗教的なシンボルを取り入れている国も、少なくない。星条旗はアメリカの歴史を体現している。
 国歌も多様である。イギリスの「ゴッド・セイブ・ザ・クイーン(神よ女王を守りたまえ)」など、神や君主をたたえる歌もあるし、建国の理念や歴史、自然を歌い上げるものもある。
 日本では、尊重されるべき国旗、国歌をめぐる対立が激しかった。卒業式や入学式で国旗、国歌をどう扱うのか学校では毎年、論議が交わされる。
 今年の卒業式を控え、東京都教育委員会が国旗、国歌の取り扱いについて出した通達が、波紋を広げている。
 「国旗は会場の舞台正面に掲揚する」「会場は児童・生徒が正面を向いて着席するように設営する」など、細かな手順を規定しているためだ。
 これに対し、高校教師らが、通達に従う義務のないことの確認を求める訴えを東京地裁に起こした。
 確かに、細か過ぎる縛りだが、そうせざるを得ない実態が、学校にはある。
 学習指導要領には、教師は、国旗、国歌の意義を子供に理解させ、卒業式、入学式では、国旗掲揚、国歌斉唱を指導する義務のあることが明記されている。
 にもかかわらず、日教組系教師らの反対運動は強く、一九九九年には広島県立高校の校長が自殺する事件が起きた。これをきっかけに、国旗・国歌法が定められ、いま実施率は100%近い。
 問題は実施方法だ。卒業生と在校生が対面して着席する「フロア形式」にし、その形態を理由に、国旗を三脚に固定し会場の隅に置く学校が少なくない。
 「子供が主人公の式」との主張からだが、反対派教師が、国旗掲揚の趣旨を薄めようとして実施することが多い。
 通達は、そうした搦(から)め手からの“妨害工作”を防ごうとするものであり、やむを得まい。式典は、国旗を正面に掲げた会場で、厳粛に実施したい。
 日本では、戦前の軍国主義体制への嫌悪感などから、国家について突き詰めて考えることを避け、国旗、国歌への態度も曖昧(あいまい)にする傾向が続いてきた。
 先進諸国は共通して、学校での国旗、国歌教育を重視している。アメリカでは法律で、学校などの公的機関に国旗を掲揚することが定められている。自分たちの歴史や文化、アイデンティティー(自己同一性)を確認し、国の将来を構築していく意志を示すためだ。
 国旗、国歌を通じ子供に精神的な支柱を形成する取り組みが、グローバル化が進む今、以前にも増して重要だ。

 
 
 
 
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