2003/10/08 読売新聞朝刊
[社説]学習指導要領 「志」を育てる教育が必要
間違いを認めず、言い訳を重ねた末の、「訂正」である。
文部科学省が、昨年から順次実施している学習指導要領を一部改訂することを発表した。
学力問題を検討していた中央教育審議会の答申を受けた措置だ。
答申は、教える内容を制限した「歯止め規定」の見直し、指導要領を超えた指導も可能だとする「指導要領の基準性」の明示などを求めている。
いずれも文科省の通知などにより、学校では既に実施されていることだ。改訂は、現実の後追いである。
だが、通知とこれまでの指導要領とのあまりの食い違いに、教員には「一体、何が求められているのか」と戸惑いがあった。指導要領の改訂を、学校現場の混乱解消の契機とすることが必要だ。
迷走を続けた文科省の責任は重い。教える内容を大幅に減らした指導要領によって学力低下論議が起きると、「指導要領は教える内容の最低基準」と主張して批判をかわそうとした。その後も、弥縫(びほう)策を重ねてきた。
改訂は、「指導要領を改訂しない限り方針転換ではない」としてきた文科省が現実と指導要領との矛盾を認めた、事実上の敗北宣言とも言える。痛切な反省が求められる。
文科省の教育行政に対する不信感が広がるにつれ、地方自治体による独自の学力向上策が目立った。教員の増員、少人数学級の実現、学力試験の実施とその結果の公表などが相次いだ。
学習意欲は、体験だけでなく、基礎学力の上に生まれること、子供に学力の二極化現象が起きていることなど、学力に関する研究も進んだ。こうした地道な取り組みを大切にしたい。
かつての受験過熱時代に、「知識、理解」が強調され、その反動で「思考力、判断力、表現力」などを重視する学力観が生まれ、指導要領の背景となった。どちらか一方であってよいはずはない。
読売新聞は二〇〇〇年十一月の教育改革提言で、子供に基礎学力を徹底してつけさせ、その上で一人ひとりの可能性を伸ばす教育を訴えた。そうしたバランスのとれた教育の定着を期待したい。
日本の子供たちの学習意欲が乏しく、家庭での学習時間も少ないことが、国際比較調査で明らかだ。学習意欲を取り戻すには、子供たちが自分の進路を明確に描き、それに向けての学習の大切さを理解することが不可欠である。いわば「志」を育てる教育が大切だ。
「志」を育てるには、社会とのかかわりを考えることも必要となる。学力問題を、幅広い視点でとらえたい。
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