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2002/04/10 読売新聞朝刊
[社説]教科書検定 文科省の場当たり主義が問題だ
 
 これで、教科書が本当に「主たる教材」としてふさわしいものになるのか、危惧(きぐ)を抱かざるを得ない。
 主に高校低学年を対象にした教科書の検定が終わった。新学習指導要領が来年度、一年生に実施されるのを控えての大改訂だ。
 文部科学省は、検定最中の昨年八月、突然、検定申請した原稿本の内容に、科目によっては、指導要領を超えるものに書き改めることを、認める方針を教科書会社に示した。
 教科内容を削減した新指導要領に沿って、昨年の小中学校の教科書検定では、記述内容に強い規制をかけたため、「学力低下を招く」との批判を受けたことによるものだ。
 重大な方針転換だった。しかし、指導要領を超える内容に書き改めた教科書会社は皆無だった。
 教科書編集の作業はその前年から行われており、書き換えが時間的に間に合わなかったことがある。同省の真意をつかみかね、踏み切ることができなかった社も少なくなかった。教科書会社を戸惑わせた、同省の場当たり的な方針転換は厳しく問われなければならない。
 教科書は依然として、生徒が学ぶ中心的な教材である。一斉授業のための共通教材としてだけでなく、生徒が自分で学ぶ学習材としての役割も期待される。内容にも十分な配慮が必要だ。
 「指導要領は最低基準」と同省が方針を改めたことで、記述内容の水準についての論議を呼び起こすことは当然、想定されなくてはならなかった。
 その結果として、不十分な教科書編集となれば、被害を受けるのは、生徒や教師だ。高校教科書は二、三年と順次、改訂されていくため、同じ生徒が一年では従来通りの編集による教科書で、二、三年では異なる編集方針の教科書で学ぶことにもなりかねない。
 同省は指導要領の範囲を超える記述の分量などについて、教科用図書検定調査審議会の討議にかけることもなく提示した。今年になって、検定方針見直しの検討を同審議会に委嘱したが、逆転行政の典型である。
 すべて、文科省の方針転換が遅れたことのツケが回った形だ。同省の重大な失政と言わざるを得ない。指導要領を最低基準としたこと自体、どれだけ定見があったのかとの疑念まで生んでしまう。
 教科書審議会には、教科書のありかたを一から論議し直し、生徒に発展的な学習を促す内容とする工夫を望みたい。それが、混迷する学力問題に確かな展望を切り開く道でもある。

 
 
 
 
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