2002/01/06 読売新聞朝刊
[自由席]学力低下 公立校の努力が必要だ
この春から、学校が大きく変わる。小、中学で教科内容を三割カットした新学習指導要領が導入され、現在月二回の週五日制が高校を含めて完全実施される。
今度の指導要領ほど、是非をめぐって論議されたことはない。その内容が公表された際、理数系の研究者から「子どもの基礎学力が低下する」と反対の声が出た。さらに、大学生の学力低下がクローズアップされ、一層の低下を招くと、反対論に拍車をかけている。
これに対し、文部科学省は学習指導要領が共通して教える最低基準であり、一部を削減することで時間の違いはあっても全員が理解できるようにしたと反論した。
当然、できる子どもには、学校が工夫し、指導要領の内容を超えて教えていいとする。これまで行われていた公立学校の画一的な教育を改めるというのである。
公立同士、公私立間で競い合うことは必要であり、新指導要領の柱ともいえる総合的な学習の時間も、学校がうまく使えば子どもの考える力をはぐくむだろう。
しかし、それも子どもにしっかりした基礎学力があって可能である。心配なのは、五日制の完全実施で授業時間が減ることだ。
ゆとり教育、教科内容の削減といった一連の流れは、受験競争に伴う詰め込み教育を緩和するとされているが、教員の勤務条件を改善し、週休二日制を実施するという狙いがどこか見え隠れする。
全員が理解できるようにと、学校で教える最低基準の教科内容を削減しても、同時に授業時間を減らしてしまっては、わからない子どもは理解できないままだろう。そして、結果として全体のレベルでも、深刻な学力の低下だけが残るということになりかねない。
本来、子どもの学力をどうするかという問題と、教員の勤務条件は分けなければならないのに、一緒にしたための混乱である。
東京都などの調査では、首都圏の私立中学のうち、今春から完全五日制を実施するのは、全体の半数以下にとどまるという。
六日制を維持するのは中高一貫の進学校が中心で、「五日制では結果的にゆとりが失われる」「大学受験は変わらないのに、授業時間を減らせない」としている。
文科省は都道府県を通し、私学側に協力を要請しているが、強制力はない。大阪府は休みとした土曜日に公開講座などを行った私立学校に対して補助金を出し、五日制の実施を求めている。
にもかかわらず、58%が導入しない見込みで、愛知など東海三県では、四割以上が見送るという。土曜日に授業を行うことで公立学校との違いをはっきりとさせ、学力低下を心配する親の心をつかもうという私立学校もあり、公立離れが進む可能性が強い。
基礎学力を低下させず、総合学習といった新指導要領の目的が達成されるよう、公立学校は授業時間の確保や指導方法に一層の工夫と努力をしたい。能力別の指導を積極的に取り入れ、自治体の裁量でできるようになった少人数クラスを実現していきたい。
漫然と五日制を受け入れるだけでは、学力の“公私格差”が広がり、父母の信頼は得られない。
論説委員 永井 芳和
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