2001/11/28 読売新聞朝刊
教育基本法見直し、中教審でスタート 慎重さ目立つ諮問(解説)
◆タブー視しない姿勢を
教育基本法見直し論議が、国の文教政策の基本方針を定める中央教育審議会(中教審、文部科学相の諮問機関)でスタートした。(政治部・赤津良太)
教育基本法は一九四七年、日本国憲法の精神に基づき、戦前の教育勅語に代わる教育理念として制定された。憲法との密接な関係ゆえに、これまでは見直し論議すらタブー視されてきた経緯がある。それだけに、今回初めて中教審で議論する意義は大きい。
諮問は、教育改革国民会議(首相の私的諮問機関)が昨年十二月の最終報告で、教育基本法見直しに向けた国民的論議と合意形成の必要性を訴えたことを受けて行われた。同会議では、見直しの観点として〈1〉家庭教育の重要性〈2〉伝統・文化の尊重〈3〉財政的な裏付けとなる教育振興基本計画の策定――などを指摘した。背景には、相次ぐ青少年による凶悪事件、学級崩壊や学力低下問題など、教育をめぐる現状への強い危機感があった。「あるべき日本人」の姿を提示するとともに、家庭、学校、地域社会の教育力を高めることが狙い、と受け止められた。
しかし、二十六日の中教審総会で、遠山文科相は「(同法)前文や(教育の目的・方針を示す)一、二条の普遍的な理念は維持しつつ」と述べ、同法のまさに中核部分の見直しに慎重と受け取られる発言をした。さらに、同時に諮問した教育振興基本計画の策定に関する審議を先行させるよう求めた。
同法改正に意欲を見せた森前首相のもと、当時の町村信孝文科相が「新しい法律を書く思いで取り組む」と全面改正を強調していたのと比べると、諮問内容は明らかに後退した。
遠山文科相の慎重姿勢には、憲法改正論議と絡んだ改正をめぐる意見対立への配慮がある。
とくに、小泉内閣の一翼を担う公明党が、支援母体の創価学会の意向を反映し、改正に消極的なことが大きい。同党の池坊保子文科政務官は、国会で「教育基本法を変えたら教育現場が良くなると考えるのは、あまりにも早計ではないか」と答弁した。また、日本教職員組合は二十六日、「憲法の改正手続きを事実上スタートさせることだ」との批判談話を発表した。
その一方、自民党の一部では改正論議が今月に入って活発化し、二日には参院政策審議会に教育問題委員会が発足、中曽根元首相は二十六日のパーティーで「憲法改正というからには、教育基本法を改正しなくてはならない」との持論を展開した。
こうした状況を踏まえれば、教育振興基本計画の審議を先に進めるよう諮問したのは、政争の渦に巻き込まれるのを避け、見直し論議を中教審のテーブルに乗せるためには、やむを得なかった面もある。
とはいえ、制定から半世紀以上を経て、同法を取り巻く環境は激変し、人材育成の指針の喪失が取りざたされている。小泉内閣のモットーが「聖域なき構造改革」である以上、中教審も教育基本法改正論議をタブー視せず、不備や課題を整理した上で、見直すべきは見直す姿勢を求めたい。
【教育基本法見直しに関する主な出来事】
1956年2月
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鳩山内閣が同法改正表明。審議のための臨時教育制度審議会設置法案は廃案
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66年10月
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佐藤内閣の中央教育審議会答申で別記「期待される人間像」が実質的な同法改正として批判を受ける |
84年8月 |
中曽根内閣が同法改正に向けて首相直属の臨時教育審議会設置。「同法の精神にのっとり」の一文が設置法に盛り込まれ、実質的な改正論議は断念 |
87年8月 |
臨教審最終答申で同法の継承・発展と実践的な具体化に言及 |
2000年1月 |
小渕内閣が首相の私的諮問機関の教育改革国民会議設置 |
12月 |
同会議最終報告で同法の見直しに向けた国民的議論の必要性を提言 |
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