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2000/03/16 読売新聞朝刊
教育改革国民会議始動 政権浮揚狙い、小渕首相意欲 人選、文部省色にじむ
 
 小渕首相の私的諮問機関「教育改革国民会議」の委員二十六人が十五日決まり、小渕内閣が「最重要課題」と掲げる教育改革の論議がいよいよ始動する。首相直属で教育問題を議論する機関ができるのは、中曽根内閣が設置した臨時教育審議会(臨教審、八四―八七年)以来十三年ぶり。首相は、国民会議の議論を通して教育問題への積極姿勢を示すことで、失点続きの政権の浮揚につなげたい考えだ。(本文記事2面)
 
■何を議論するのか■
 「戦後教育について総点検するとともに、現在の教育の問題がなぜ起こっているかについて、教育の基本にさかのぼって議論していただきたい」
 首相は十五日、読売新聞のインタビューの中でこう持論を展開した。
 国民会議では、学級崩壊やいじめ、不登校といった教育現場が抱える様々な問題への対応策に加え、長期的な教育改革の展望が議論される見通しだ。文部省の中央教育審議会(文相の諮問機関)が三十四回、臨教審も四回、過去に答申を出している。にもかかわらず、教育現場が改善されない点を考慮し、国民会議では、「学校だけでなく、社会全体を変えていく議論をしていく」(首相周辺)という。
 しかし、具体的なテーマが決まっているわけではない。首相と中曽根文相は一月末に連名で有識者約百八十人に「教育百年の計についての考えを賜りたい」と手紙でテーマを募集した。この返答の中から考えているのが実情だ。
 「首相はボトムアップの議論を期待している」(中曽根文相)とも言えるが、「一国の宰相が内閣の最重要課題として教育問題に取り組む時に、テーマも決まらないのでは話にならない」(文相経験者)と、首相の“真空”ぶりを批判する声もある。
 
■臨教審との違いは■
 教育改革国民会議の最大の特徴は、小渕首相の私的諮問機関になる点だ。
 臨教審は設置法に基づいた、いわば正式の審議機関だった。臨教審が三年間で六年制中等学校、共通テスト、秋季入学など多くの提言を出したものの、「期待外れ」と言われるのは、設置法で「教育基本法の精神にのっとり」という「足かせ」をはめられたため、義務教育年限、六・三・三・四制など抜本的な改革論議に踏み込めなかった、という指摘が根強い。
 こうした反省から、首相は、町村信孝首相補佐官(元文相)を国民会議の事務局役として起用し、政治主導で改革論議を進める意向だ。
 ただ、臨教審が設置されていた期間は中教審が休眠させられたのに対し、今回は、中教審でも別のテーマを国民会議と並行して議論することになっており、調整が必要になる。
 
■委員をどう選んだか■
 人選に当たっては、町村氏が十五日の記者会見で「多忙を理由に辞退者も出た」と述べたように苦労したようだ。
 首相は「教育改革を国民運動にまで高めるため、国民受けする人事にこだわった」(首相周辺)。河合隼雄氏や司馬遼太郎氏の短編「故郷忘じがたく候」に登場する陶芸家の沈寿官氏、臨教審で個性的な意見を多く述べた曽野綾子氏は首相が強く推した人物だ。
 一方、ノンフィクション作家の立花隆氏、女優の紺野美沙子氏らにも就任を打診したものの固辞された。
 このため、委員二十六人は、文部省が昨年十月末、首相官邸に提出した五十人の名簿原案に「大半が入っている」(政府筋)結果となった。
 日経連から河野俊二・東京海上火災保険会長、公明党が推した学者が加わるなどしたほかは、事実上文部省が人選した形だ。
 文部省の中教審の委員経験者(現職も含む)も九人含まれている。臨教審(委員二十五人)が中教審経験者五人で発足したのに比べるとその比率が高いことから、「従来の中教審の論議の枠を踏み出せないのではないか」(文相経験者)との指摘もある。
 国民会議の委員の平均年齢は、臨教審(五十九・六歳)よりやや高い六十・七歳。「首相は当初、若い人で固めようという考えだったが、政党の推薦などを取り込んでいったら(平均年齢が)上がってしまった」(文部省)という。
 
〈教育改革国民会議委員名簿〉(敬称略。◎印は座長)
氏名 肩書 年齢 備考
◎江崎玲於奈 茨城県科学技術振興財団理事長 75 ノーベル賞受賞、前中教審委員
浅利慶太 劇団四季代表 66 元中教審委員
石原多賀子 金沢市教育長 53 前中教審委員
今井佐知子 山口県PTA連合会長 41 会社役員
上島一泰 日本青年会議所会頭 39 委員で最年少
牛尾治朗 ウシオ電機会長 69 前経済同友会代表幹事
大宅映子 ジャーナリスト 59 著書「どう輝いて生きるか」
梶田叡一 京都ノートルダム女子大学長 58 著書「真の個性教育とは」
勝田吉太郎 鈴鹿国際大学長 72 著書「知識人と自由」
金子郁容 慶大教授 51 慶応幼稚舎長
河合隼雄 国際日本文化研究センター所長 71 中教審委員
河上亮一 川越市立城南中教諭 56 著書「学校崩壊」
木村孟 学位授与機構長 62 前東工大学長、中教審委員
草野忠義 連合副会長 56 元中教審委員
グレゴリー・クラーク 多摩大学長 63 元オーストラリア外交官
黒田玲子 東大教授 52 著書「生命世界の非対称性」
河野俊二 東京海上火災保険会長 72 日経連副会長
曽野綾子 作家 68 元臨教審委員
田中成明 京大教授 58 著書「法理学講義」
田村哲夫 渋谷教育学園理事長 64 中教審委員
沈寿官 薩摩焼宗家第十四代 73 韓国名誉総領事
浜田広 リコー会長 66 日経連副会長
藤田英典 東大教授 55 著書「教育改革」
森隆夫 お茶の水女子大名誉教授 68 中教審委員
山折哲雄 京都造形芸術大大学院教授 68 前中教審委員
山下泰裕 東海大教授 42 ロス五輪柔道金メダリスト
 
〈臨時教育審議会の提言の経緯〉
1985年6月 第1次答申 個性重視の理念を掲げる。6年制中学(現在の中高一貫校)、共通テスト(現在のセンター試験)
1986年4月 第2次答申 教育の地方分権・規制緩和を推進。教員の初任者研修制(現在の洋上研修、長期研修)
1987年4月 第3次答申 生涯学習の理念を掲げる。通学区域の緩和(2000年度から一部地域で)、幼稚園・保育園の一元化(進展せず)
1987年8月 第4次答申 秋季入学を将来目標に(移行に伴う膨大な財政問題から棚上げ)

 
 
 
 
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