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1999/10/11 読売新聞朝刊
[社説]自由選択制で学校は変わるか
 
 公立小学校の自由選択制が東京・品川区などで始まる。保護者の評価にさらすことで、学校改革を一気に進めるのが狙いだ。果敢な実験として今後を見守りたい。
 品川区は区内四十の小学校を四ブロックに分け、来年春の入学予定者からブロック内の好きな学校を選べるようにする。東京・日野市でも、再来年から小中学校で同様の自由選択制を導入する。
 品川区教委は導入の目的を「学校を変えたい。ただその一念」と説明している。より多くの保護者に選ばれようとして、学校間に競争意識が生まれる。それが何よりの改革圧力になるという。
 保護者の側でも学校への関心が高まる。与えられた学校ではなく、自分で選び取った学校だから、入学後も注文をつけやすいだろう。さらに地域からも、地元の学校の消長がかかっているとなれば、様々な意見が出てくるかも知れない。
 公立校は、その横並び意識や閉鎖性、硬直性が子どもたちの個性的な成長を妨げていると、しばしば指摘されてきた。確かに自由選択制の導入は、保護者や地域と一体になって、そんな公立校の体質を変えるきっかけになる可能性がある。
 通学区域の自由化については、十年以上前の臨教審以来、各種の審議会で何度もその必要性が指摘されてきた。しかし文部省は、通学校を市町村教委が指定し、変更は保護者の申し立てを受けて許可するという法令上の仕組みを維持した上で、その弾力運用を促すにとどまっている。
 アメリカでは、連邦政府のリーダーシップで進む教育改革のなかで、半数以上の州で学校選択制度が導入されている。
 日本でも、学習指導要領の内容をできるだけ減らし、その分、総合学習などで学校の個性を打ち出す方向で教育改革が進んでいる。個性化した学校の中から自分にあった学校を自由に選べないのでは、個性の押し付けにもなりかねない。
 自由選択制は現在進む教育改革の当然の帰結と言わなくてはならない。導入するしないは市町村教委が地域の実情に即して判断するとしても、「申し立て」と「許可」という指定変更の枠組みは、見直していい時期かも知れない。
 ただし、自由選択制の導入には欠かしてはならない前提条件がある。それは情報開示だ。品川区のように学校を区民に開放するのも方法だが、保護者が学校を選ぶ際に目安になる情報は多ければ多いほどいい。工夫のしどころだ。
 自由選択が結果的に学校の序列化を招くのではないかという懸念も強い。しかし、各学校が高いレベルでそれぞれの個性を競い合えば、一つの価値観で序列化しても何の意味もないことになろう。
 選択の結果で特定の学校が切り捨てられるようなことも許されない。すべての学校が一定の「品質」を保てるよう支援するのは行政の当然の務めだ。
 学校現場や保護者の間に不安があるのは理解できる。しかし、この実験にはそれでもあえてやってみる価値がある。

 
 
 
 
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